インダストリアルディレクターらが最新の取り組みを報告
Shippioは3月2~3日、オンラインで大規模なカンファレンス「Logistics DX SUMMIT2023」を開催した。
国際物流とDXをメーンテーマに設定。登壇者は物流業界に加え、シンクタンクやロボットメーカー、大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなど様々な領域から知識や経験が豊富なメンバー30人以上が集まり、物流業界が直面する人手不足やデジタル化の遅れなどの諸課題にどうやって立ち向かうか、処方箋について活発に意見交換した。
ロジビズ・オンラインでは、各セッションを順次、詳報している。第8回は3月3日に開かれた「Google Cloudを活用したサプライチェーンと新しい物流の未来」と題したセッションのやり取りを報告する。
米グーグルが展開しているクラウドサービス「Google Cloud(グーグルクラウド)」の藤沢賢二サプライチェーンインダストリーディレクターと、勝谷北斗日本・北アジア営業統括(Geo Enterprise)が登場。クラウドサービスを活用し、日本の荷主企業や物流事業者が大きく動く世界情勢によりグローバル規模のサプライチェーンが影響を受けている現状に対応できるようサポートしている姿を紹介した。
さらに、より具体的なソリューションとして、地図情報を生かし、ラストワンマイル配送のルート最適化に注力していることに言及。温室効果ガス排出削減にも貢献できるよう取り組みを加速させている点をアピールした。データを最大限活用してサプライチェーンの強靭化を果たしていく「データドリブン」の重要性を強く訴えかける内容となった。
セッションに臨んだ藤沢氏(左)と勝谷氏(以下、いずれもオンライン中継画面をキャプチャー)
需要予測や在庫調整など4つの重要項目を実現
セッションは冒頭、藤沢氏がグローバルサプライチェーンを取り巻く環境の変化について解説。トラックドライバー不足、世界の電力需要増に伴うエネルギー価格上昇、ウクライナに侵攻したロシアへの経済制裁に端を発したインフレ、気候変動など、多様な要素がグローバルサプライチェーンに影響していると指摘。
「今起きている様々な問題は非常に構造的な問題を抱えている。そこをちゃんと考えて手を打っておかないと、物が入ってこなかったり、製造して出荷することが非常に困難になってきたりする」と予想し、その解決策として、様々なデータを分析して傾向を把握、対応を迅速に決める「データドリブンなサプライチェーン」を提案。「可視性や柔軟性を達成し、イノベーションを起こすことが可能になる」と述べた。
その際、社内の全工程でデータがつながっているだけでは不十分との見方を示し、「ティア1だけでなくティア2、ティア3のサプライヤーのデータを持ち、地球の裏側で何が起きているのか、サプライヤーのその先がどうなっているのか把握しておかないとコントロールするのが難しい」と解説。併せて、社内のデータに関しても交通情報や天候などの公共的なデータも必要になると語った。
Google Cloudが掲げている「インテリジェンスを活用して世界を変え、全ての人に透明で持続可能なサプライチェーンを構築する」とのビジョンを紹介。その具体的な方策として、
・世界の動きをモデル化する「サプライチェーンツイン」
・最適なAIなどを提供する「サプライチェーンシミュレーション」
・リアルタイムで動きを可視化する「サプライチェーン パルス」
・パートナー企業との連携をサポートする「サプライチェーンパートナー」
――を列挙した。こうした方策を駆使することで、需要予測や在庫調整、フルフィルメント(物流業務の最適化)、持続可能性(脱炭素化など)という4つの重要な項目を達成できるとアピール。「1つの運動場の中でテニスもサッカーも陸上も野球も、いろんなスポーツをすることができるようになっている。サプライチェーンを担当される方たちが必要としている能力、物を準備させていただいている。それがここに挙げている4つの項目。どのようなニーズにも応えられるプラットフォームを用意させていただいている」と自信を見せた。
最も環境負荷が減るルートの自動算出も提供目指す
勝谷氏は昨年提供を開始した、日本のラストワンマイル領域に特化したソリューションの内容について報告した。詳細なデジタル地図「Google Maps Platform」を活用し、宅配事業者向けにAPIやSDK(ソフト開発キット)を提供、グーグルの地図データに宅配事業者が持つ配達の過去データを組み合わせ、宅配事業者自身が自社のシステムなどでより細かく効率的な配送計画を作成したり、走行時のナビゲーションの精度を高めたりできることを発表した。
Google Maps Platformを生かすことで、例えば配達先の建物の入り口はどこかや配送用車両を建物のどこまで近くに駐車できるかを地図上に分かりやすく表示させられるようになると例示。「配送現場から得られるデータの方がより価値が高いという側面もある。より最適化した、実態に即した配送順などのプランニングができる」と分析した。日本企業ではGoogle Maps Platformによるソリューションを、食料品や日用品の配達を手掛けるmenu(メニュー)が採用したことにも触れた。
米国の料理・食料品宅配大手DoorDash(ドアダッシュ)が同じく、グーグルのソリューションを取り入れた結果、それぞれの注文当たりの配送時間が大きく改善し、年間200万時間の削減につながっていくと見込まれていることも引用した。
勝谷氏は「実際の配送データを蓄え、次に生かしていくループを回すことが重要だ。われわれのプロダクトだけで全ての課題を解決するわけではなく、利用者が蓄えるデータをかけ合わせることが良い結果につながる」と話した。
さらに、ソリューションを使うことで、スマートフォン用アプリなどを通じて配達されている荷物がどこまで来ているかをリアルタイムに可視化できると解説。配送スタッフの業務を大幅に効率化するのに加え、運送事業者の社内で運行管理者らも現在の各車両の位置やステータスをPC画面で確認できるため、宅配荷物の受け取り手と宅配事業者の双方にメリットがあるとの考えを表明した。
また、既に世界41カ国で展開している、配送時に最も環境負荷が減るルートを自動算出するサービスについても、日本で早急に展開できるよう準備を進めていることに触れ、脱炭素の面でも貢献できるよう取り組んでいるスタンスをPRした。
最後に、藤沢氏が「お客様に寄り添った形で、ユーザーに対してメリットのあるものを提供していきたいと常々考えている」と強調した。
(藤原秀行、安藤照乃)