空港施設への介入問題で独立検証委が報告書、元次官の介入もあらためて確認
空港のオフィスビルや格納庫の管理・運営などを手掛ける東京証券取引所プライム市場上場の空港施設は4月28日、2021年6月に国土交通省OBの山口勝弘取締役(当時、元東京航空局長)を副社長に昇格させた人事(今年4月3日付で辞任)の審議過程で問題があったと指摘された件に関し、独立検証委員会から報告書を受領したと発表した。
報告書は、関係者への聞き取りやメールの調査を重ねた結果、21年5月に当時の同社執行部が人事を協議した際、山口氏が国交省の意向と示唆して自らを副社長に昇格させるよう求めたとの週刊文春の報道内容について「当委員会による検証内容とも照合した結果、公表内容には正確性と信頼性が認められると判断した」と説明。
山口氏の行為は国家公務員法で定めている、退職後に民間企業へ再就職したOBによる再就職先への働き掛け規制の趣旨に反する「グレーゾーン」の行為との見解を示し、問題視した。
さらに、山口氏が空港施設の取締役だった際、国交省の大臣官房総務課や航空局総務課の現役職員から、当時は一般に公開されていなかったとみられる国交省の人事情報をメールで入手していたことも確認したと言及した。
国交省側は今回のOBによる役員人事の問題について、現役職員の関与を否定しているが、疑念が払しょくできない調査結果となった。
報告書の表紙
報告書は同時に、会社側の対応についても、国交省といった主要なステークホルダーに役員ポストを準備すべきだという古い考え方が残っていることを問題視するなど、苦言を呈した。
改善策として、指名委員会と取締役会で役員指名方針を明確に決めることや、人事に影響を及ぼす重要な情報が取締役会に伝わる仕組みを構築することなどを提言した。
同社は報告書を受け「検証結果を真摯に受け止め、問題点の指摘や改善策の提言を踏まえ、今後具体的な再発防止策を策定し、取り組む」とコメントした。
「言葉に恐怖を覚えた者も複数いた」
報告書によると、21年5月開催の指名委員会で、当時の甲斐正彰社長(元内閣官房総合海洋政策本部事務局長、航空局次長)に関し、独立社外監査役の芝昭彦氏が、パワーハラスメントに該当する言動があるとの情報を提起。その後、第三者の弁護士による調査の結果、パワハラなどのハラスメントに該当すると評価され、甲斐氏の社長退任の流れになっていった。
後任の社長候補を選ぶ過程で、山口氏から自身を新たに副社長とするとともに、既に取締役を退いて相談役だった高橋朋敬氏(元国交省自動車交通局長、元空港施設社長・会長)を再度取締役にする案を提示。21年5月の執行部の協議では、山口氏が副社長に就くことが国交省航空局から見れば協力の証になるとの考えなどを示唆したのに対し、別の参加者からは、この会社は国交省の会社だと言われているように聞こえる、(国交省OBが経営トップだった)古い会社にまた戻ってしまうといった趣旨の懸念が示されたという。
報告書は、山口氏の発言に他の取締役が威圧される形で、執行部協議では山口氏が副社長に就く人事が承認されたと説明。「参加した取締役の中には、山口氏の言葉の端々から、国交省の出身者ではなく現職の意向が働いていると感じ取り、恐怖を覚えた者も複数いた」と指摘した。
併せて、山口氏の問題行為が明らかになったことで、同社のレピュテーション(評判)に悪影響が生じているなどと批判した。
一方、会社側の対応の問題点についても列挙。「国交省出身者を役員に選任することのリスクが適切に管理されてこなかったことが、今回の事態を招いた一因といえる」と断じた。
また、役員を指名する際に指名委員会が依拠すべき「指名方針」が、2019年に同委を設置していて以降、いまだに策定されていないことも問題視。「指名委員会の審議が何の判断軸も持たずに場当たり的に行われてきたのではないかという疑義を生じさせる。国交省出身者を役員に選任する際の要求事項と禁止事項を明確にしてこなかったことが、今回の事態を招いた一因といえる」との見解を示した。
併せて、山口氏が国交省の意向をちらつかせたことなどの情報が、役員人事を決める指名委員会や取締役会に伝えられず、空港施設内の企業統治が適切ではなかったと強調、改善を求めた。
また、国交省元事務次官の本田勝氏(東京メトロ会長)が昨年12月、空港施設の乘田俊明社長と稲田健也会長に直接面会し、山口氏を今年6月の役員人事で社長にするよう求めていたことについても、事実だったとあらためて確認した。
報告書は「許認可権を持つ国交省の出身者に対して役員ポストを用意することに疑問を持たないのは社会的不公正に加担することになるコンダクト・リスクや、役員の出身母体である所轄官庁にポストを献上する(天下りの受け皿となる)代わりに特権を与えられている企業とみられるレピュテーション・リスクを招く恐れがある。これらのリスクおよび本来の役割の認識が指名委員会や取締役会のメンバーに希薄だったことが大きな問題点」と締めくくり、事態改善へ対応を強く促した。
「大きな問題」と指摘する報告書
(藤原秀行)