【独自】RFID世界首位・米エイブリィデニソンの三井朱音ディレクターインタビュー(前編)

【独自】RFID世界首位・米エイブリィデニソンの三井朱音ディレクターインタビュー(前編)

「リアルタイムの在庫管理など、より高い価値を日本の物流業界に提供したい」

粘着ラベルなどの世界的メーカー、米Avery Dennison(エイブリィデニソン)でRFIDを使ったソリューションを手掛ける部門Avery Dennison Smartrac(エイブリィデニソンスマートラック)の三井朱音マーケットデベロップメントディレクターはこのほど、ロジビズ・オンラインのインタビューに応じた。

エイブリィデニソンはUHF帯RFIDで世界トップのシェアを誇り、世界50カ国以上で事業展開している。三井氏はアパレルや小売などに加えて、グローバル展開している物流企業が配送の負荷軽減などのため、RFID活用に動いていることに言及。日本でも積極的に事業展開することに意欲をのぞかせた。

併せて、出荷時の商品データ読み取り自動化などを通じて物流現場の業務効率化を促進できるのに加え、在庫量や倉庫スペースの空き状況をリアルタイムで把握することが可能になるなど、活用領域を広げて高い価値を提供していきたいと意気込みを見せた。インタビュー内容を前後編に分けて紹介する。


取材に応じる三井氏

「進化した姿をお示ししたい」

――御社がRFIDに関わってきた経緯を教えてください。
「当社は1935年の創業から80年を超え、グローバルで事業展開しています。世界で初めて(ラベルの裏側に粘着剤をあらかじめ塗り、押さえることで物の表面にしっかりと貼り付けられる)感圧粘着ラベルを開発し、今も売り上げの6割くらいがラベルなどの『マテリアルグループ』で占めています。ラベルを貼ることで物にIDを与えるという重要な役割を果たしており、当社の基軸です。今後はIDをデジタル化していく必要があるということで2000年ごろからRFIDに参入しました。世界で初めてアパレルでRFIDの活用に乗り出したのが英国の小売大手マークス・アンド・スペンサーで、当社と二人三脚で取り組んできました。長年をかけてラベルやタグに組み込める特別なRFIDを開発し、同社の在庫管理の精度を高めるなど成果を挙げています」

――RFIDタグというとアパレルの印象が強いですが、物流領域での活用は広がっているのでしょうか。
「おっしゃる通り、今のところはRFIDソリューションの売り上げの7割程度がアパレル業界で占めています。しかし、実は導入に向けてお客様と取り組んでいるプロジェクトは製造業など他の領域がどんどん入ってきています。今年、来年くらいからかなり物流や総合小売りといった業界で導入が広がっていくと期待しています。事業自体、年間平均で20%くらい成長しているんです。日本でもファーストリテイリングさんが展開されているユニクロの店舗で、採用されているRFIDソリューションの中にわれわれの製品が含まれており、店舗オペレーションの効率化とお客様の利便性向上に貢献できていると思います」

「物流でも、導入される事例はだいぶ増えてきました。報道や各社の発表など一般的な取り組みとして伝えられているところでは、例えばUPSは荷物にRFIDのタグを取り付け、従業員が身に着けているウエアラブル端末で自動的に配送先などの情報を読み込むことで、誤配送の防止やスキャンの手作業解消を図る『スマートパッケージ』のプロジェクトを進めています。1日当たり2000万回にも及ぶスキャンの作業をゼロにするという壮大な目標を掲げているようです。DHLやフェデックスなど他の大手物流事業者も、パレットにRFIDを取り付け、物量のデータを取得するなどさまざまな実証を行っています」

――日本でも過去にRFIDを物流に活用しようという動きが、ブームのように起こりました。もちろん、今もそうした取り組みは続いていますが、1個当たりの価格などがネックとなり、まだ本格的に普及しているとは言い難い状況です。
「確かに価格が高いとか、データをうまく読み取れないといった理由で導入を断念されるところが多かったですし、今もお客様の間でネガティブなイメージを持たれている方は多くいらっしゃいます。RFIDはタグ、リーダー、読み取ったデータを蓄えるシステムの3個のソリューションがうまく組み合わさらないとうまく起動しません。残念ながら過去にブームが起きたころはまだまだ技術的な問題などから、この3つがうまく組み合ってはいませんでした」

「しかし、この10年間を見てもRFIDは大きく進化しました。例えば、液体が入っている柔らかいパッケージにもきちんと貼り付けられたり、電子レンジに入れても電磁波の影響を受けて燃えないようになったりしてきました。1個当たりの価格も、半導体不足の影響で最近は上昇することがありましたが、海外の専門機関の調査によれば今は平均で6セント(約8.8円)に抑えられているそうです。われわれとしてはちゃんと多くの方々とコミュニケーションを取り、RFIDは決して失敗した技術ではなく、きちんと物の情報をデジタルデータ化する部分で進化を遂げ、実用化の段階に来ているということをお示ししたいですね」

「日本はRFIDというと、バーコードの代替で、効率化というケースで使われることが多いように思います。もちろん効率化は非常に重要ですが、バーコードのスキャンをRFIDに変えるという代替の観点だけで採用すると、個品の全てにRFIDを貼り付けることで日々大量のタグが消耗されていきますし、リターンはありますが投資を十分に回収できるほどのリターンは得にくいのではないでしょうか。われわれは効率化だけがRFIDの本当の価値ではないと思っています」

――具体的には?
「同じ種類、同じSKU(最小管理単位)の商品でも、1個1個それぞれ個別のものとして認識できる上に、大量のデータを取得することが可能です。その取得できるデータこそが、RFIDの大きな価値なんです。作業を効率化するだけにとどまらず、今までは取れなかったデータを取得できるようになり、そのデータを使って何ができるかというところが本当の、RFIDを使うことの価値だと思っています。トレーサビリティを担保できますし、物流現場であればどこにどの属性の荷物が何個あるかということが分かれば、どのトラックに何を載せるべきか、これはどういうルートで運ばれるべきなのか、というネットワークの最適化が可能になるでしょう。リアルタイムの在庫管理もできるようになりますし、リアルタイムで倉庫スペースがどの程度埋まっているかも可視化できるでしょう。日本のお客様にもぜひそうした視点で、RFIDを使っていただきたいなと日々思っています」

後編に続く

(藤原秀行)

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