【パワフル連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【パワフル連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第9回:イスラエル情勢は日本の石油に影響を与えるか

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。9回目は世界を驚かせたイスラム原理主義組織ハマスの動向について、解説してもらいます。

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プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

戦闘激化の可能性

世界の関心事がウクライナや台湾に注がれる中、今度は中東で緊張が走っている。パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが10月7日、イスラエル領内に向けて数千発のロケット弾を発射し、ハマスの戦闘員らがパラグライダーなどに乗って境界線の壁を超えてイスラエル領内に着地。境界付近で開催されていた野外コンサート会場などを襲撃した。突然の襲撃を受けた会場では参加者らに向けて銃が無差別に乱射され、260人余りが死亡。世界に衝撃を与えた。

また、ハマス戦闘員らが襲撃を行う中、イスラエル軍高官や民間人など130人以上が人質として拘束され、ガザ地区へ連行されたが、人質には欧米や南米、アジアなど20カ国以上の外国人も含まれおり、ハマスはイスラエル軍が地上部隊をガザ地区に侵攻させれば、人質を1人ずつ殺害すると警告している。

イスラエル側もすぐさま報復としてガザ地区に向けロケット弾を発射し、800カ所以上を空爆した。イスラエルはガザ地区への電気や食料、水や燃料の供給を停止するなどガザ包囲を徹底し、地上部隊の侵攻を計画している。これまでの犠牲者は双方で2000人を超え、今後さらに事態が悪化することが憂慮される。

そして、今後懸念されるのがイスラエル軍のガザ地区への侵攻だ。ハマスによる攻撃でイスラエル側の死者が1000人を超えることは、これまでなかった。既にイスラエル国内でも反ハマス感情が拡がり、イスラエル軍はハマス撲滅のため総攻撃を仕掛ける可能性がある。だが、そうなれば事態の激化、長期化は避けられないものとなり、イスラエルとイランの緊張悪化が生じるだろう。

長年ハマスはイランを支援しており、ガザ地区での攻防が激化すれば、イスラエルとイランの軍事的緊張も高まるだろう。また、シリアやレバノン、イラクやバーレーン、イエメンなど中東各国には親イランの武装勢力が活動しており、こういった組織がイスラエル権益を狙った攻撃をエスカレートさせるリスクも考えられよう。

では、今後の行方によって日本の石油事情に影響がどれほど出てくるのだろうか。現在のところ、軍事的緊張はイスラエルとパレスチナに限定されており、中東全体で紛争が拡大する可能性は極めて低い。サウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)、カタールなど中東諸国は双方の軍事衝突に関与する姿勢は一切示しておらず、イランも含め軍事衝突のリスクを最大限回避する方法を模索していくだろう。

情勢を冷静に見たところ、現状においては、日本の石油事情に大きな影響が出ることは考えにくい。しかし、上述のようにイランとイスラエルの緊張悪化という問題が残るので、その緊張の度合いによって、さらなる石油高などが生じる恐れは十分にある。

今日の中東には、イスラエル・パレスチナリスクの他にも、シリア内戦やイエメン内戦、イスラム国によるテロなど紛争リスクが今でも存在するが、日本はその中東に石油の9割を依存している。これまでも中東での紛争で石油ショックなどがあったが、今後も中東では日本の石油事情を脅かす出来事が生じるだろう。

(次回に続く)

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