第10回:拡大する日本企業の脱中国
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。
「経済的威圧」に警戒すべし
日本の大手自動車メーカーの間で世界最大の自動車市場・中国から距離を置く「脱中国」の動きが広がっている。今年10月には三菱自動車が中国市場から撤退する方針を公表した。
同社は2012年から中国メーカーと合弁で車の現地生産を続けてきたが、EV(電気自動車)の普及が近年急速に進み、エンジン車を中心とする同社は厳しい立場に追い込まれていた。今年3月には車の生産を停止していた。今後は合弁を解消し、在庫の新車販売が終わり次第、中国での生産・販売から完全に手を引く。
他の日本の自動車メーカーも、中国市場ではEVを得意とする欧米企業や国産車へのニーズの高まりもあって厳しい状況だ。今年1~8月の累計販売台数は前年同期比で、マツダが38%、日産が26%、ホンダが24%、トヨタが5%とそれぞれ減少傾向にある。足元の情勢を見ても、この苦境を好転させることは難しさを増している。
落ち込みが目立つマツダは昨年8月、日中関係の悪化という地政学リスクの高まりを懸念し、今後新車の製造で使用する部品の対中依存度を下げていく方針を明らかにしていた。ホンダも同月、国際的な部品のサプライチェーンを再編し、中国とその他地域のデカップリング(切り離し)を進めていく意向を表明した。各社の販売不振の直接的な要因は地政学リスクではないかもしれないが、今後はリスクの高まりでいっそう脱中国に拍車が掛かる可能性がある。
大手自動車メーカーを含め、日本の製造業が懸念しなければならないのは、中国による経済的威圧である。これは簡単に言えば、国家Aが関係の悪化した国家Bに対し、輸出入規制や関税の引き上げなど経済的手段を使って圧力を掛けることだ。我々の解釈からすれば、中国が突然、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出への懸念を理由に、日本産水産物の輸入を全面的にストップしたことも経済的威圧に該当する。
そして、日本産水産物の全面輸入停止、半導体覇権競争など日中の間でも貿易摩擦が拡大する中、今後の日中関係の難しさも考慮すれば、中国はよりいっそう日本に対して経済的威圧を仕掛けてくる時が必ずあるだろう。どの業種や業界が震源地となるかは分からないが、製造業は材料や部品を多く集めてモノを製造することから、より広いサプライチェーンの安定が必要となる。
しかし、それが広い業種や会社ほど経済的威圧の影響を受ける可能性は必然的に高まる。そういった企業ほど、中国による経済的威圧を回避するためにも脱中国を早急に検討することが不可欠になりそうだ。大手自動車メーカーの脱中国志向は三菱自動車によっていっそう活発化する可能性があるだけに、他の業界もそうした動きを注視しておくべきだろう。
(次回に続く)