【必見連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【必見連載!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

第13回:ウクライナ侵攻2年・ロシアビジネスの先行きを占う

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。13回目は3年目に突入したロシアのウクライナ侵攻について、ビジネスに及ぼす影響を解説します。

これまでの連載はコチラから!ぜひ復習してくださいね!

プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

トランプが迫る、恐るべきシナリオ

2月24日でロシアがウクライナへ侵攻してからちょうど2年を迎えた。当初、ロシアや安全保障の専門家の多くは代償が計り知れないため、プーチン大統領が侵攻の決断を下すことはないとみていたが、そうした分析は完全に裏切られ、世界に大きな衝撃を与えた。ロシア軍は現在もウクライナ東部や南部の一部地域を占領し、双方が激しく攻防を繰り広げている

一方、この2年で日本企業のロシアビジネスをめぐる環境も激変した。侵攻以降、欧米や日本はロシアへの経済制裁を強化し、ロシアとの外交関係が急速に冷え込んだのに伴い、企業はこれまでのようにロシア事業を続けることが厳しくなっていった。マクドナルドやスターバックスなど世界的な企業が相次いでロシア事情から撤退し、トヨタ自動車や日産自動車、マツダなど日本の大手企業の間でも脱ロシアの動きが拡大した。

欧米や日本の企業の間で脱ロシアの動きが加速化した背景には、主に2つの理由がある。1つは、純粋なロシアへの懸念だ。ロシアとの外交関係が悪化すれば、その後に対ロ貿易で輸出入規制や関税制裁など何かしらの障害が生じてくることは十分に想定される。今日では経済的威圧が大きな問題になっているが、中国からだけでなくロシアからも経済的威圧が仕掛けられることが当時から考えられ、それが企業の脱ロシア化に拍車を掛けた。

また、企業によってはロシアに駐在員を配置するケースも少なくない。日露関係の急速な悪化により、現地で生活を送る駐在員やその家族は強いプレッシャーを感じるようになり、安全第一を考えロシア事業の撤退・縮小を図った企業もある。

また、レピュテーション(評判)悪化のリスクも大きな理由になろう。欧米陣営の中でロシアへのイメージが急速に悪化する中、それでもロシアビジネスに固執すれば、消費者から「あそこはまだロシアでビジネスを続けているのか」などと批判的に見られ、企業のブランドやイメージが低下することへの懸念が企業関係者から多く聞かれた。

今日では戦闘が激化するイスラエル情勢を受け、アラブ諸国でイスラエル製品をボイコットする動きが広がり、「イスラエル企業と提携するのはどこの外国企業だ」と反発する声も聞かれる。同様のことがロシアについても言える。


1月7日に上川陽子外相がウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領と会談した。一方、戦況を左右する欧米各国の支援は今後も十分続くのか不安が広がる(外務省ホームページより引用)

では、今後、ロシアビジネスを巡る環境はどうなるのだろうか。今後のウクライナ情勢で1つ動きが考えられるとすれば、今年秋の米大統領選挙で共和党のトランプ氏が勝利し、ウクライナへの軍事支援を最優先で停止すると豪語するトランプ氏がウクライナに停戦を迫るというシナリオだ。仮にウクライナとロシアの間で停戦となれば、現在の戦況は落ち着きを取り戻すだろう。しかし、停戦でこれまでの問題が解決し、欧米や日本とロシアの関係も改善され、ロシアビジネスの環境も平常を取り戻すかといえば、全くそうならない。

停戦といっても、それはロシアがウクライナ領土を占領したまま結ばれることを意味し、要はロシアによる2年間の侵攻が既成事実化されてしまうのである。トランプ政権が認めたとしても、ロシアの脅威と日々対峙している欧州は異議を唱え、ロシアへの厳しい姿勢を崩さない公算が大きい。北方領土問題を抱える日本としても、安易に米国へ追随するのは危険だ。そうした事情を踏まえれば、ロシアビジネスをめぐる現在の環境は変わらないだろう。

この問題は長期的に続く可能性が濃厚で、極論を言えば、プーチン政権が終わり、その後自由や民主主義といった価値観を重視し、欧米や日本との関係改善を重視するリーダーが現れない限り、以前のような環境は戻ってこないだろう。そうした現実を考えれば、ロシア事業の再開は期待薄とみて、海外事業は他のエリアに注力するとともに、ロシアを迂回したサプライチェーンへの組み換えを進めることを強く推奨したい。

(次回に続く)

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