【地震・動画】能登半島地震でドローン活用した復旧・復興支援の事例紹介

【地震・動画】能登半島地震でドローン活用した復旧・復興支援の事例紹介

ブルーイノベーションとLiberawareがセミナー、「行方不明者捜索なども可能」と手応え

ブルーイノベーションとドローンを使った点検などを手掛けるLiberaware(リベラウェア)の両社は4月25日、東京都内で、1月に発生した能登半島地震でドローンを活用して復旧・復興を支援した事例を紹介するセミナーを共同で開催した。

出席者は、両社が日本UAS産業振興協議会(JUIDA)と協力し合って地震発生直後から被災地に向かい、倒壊した建物の内部の調査などを実施したことを報告。今後は行方不明者の捜索などにもドローンを使うことが可能と手応えを感じていることを明らかにした。

同時に、被災地の自治体や警察、消防など関係者の間で、ドローンが災害の復旧・復興に使えるという認知がまだ広がっていないことが課題と分析。災害発生に備えて事前の調整が重要と指摘した。また、今回の地震被災地で実際の活動に使ったのと同じ型のドローンもお披露目した。


セミナー後、実際に現場で活用したのと同じドローンとともに撮影に応じる(左から)Liberaware・閔CEO、JUIDA・嶋本参与、ブルーイノベーション・熊田社長

自ら電話し自治体から協力要請引き出す

冒頭、能登半島地震の被災地に直接赴き、活動した3人が活動報告のために登場。まず、JUIDAの嶋本学参与が登壇した。陸上自衛隊からJUIDAに転じたキャリアを持つ嶋本氏は、今回の地震で陸自中部方面隊直轄の第10師団と連携しながら被災地で1カ月強、ドローンを使った被災地支援活動を続けた。

嶋本氏はJUIDAが1月1日に地震発生の報を受け、災害支援本部を立ち上げたことに言及。もともとJUIDAは陸自の東部方面隊と2019年、災害応援に関する協定を締結していたが、今回の被災地は東部方面隊が直接管轄するエリアではなかったため、東部方面隊からJUIDAへの協力要請をすぐには出しづらい状況にあったのを考慮、嶋本氏から被災した石川県の輪島市へ直接電話し、協力要請を引き出したことを明らかにした。


現地での活動体制(JUIDA提供)

Liberawareの長谷川大季スマート保安事業部マーケティング/PRマネージャーは1月6~7日、輪島市内で活動した様子を紹介。人が立ち入るのが危険な倒壊家屋の内部調査を、GPSを使えない狭小部にも侵入して点検できるドローン「IBIS(アイビス)」を使い、破損の程度などを確認したことを報告した。火力発電所のボイラー炉内の点検にも協力したという。

長谷川氏は被災状況の把握に加え、建物内での紛失物の有無、資産状況の確認も担ったと語るとともに、撮影した写真から3次元データを生成できることも踏まえ、「撮影したデータは建物の罹災証明書発行のエビデンスになるのではないかとのアドバイスを現地で受けた」ことを明らかにした。

現地で活動した経験から、ドローンを災害支援活動に投入できるとの手応えを語った。同時に、その実現のための課題として、地方自治体や警察、消防といった行政と事前の連携を強固にする必要があると解説。「(あらかじめ関係者と連携ができていれば)発生から72時間以内の生存者捜索活動もできたのではないか。現地の方々に話をしたが、どう使うかというイメージが足りず、(協力の)要請がかかりづらい」との思いを語った。


IBISを使った家屋内調査活動の様子(Liberaware提供)

ブルーイノベーションの柴﨑誠ソリューション営業三部長は、同じく点検用のドローン「ELIOS(エリオス)3」を投入し、自衛隊の活動の初動支援、建物などの被災状況の詳細な点検などの役割を担ったとアピール。その一環として、河川を土砂がせきとめてしまい発生した「土砂ダム」が決壊する恐れがないかどうか、ドローンで上空から連日点検したことを紹介した。点検を担うドローンが離着陸するための同社の独自設備「BEPポート」を災害現場で使ったのは国内で初めてという。

柴﨑氏は、ドローンで橋梁などを撮影することで3D点群データを取得できるメリットなどを紹介しつつ、そうした能力を最大限発揮するためには「災害が起きてから(体制を)検討するのでは遅い。起きる前にいかに環境を整備するかが重要」との見方を示した。


被災地に設置したドローン用BEPポートと、上空からドローンが撮影した土砂ダムの様子(ブルーイノベーション提供)

通信や電源の確保が問題

事例紹介に続いて、トークセッションを展開。事例報告に続いて嶋本氏と、ブルーイノベーションの熊田貴之社長、Liberawareの閔弘圭CEO(最高経営責任者)が加わった。進行役は産経新聞社出身でドローン関連情報を専門に扱うウェブメディア「ドローントリビューン(Drone Tribune)」の村山繁編集長が務めた。


トークセッションの様子。左から嶋本氏、閔氏、熊田氏、村山氏

嶋本氏は、政府が1月2日、救助活動を円滑化するため、航空法に基づき、能登半島北部でドローンをはじめとした無人航空機の飛行を原則禁止にしたため、その後はドローンを飛行させる際は国か地方自治体、現地災害対策本部の要請が必要になったことを報告。そのため、冒頭でも嶋本氏が説明した通り、自ら被災した輪島市に電話、要請を引き出したことを明らかにした。

加えて、現地でJUIDAの指揮の下、ブルーイノベーションやLiberawareなど約20社が救援活動に参加していたことに触れ「こうした企業が自治体の防災部局に直接(支援したいと)行っていたら収拾がつかなかっただろう」と振り返り、事前調整の重要性を訴えた。

熊田氏は、被災地入りする際、嶋本氏から水や食料を持参するようアドバイスを受けたり、作業スタッフが泊まる宿を手配してもらったりとさまざまなサポートを受けたことを取り上げ、「われわれだけではそんなネットワークはなかった。本当にナビゲーターとして調整いただいたのは非常に大きかった」と語った。

村山氏は「助けられる命があるはずだという思いと、実際にドローンを飛ばして助けられたかどうかという成果の間に、調整が必要という感じがした。調整とは何かを、これから分析し、細分化して誰が担うのか(検討を)やっていったらいいかなと感じた」とまとめた。

熊田氏は、土砂ダムの確認について、カバーしたのが6カ所で、人間が移動していれば往復で4時間を要していたとみられるものを、10~15分で確認できたことに触れ「これは効果があったのではないか」と述べた。

現場で苦労したことについて問われたのに対し、閔氏は「家屋内調査はいきなりできない。自衛隊や消防との連携が取れていないと活動ができないし、なかなか作業効率が上がらない」と自らの経験から指摘。「ドローンが家屋の中に入るだけで撮影できるし、データを3次元化できるが、行方不明者を本当に探せるのかという問題もある」と話した。

熊田氏は、通信環境の整備に苦労したことを明かし「災害現場は通信がつながらないのがデフォルト。さまざまな技術が導入されたが、全部万全というものはなかなかない。電源も災害時では確保できないのが当たり前」と表明。「官民の連携は極めて重要 対策本部の中でも支援のテクノロジーのうち、どれが効果あるのかはなかなか分からない」と指摘した。

嶋本氏は「そもそも(災害現場では)ドローンを災害のために使おうという認識がないので、何をどうやって使うというところまで意識が行っていない。逆に言えば、それに気づけたというのが今回大きなエポックだと思っている。少なくとも災害現場でドローンがどんどん使われる世の中になっていくし、災害以外の民生の領域にも広がっていくことは間違いないと思う」と前向きな見方を示した。

最後に今後の展望について、嶋本氏は、被災地から犯罪防止と安全確保のため、定期的に地域を巡回できるドローンを要望する声があったことを紹介。「防災に加えて、他の領域でも波及効果でもっと普及していくと思う」とドローンの利用拡大に期待を寄せた。

熊田氏はこれまで、ドローンの使用が平時前提だったが、能登半島地震での活用でそうした印象が変わる可能性があることに言及。「災害時も想定した人材育成やガイドラインの整備などが今後重要なポイントになってくるだろう。災害大国日本発のドローン技術は、逆に世界に発信していくこともできるのではないか」と語り、日本で培ったドローンの災害対応の技術やノウハウを海外展開できる可能性があるとの持論を展開した。

閔氏は「ドローンを日常的に使う教育が大事。普段から使える人がいることも大事。メーカーとして、(能登半島地震という)初めての場で(自治体や他の企業などと)連携できて、3つの座組で連携できれば、災害に強くなる」と展望した。

村山氏は「日ごろの業務でドローンの利用をさらに推進することが、防災(対応に必要な技術の向上やノウハウの蓄積)にもつながるということを皆さん自身が啓蒙していく活動のきっかけになればいいと思っている」と締めくくった。

セッションの後、ブルーイノベーションとLiberawareは能登半島地震の現場でも活躍したIBISとELIOS3のデモフライトを来場者に公開した。

(藤原秀行)

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