日販グループが戦略発表会、汎用性ある設備に刷新図る方針強調
出版物取次大手の日本出版販売(日販)は5月14日、東京都内で取引先企業など向けの戦略発表会を開催した。
登壇した日本出版販売ホールディングス(日販HD)と日販両社の幹部は、物流コスト上昇などで「出版の流通が危機的状況にある」と危機感を表明。機能を維持し、全国の書店の経営をサポートするため、関係者にコストアップ分の相応な負担への協力を求めた。
同時に、自らも物流の効率化を強力に推し進める決意をあらためて表明。業容拡大期に物流関連の設備投資をした結果、出版物の取扱量減少でオーバースペックになっているため、出版物以外の商品などにも対応できる汎用性のある物流網に刷新していくことを強調した。
多数の関係者が詰め掛けた戦略発表会の会場
「類を見ないような運賃上昇が迫ってくる」
冒頭、日販HDの富樫建社長がグループの基調報告に立ち、今野軸となる取り組みとして、書店の経営を持続可能にする「出版流通改革」、将来も出版流通を持続可能にするための「大規模な物流再編」、地域や行政などと連携した「マーケットの創出」の3点を列挙。持続可能な出版輸送の実現へ関係者と連携して課題を解決していく決意を表明した。
続いて、日販の中西淳一専務取締役マーケティング本部長が出版流通改革について説明した。書店の商品発注などをより容易にするシステム展開などを図っていることに触れた上で、雑誌1kg当たりの運賃単価が2014年の25.1円から23年には2倍強の63.6円まで上がっていることを引用。
政府が「標準的運賃」を平均8%引き上げ、公正取引委員会がコストアップ分をサプライチェーン全体で適切に価格転嫁させるよう荷主企業や物流事業者に求めていることにも言及し、「経営努力のみでコスト上昇分を吸収するのは不可能。類を見ないような金額規模での運賃上昇が早ければ年内、遅くとも直近1~2年で迫ってくることは避けられない。出版流通は危機的状況にある」と語り、出版社や書店などに物流コスト上昇の応分の負担への理解を求めた。
最後に「出版流通を維持し続けるとともに書店の経営持続に貢献することがわれわれの使命。町に書店と本があり続ける心豊かな社会を維持するため、これからも尽力し続ける」と心情を訴えた。
伊藤宏治常務取締役物流本部長は、将来の物流変革の計画をプレゼンテーションした。「物流を創り変える」をテーマに設定していることを紹介し、1990年代の業量拡大期にシステム化や機械設備への大規模な投資を続けた後、2000年代に入ってからは流通量減少を受けて拠点を集約、同業他社との協業でコスト最小化も図っていることを振り返った。
出版物1冊当たりの物流コストが上がっているため、全体的なコスト削減の効果が追い付いていないのが現状と指摘。「設備や機械が今の市場規模に見合っておらず、融通も利きづらい。変化する書店の売り場を支える物流に作り変える」と解説した。
その中軸となる取り組みとして、これまで物流設備は雑誌や書籍など出版物に特化していたことから、流通量が減るとそのまま稼働率低下に直結してしまうため、他の商材も取り扱える汎用性を持った物流基盤に変革していくことをアピールした。
伊藤氏
今年10月に埼玉県新座市で稼働を始める物流拠点「N-PORT新座」をあらためて紹介し、同拠点は日販HDと「TSUTAYA(ツタヤ)」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の合弁でツタヤの卸事業などを担っているカルチュア・エクスペリエンス(CX、旧MPD)の一部物流拠点の機能を統合する計画となっていることを報告。「最新の機能を有した文具雑貨出荷拠点が誕生する」と語り、汎用性を発揮できると期待を見せた。
同拠点では新たなWMS(倉庫管理システム)を導入し汎用化を推し進めるほか、ラピュタロボティクスの自動倉庫システム「ラピュタASRS」を採用し、物量の波動にも円滑かつ迅速に反応できるようにする構想を語った。ラピュタの自動倉庫活用の効果を試算した結果、作業の生産性は3倍、作業スタッフの歩数は85%削減を見込めるという。
「N-PORT新座」の竣工イメージ(日販提供)
伊藤氏は「5年以内に物流再編を実行し、輸配送課題の解決とともに、持続可能な出版流通の実現へつなげていく」と決意を示した。
最後に、トラック運賃について「これまでとは違う次元の値上げが見込まれる。(自社の経営努力だけでは対応が)不可能なレベルの要請におそらく変わってくる。これまでの延長線上では機能を維持できないのは明らか。(コストアップは)一部の関係者だけで負担すべきものではないと考えている」と述べ、他の登壇者と同じく、コストの公平な負担へ理解を呼び掛けた。
最後に、日販の奥村景二社長が、同社が目指す未来像を語った。冒頭に富樫氏が触れた、注力する取り組み3点を強力に推し進める姿勢をPRした上で、運賃高騰やCO2削減といった諸課題に業界全体と連携して対処していくことを明示。書店の経営環境が厳しい中、地方自治体と連携してイベントを開催するなど、需要創出を継続することを誓い、「地域の書店が発する光を絶対に消してはならない」と訴えて報告を締めくくった。
奥村氏
変革のメッセージ
(藤原秀行)