ベンチャーキャピタル「Coral Capital」澤山創業パートナーインタビュー
日本のスタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタル「Coral Capital(コーラル・キャピタル)」の澤山陽平創業パートナーはこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
澤山氏は特定の分野に絞り込まず、今後3年間で有望な40~50社程度の事業拡大を支援していきたいとの意向を表明。物流分野に関しては労働力不足など多くの課題を抱えているだけにスタートアップ企業が活躍できる余地は大きいとの見方を示し、有望な案件には積極的に投資していく構えを見せた。
澤山氏(Coral Capital提供)
海の生態系支えるサンゴ礁のような存在に
―もともとは米ベンチャーキャピタル(VC)「500 Startups」の日本向け1号ファンド「500 Startups Japan」の運用を3年にわたって手掛けていましたが、今年3月に独立、現在のコーラル・キャピタルを立ち上げられました。まずその背景を教えてください。
「500の戦略とわれわれの思いの間に乖離が生じたことが挙げられます。500 はなるべく多くのスタートアップ企業に少額を投資、支援する『アクセラレーター』として知られています。1号ファンドは3年間で43社に20億円強を投じ、ほぼ新規投資の枠を使い切りました。しかし、日本で投資を続けてきた中で、われわれとしては投資先の数を絞る代わりに1社当たり最大2億円くらいまでしっかりと支援する方がより効果的なのではないかと感じるようになりました」
「また、アクセラレーターの支援は完全にパッケージ化されたサービスを全社均一に提供するという感じですが、日本はスタートアップ企業の数が増えてきたとはいえ、まだ欧米ほどの水準ではありません。例えば、米500は2000~3000社のスタートアップが応募してきた中から30~40社を選んで投資します。しかもそれを年3、4回実施している。それほどの規模であればパッケージ化した方がより効率的に支援ができます」
「日本はある程度核になる支援メニューは決めておいた上で、個々の投資先の実情に応じて柔軟にカスタマイズしていく方が合っていると思いました。そうなるとアクセラレーターの支援とはたいぶ内容が異なってきますので、米500の経営陣と話し合った結果、新たなブランドでの独立を認められ、ファンドを組成しました」
―「Coral(サンゴ礁)」の名前にはどのような思いを込めていますか。
「VCはそもそも有望な起業家がいないと存在できません。有望な起業家がいるからこそ投資できるわけですし、VC自身も起業家から選ばれるようになってきました。そんな中でわれわれは海の生態系を支えるサンゴ礁のように、起業家のすみかになったり、餌場になったりと立ち上げを支えるような存在になりたいと思いました」
―他のVCと異なる特色はありますか。
「VCでよくあるパターンは担当者1人で投資先1社を支援するという形だと思います。しかし、当社はむしろ明確には担当を置きません。例えば代表兼創業パートナーのジェームズ(・ライニー氏)は、自分自身が起業家ということもあり資金調達の戦略などに詳しく、そうした話が出てくれば彼が担当します。一方、私は投資銀行などに在籍してきて、さまざまな事業スキーム構築やリーガルチェックなどが得意ですので、そうした話になれば私が相談に乗ります。他にも採用、マーケティング・PRといった機能別に担当を分けています」
―機能別の分担としたのはいつからですか。
「新たなファンドを立ち上げるのに伴い大きくかじを切ったというのではなく、500として3年間投資活動を続けてきた中で1年ほど前から機能別のやり方を続けていて、われわれにも合っていますし、他の起業家からも評価されています。もちろん、1人が1社を丸ごと担当するやり方がうまく行くケースもあり、どちらが良い悪いということではありませんが、われわれとしては、新しいファンドでも機能別という手法を引き継いでいきます」
サンゴ礁をイメージしたCoral Capitalのマーク(同社提供)
簡単に変革できない分野こそが有望
―今回のファンドも3年が活動期間の一つのめどになりますか。
「おそらくそうだと思います。2~3年で40~50社くらいに計50億円程度を投資していく流れになるのではないでしょうか」
―投資先選択に関しては、特定の業界に絞らず、個々の事業内容を精査して、という感じでしょうか。
「投資戦略としては、個々の業界は全く見ていません。今はむしろ、この業界が盛り上がっている、というところから判断すると状況を見誤りかねないと思っています。われわれは『シード』と呼ばれる創業期のスタートアップ企業を支援していますから、表に話が出て盛り上がっていれば、投資のタイミングとしてはむしろ遅過ぎます。バイアスは全部外し、優秀な起業家が何か有望な事柄にチャレンジしているというところから話を聞いていきます。物流であれ何であれ、事業の構想が本当に面白く、成長の可能性を強く感じられるのであれば投資していくというスタンスです」
―物流は人手不足など課題が山積しているだけに、逆にITで変革していける部分が大きいとも言えそうです。
「確かに物流に関しては、外部からテクノロジーを提供してすぐに課題を解決できるほど簡単な業界ではなく、アナログな部分が相当残っています。しかしそれでも1号ファンド時代を含めると、われわれが投資してきた中で倉庫のマッチングサービスを展開するsouco、ITで国際貿易の効率化をサポートするShippio、鋼材や産業廃棄物などの分野で荷主企業と運送事業者をマッチングするディールコネクトのような、物流をターゲットにしたスタートアップ企業も出てきており、非常に面白いですね」
「現状はスタートアップブームなどと呼ばれていますが、スマートフォンアプリなどのITで簡単に効率化できる分野はもはや刈り尽くされています。今は簡単にテクノロジーで変革できず、本当に泥臭い営業のような人間味あふれる現場に入り込んでいく必要がある分野が一番、スタートアップ企業が活躍できる可能性があるでしょう。物流以外にもヘルスケア関連や金融の一部、製造業などがそうした状況に該当すると思います」
「もう1つ申し上げると、物流はマーケット全体で見れば日々とんでもない金額が動いていますから、スタートアップ企業にとってみれば、その点に対する魅力も非常に大きいのでしょう」
Coral Capitalのメンバー(同社提供)
ITにこだわり過ぎず積極的に現場へ
―物流の世界を変革しようという動きは強まっていると感じますか。
「そうですね。先に挙げた3社はまさにそうした動きの代表でしょう。Shippioは最初、ITで国際物流を効率化するシステムを構築し、フォワーダーなどの物流企業に使ってもらおうとの考えでした。しかし、レガシーな体質の業界だけになかなか営業もうまく行かなかったようです。そこで発想を切り替え、業界の外からサービス提供するのではなく、自分自身がフォワーダーになろう、物流業界の一プレーヤーになろうと決意し、第二種貨物利用運送事業者の許可を取得しました。そこで信用を勝ち得て、サービスの利用が広がっていきました」
「soucoは創業からの早い段階でプロロジスや日本GLP、大和ハウス工業といった業界大手と提携しました。スタートアップ企業だからといって、スタートアップ企業とだけ付き合うのではなく、大企業と積極的に手を組み、まず倉庫の供給サイドを押さえてから需要サイドを取りに行きました。非常に面白くてうまいやり方だったと思いますね。ディールコネクトも鋼材や産業廃棄物といった新しい分野を、その業界を良く理解している創業者が開拓しようと取り組んでいます」
「この3社のように、ITの部分にこだわり過ぎず、必要に応じて現場にも積極的に出ていき、他の企業とコミュニケーションを取り、新しいビジネスの手法を見つけ出していく。それこそが新しいスタートアップ企業の在り方なんだろうなと感じています。3社には物流分野で今後登場するスタートアップ企業にとってモデルケースになっていただきたいですね」
「そう考えれば、スタートアップ企業から今後の物流業界の変革を担っていくのは、20歳そこそこというよりも、業界の構造や現場の課題をきちんと理解し、ある程度経験も積み、業界の方々ときちんとお付き合いができる30代、40代の人たちが中心になってくるのではないでしょか」
―物流はラストワンマイルの部分がトラックドライバー不足など多くの課題を抱えていますが、投資対象としても有望なテーマでしょうか。
「非常にドライバーの需給がひっ迫していることは理解していますが、先ほども申し上げた通り、ラストワンマイルに限定して注目しているわけではありません。課題が多く存在していても、当然ながら再配達削減など問題解決の最適解をきっちり出せる起業家がいなければ投資対象とはなり得ません。幅広くお話を伺い、最適なチームがあれば投資していきたい。われわれのサンゴ礁の中で物流を変革する可能性を秘めた小魚が育ち、巣立っていってほしいですね」
(藤原秀行)