マースクやDBシェンカーなど採用実績、需要予測も可能
英国を本拠とするベンチャーのDexory(デクソリー)は、ロボット技術とAIを組み合わせ、物流倉庫内の在庫状況可視化や管理効率化をサポートするソリューションを展開している。高さが最大14mにも及ぶ大型のロボットが倉庫内を周回し、ラックなどに積まれた在庫を搭載しているカメラでスキャン、個数や位置などをデータ化して荷動きなどを可視化するというユニークな手法だ。
在庫の棚卸しも人手を介さず自動化できることなどから、ヒューマンエラーの回避や在庫把握の精度向上といった効果が見込まれ、欧米の製造業などの間で利用が広がっている。同社は物流現場の人手不足が深刻化している日本でも需要は見込めると判断、積極的に利用をアピールしていく構えを見せている。
作業を週40時間節約、在庫精度は15%改善
デクソリーは2015年創業。23年3月に、倉庫内を自律走行して360度の全方向を撮影、在庫の情報を収集するロボットと、取得したデータを基に在庫の数量などの状況をデジタルツイン技術で可視化するシステム「DexoryView(デクソリービュー)」で構成するソリューションの提供を開始した。
ロボットは1日当たり最大で約100万フィート(約300km)を走行できる上、1時間に最大約1万パレット分の情報を読み取ることが可能。ロボットは垂直方向に伸縮し、高さは最大14mに及ぶため、大規模な倉庫でも十分に対応できる。
ケースに入っていなくても、さまざまな形状のままスキャンできる。読み取りの精度は99.9%に及ぶという。倉庫内の既存設備のレイアウトなどを大々的に変える必要がなく、スムーズに稼働を始められる点も強みとなっている。
デクソリーの共同創業者でCEO(最高経営責任者)のアンドレイ・ダネスク氏は「1日数回、倉庫内を循環させれば、日々の在庫の動きを細かくつかめるようになり、倉庫の稼働率も把握しやすくなる」と、リアルタイムで状況をフォロー可能な点をメリットとして強調する。さらに、デクソリービューを駆使し、在庫のデータから将来の需要動向を予測したり、より迅速に出荷できるよう在庫の配置を見直したりすることもできると解説する。
ロボットとデジタルツイン技術で可視化した庫内のデータ(いずれもデクソリー提供)
提供開始から日は浅いが、既にマースクやDBシェンカーなどが採用。日系企業でもデンソーや郵船ロジスティクスの欧州法人などが活用を始めているという。最初にソリューションを導入した企業の1社のマースクでは、倉庫で在庫確認に要する時間を週40時間節約し、在庫精度が15%改善するなどの成果を上げることができたという。デクソリーは今年10月には、シリーズBラウンドとして機関投資家らから8000万ドル(約120億円)の資金調達を完了したと公表、将来性への期待が高まっている。
日本では中小型の倉庫が多いが、ダネスクCEOはロボットの高さを14mから下げ、よりコンパクトなサイズの倉庫内でも巡回できるようにすることは可能と説明。「日本が置かれている状況で、われわれのソリューションは大きな効果を発揮できる。限られた人数で倉庫内の業務を担い、より短時間で多くのことを処理しなければならないという圧力にさらされている。日本の物流現場の方々のチームにパワーを与えるソリューションだと考えている」と自信をのぞかせる。
起業前はF1のデータエンジニアリングとして、走行データをまさに数秒といった極めて短い時間で分析、次に生かすことを担っていた経験もあるというダネスクCEOだけに、情報の可視化や共有の重要性を重ねて訴えており、「日本はまだ具体的な数値目標を掲げる段階にはなく、まずはわれわれのオペレーションが在庫管理などでいかに成果を発揮できるかを着実に訴えていきたい」と話している。
(藤原秀行)