第25回:猛威振るう「トランプ関税」に立ち向かうために
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ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している
“被弾”する可能性がある地域は
1月20日、ついに米国で第2期トランプ政権が発足したが、就任直後から矢継ぎ早に関税を引き上げる方針を打ち出し、世界中が混乱している。本稿の執筆時点で、中国に対する10%の追加関税を発動したが、当然ながら中国企業の製品のみが対象となるのではなく、中国で製造した上で米国へ輸出する日本企業も関税に直面するだけに、座視できない状況だ。
また、トランプ大統領は不法移民や違法薬物の問題を理由として、メキシコとカナダに25%の関税を発動する姿勢を発表。発動のタイミングは当初想定していた3月から4月2日に1カ月先送りしたものの、強硬姿勢は崩していない。トヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、マツダなど大手自動車メーカーがメキシコの自社工場で車を生産し、その多くを米国に輸出していることから、自動車業界にとっては非常に気がかりな動きだ。
トランプ大統領は以前、メキシコからの輸入車に200%の関税を課すと主張していたが、ホンダの幹部は昨年11月、トランプ関税が恒久的なものになれば米国で生産を強化し、関税対象外の国々からの輸出に切り替えていく考えを示した。大手空調メーカーのダイキン工業も同月、メキシコ工場は主として米国向け商品を扱ってきたが、アルゼンチンなど南米向けの生産拠点でもあるため、現在の生産ラインを南米向けの仕様に変えていくことも選択肢になるとの考えに言及した。
関税引き上げはトランプ大統領が大好きな、ハードな要求を突き付けて相手を交渉に引きずり込み、譲歩や利益を引き出すディール外交の根幹を成しているだけに、今後も日本企業にとって最大の懸念事項となり続けることは避けられそうにない。
それでは、日本企業はどういった点を意識する必要があるのだろうか。ここでは2つの点を提示したい。まず、現在のところ、トランプ大統領は日本を直接標的にした関税引き上げを示唆していないが、当然ながら状況によっては日本も“トランプ関税”の相手に名指しされる恐れは排除できない。その理由は米国の貿易赤字にある。トランプ大統領は米国がどの国との貿易で大幅な赤字を出しているかを意識しており、トップは中国やメキシコだが、日本はその次に位置しているからだ。
トランプ大統領は政権1期目の際、膨れ上がる対中貿易赤字に強い不満を覚え、2018年から3700億ドル(現在のレートで約55兆5000億円)相当の中国製品に最大25%の関税を掛ける制裁を発動した。「貿易赤字は悪であり、解消することが米国経済に利する」との主張は、製造業従事者らを中心とするトランプ大統領の支持層には非常に受け入れられているとみられ、トランプ大統領自身、公約実現には強くこだわっているだけに、日本を直接の標的とするトランプ関税を示唆し、発動する可能性は十分に考えておかないといけないだろう。
また、これも既に周知の通りだが、トランプ大統領は常に「対中国」を強く意識している。米国が世界で最も偉大な国家であることに強いこだわりがあり、米国の諸外国に対する優位性を脅かす存在として中国を警戒する。
バイデン前大統領やトランプ大統領に限らず、対中警戒感は議会や市民の間で広がっている。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を阻止するとの決断をバイデン大統領が下し、トランプ大統領も完全子会社化ではなく「投資」という形に修正するよう求める背景には、日本製鉄が中国の宝山鋼鉄と長年合弁事業を展開してきたことが影響している可能性がある。
メキシコに高関税を示唆する背景には、メキシコで生産した製品を米国へ輸出する中国企業への警戒感があることも考えられる。メキシコのように中国企業を積極的に受け入れ、製品を米国へ輸出している国々もトランプ関税の対象になる可能性がある。すなわち、ベトナムやマレーシア、インドネシアなどASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国も、今後はトランプ関税に“被弾”する恐れがある。グローバルに事業展開している日本企業は、その点も念頭に置いておくべきだろう。
(了)