ドキュメント・アスクル株主総会(前編)「カリスマ経営者が抜けて大丈夫なのか?」

ドキュメント・アスクル株主総会(前編)「カリスマ経営者が抜けて大丈夫なのか?」

2時間の長丁場、不信や疑問の声相次ぐ

アスクルが8月2日に東京都内で開いた定時株主総会は、資本・業務提携しているヤフーや第2位株主のプラスの反対により、岩田彰一郎社長と独立社外取締役3人の再任が否決、事実上解任されるという異例の展開となった。

アスクルの個人向けインターネット通販「LOHACO(ロハコ)」の収益改善をめぐる意見対立は、提携しているはずのヤフーとアスクルの関係を修復困難なまでに悪化させている。約2時間にわたった長丁場の株主総会でも双方の見解は平行線をたどり、株主からは不信や疑問の声が相次いだ。関係者に禍根を残した総会をドキュメントで2回に分けて振り返る。


総会が開かれた東京・飯田橋の「ホテルグランドパレス」

カリスマ鈴木氏抜けたセブン&アイのような“ほころび”懸念

午前10時、都内の「ホテルグランドパレス」で始まった株主総会。壇上には岩田社長をはじめ役員が勢ぞろい。ヤフー出身で現在はアスクル取締役を務める輿水宏哲氏、ヤフー役員を務めているアスクル社外取締役の小澤隆生氏も並んだが、同じく社外取締役でプラス社長の今泉公二氏は所用を理由に欠席した。

ヤフーとアスクルが総会前に、既に岩田社長と独立社外取締役3人の再任反対で議決権を行使したと発表、4人の退任は不可避とみられていただけに、会場には開始前から不穏な雰囲気がただよっていた。

総会の冒頭、岩田社長は「アスクルとヤフー、プラスの間でガバナンス体制や議決権行使、LOHACO譲渡をめぐる件でお騒がせしていることをおわびする。本件が、上場子会社におけるガバナンスの在り方、独立社外取締役が果たすべき役割への議論が深まる契機になってほしい」と陳謝した。その後は会社側が決算の概要を説明。赤字が続くLOHACO事業も今期はV字回復を達成できるなどと前向きなコメントが出された。

午前10時半すぎから始まった株主からの質問では、トップバッターの株主が、総会前に相次ぎ報道された「岩田社長退任濃厚」との内容には非常に残念と語った上で、事前に準備したというコメントを読み上げた。

「セブン&アイ・ホールディングスはいわずと知れた超優良企業で、とても堅実な経営をしている。しかし組織を基礎から作り上げたカリスマ経営者の鈴木敏文氏が16年に内紛で引退してからほころびが目立ち、店舗オーナーとのトラブルや、キャッシュレス決済サービス『7pay(セブンペイ)』の早期終了といった問題が相次いでいるように感じる」と指摘。

同時に、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が強力なリーダーシップを発揮していることにも言及し「一般的に小売業は創業者、カリスマ経営者の影響が強く、業績にも大きな影響を及ぼすといわれている。アスクルも関係者が岩田社長に絶大な信頼を寄せ、長く苦楽をともにし支えた結果、現在の規模にまで大きく成長してきたと思う。岩田社長が引退された場合、今まで築き上げてきた信頼関係に何らかの影響があるのではないか。会社としてはどのように対応しているのか。私としては多くの悪い影響が出るように思えてならない」と強調。口調は淡々としているものの、アスクルの先行きを強く懸念する内容だった。まさに多くの一般株主が感じている疑問が冒頭に出された格好だ。

これに対し、まずBtoB(法人向けネット通販)部門のCOO(最高執行責任者)を務める吉田仁取締役が「(次の経営トップの)候補者を選定する仕組みをつくることで事業継続できるようにしている。担当しているBtoB事業に関し、円滑な成長をしっかりと継続するのが一番の使命と思っている。ガバナンスをしっかり利かせ、成長につなげていくことが非常に大切だ」などと説明。

岩田社長はまだこの時点では再任否決が決まったわけではないと前置きした上で、「アスクルは22年間、お客さまの方を向いて、お客さまのために進化していこうとしてきた。これは当社の遺伝子であり、企業文化。一朝一夕では壊れない。社員全員が思いを持って作っている。私がいなくなっても会社の風土、文化は変わらないと思っている」との見方を示した。


定時株主総会の会場への案内

別の株主は、岩田社長らがLOHACOの収益悪化の要因の1つに宅配料金が大きく引き上げられた「宅配クライシス」を繰り返し挙げていることに触れ、「そもそもそれだけの安い料金でやってもらっていたこと自体がおかしいのではないか」との疑問をぶつけた。

物流を担当する天沼英雄執行役員は「この間の宅配クライシスは徐々に値上げするのではなく、いっぺんにここまで引き上げると決めて、現実的にはヤマト運輸が交渉に来られ、われわれは90%以上をヤマトさんに委託していたので、影響をほぼ全て受けたような状況。そこから自社配送を加速させて、配送費低減を行い、今やっと、元には戻らないがかなりの低いレベルまでいったん戻している現状だ」と回答した。

他の株主からは「経営陣は結果が全て。岩田社長はこの総会でLOHACOに関して定性的な説明しかなく、KPI(重要業績評価指標)できちんと定量的に説明してもらわないと期中の進行状況や期末の結果分析ができない」と岩田社長に対する不満が漏れた。岩田社長は「経営は数字というのはまさにその通り。この総会ではそこまで詳しく話していないが、全てが数字の裏付けと達成の状況が社内できちんと作られ実行し、決算発表で進捗などをきちんと伝えている」と理解を求めた。

「共同事業として毎月1回ヤフーと話をしていた」

株主からはヤフーサイドにも質問が飛んだ。再任反対の議決権行使の背景を尋ねるとともに「将来、業績が事前の公約を果たせなければまた大株主の意向だけでこのようなことが行われるのか」と質問。

小澤社外取締役はヤフーの立場として「株主であるからには株主価値向上と株価上昇に最大限期待している。その大前提にのっとって申し上げると、基本的にはリリースなどで案内させていただいた通り、最近の株価や業績の低迷で、今回再任をしないということで判断した。これからどう、というよりはまずは業績ということ」と神妙な面持ちで語った。今後については「仮定の話なので回答は控えたい」と述べるにとどめた。

岩田社長が小澤社外取締役の発言を引き継ぐ形で回答。「一緒に新たな事業をやろうということで提携を結んだ。そこにはLOHACO事業をヤフーと一体となって成功させる、そのために力を合わせてやっていこうということ。毎月1回、ステアリングコミッティーという形で、LOHACOをどのように成功させようか、どのように(16年の埼玉・三芳町の物流センター)火災や宅配クライシスを乗り切っていこうかと話をしていた」と経緯を説明。

「LOHACOは大変苦しい思いをしたが、そういうことを乗り越えてやっていこうというのが本来の趣旨。そういう中で、業績は大きな責任と自覚しているが、共同事業でやってきて大きな赤字を抱えているという中で、われわれとしても事業は昨年12月、取締役会で大きな方向転換をして、それを実行に移そうとしている中でのこうした状況であり、大変残念」と無念さをにじませた。

その後も質問しようとする株主の挙手は続き、結果として質疑だけで1時間以上を要した。わずか1年前の総会で、岩田社長が行使された議決権全体の98%以上の賛成を得てスムーズに再任されたのとは全く対照的な進行となった。

(藤原秀行)

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