商業施設から初の再開発完了、「カテゴリーマルチ型」も機会創出図る
野村不動産が先進的物流施設の開発を進める上で、用地取得チャネルの多様化を促進している。このたび完成した案件は、同社としては初めて商業施設の跡地を再開発し、物流施設に転換した。開発競争は首都圏を中心に今後も激しいと見込まれるだけに、現在不動産業界で主流となっている企業の遊休地などを取得するのに加え、さまざまな工夫を凝らしてテナント企業の利便性が高く労働力確保でも強みを持つエリアで用地を押さえていきたい考えだ。
また、差別化の一環として近年注力している、マルチテナント型をより進化させた独自形態「カテゴリーマルチ型」も顧客の反応が良好なことを踏まえ、引き続き開発の機会創出を図る構えだ。
地元住民にも交通安全など最大限配慮
同社が千葉県習志野市で建設を進め、7月末に工事を終えた「Landport(ランドポート)東習志野」。同社独自ブランドの物流施設は全国で16棟に上る。今回の建設地はかつてイトーヨーカ堂東習志野店が存在していたが、2017年に閉店した。
建物などはJリートの旧トップリート投資法人が運用していたが、同法人が野村不動産系のJリート、野村不動産マスターファンド投資法人と合併。野村不動産が跡地を物流施設として再開発する流れとなった。
「Landport東習志野」の全体イメージ(野村不動産提供)
同社都市創造事業本部物流事業部の本多光樹氏は「物流施設としては好立地。周辺の賃料相場と大きく乖離せず、適正な水準に設定することができた」と語る。商業施設からの転換に際し、近隣住民からの理解を得ることに最大限配慮。地元町会とは頻繁に意見交換し、トラックの入出庫で安全を確保できるよう設計するなどしてきたという。
物流施設のテナント確保は労働力確保が大きなキーポイントとなっているだけに、商業施設が存在するエリアは住宅地が近くにあることなどから非常に魅力的だ。用地獲得は今後も企業の遊休地などを相対取引で取得することに比重が置かれそうだが、同社は総合不動産会社として他にもさまざまな種類のアセットに関する情報が日々数多く集まってくるだけに、既存建物を物流施設として再開発する手法はこれからも有効と展望。他のアセット担当とも連携していく方針だ。
業種は食品・飲料やEC、アパレル、パーツセンターに照準
カテゴリーマルチ型は現在一般的となっているマルチ型の汎用性は基本に据えつつ、入居企業の業種(カテゴリー)を物件ごとに特定し、扱う商品の特性などを踏まえた上でオペレーションの効率を最大限高める工夫を凝らすのが大きな特徴。これまでにも、千葉県柏市で開発した「Landport柏沼南Ⅱ」はあらかじめ「通販・アパレル」を対象のカテゴリーに設定し、メザニン(中2階)を設けて保管・作業効率を向上させ、季節波動を吸収できるようにすることを念頭に置いて設計。その狙い通り、アパレル企業の利用を獲得した。
東京都青梅市の「Landport青梅Ⅰ」は対象カテゴリーを「工業材・保守パーツ」に据え、ウイング車による入出庫がスムーズにできるような設計を施したほか、スチールコンテナや2・5トンフォークリフトといった相当重量のあるものも支障なく扱えるよう、床荷重を増すなどの工夫を凝らした。現在は日野自動車がパーツセンターとして運用、こちらもテナントのニーズを先回りしてうまく機能を提供できた格好だ。
日野自動車がパーツセンターを設けた「Landport青梅Ⅰ」(野村不動産提供)
本多氏は、カテゴリーマルチ型はエリアの特性などをじっくりと見極めた上で開発を検討していくため、事業全体における比率などの定量的な目標は建てていないと説明した上で「今後はこれまでにお客さまからいただいたフィードバックを基に、さらにカテゴリーマルチ型を進化させていくフェーズ」と強い意気込みを示している。当面は提案するテナント企業の業種として、食品・飲料、eコマース、アパレル、自動車のパーツセンターといった分野に照準を合わせていく考えだ。
他にも、3大都市圏をメーンとした国内開発に加え、今後は海外にも視野を広げていく見通しだ。野村不動産内でも東南アジアでの開発が課題として挙げられているという。同社が長年得意としている住宅開発と連動しての事業展開となりそうだ。
(藤原秀行)