※この記事は2015年12月8日に執筆されたコラムを再掲載したものとなります。
スウェーデンに本社を置く家具チェーン世界最大手のイケアは今年、同社の社会貢献基金、イケア・ファンデーションを通じて、難民キャンプ向けのシェルター1万戸を国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に寄贈した。
同社は製品のデザインから販売に至るすべてのプロセスを、物流のコスト効率に基づいて設計し、組み立て式の自社企画製品を割安な価格で販売することを武器にしている。そのノウハウが難民シェルターにも活かされている。
同社の製品設計におけるキーワードは「Air Out, Product In(空気を抜いて、製品を詰めろ)」。家具のパーツを、同社が「フラットパック」が呼ぶ段ボール箱に梱包した時に、ムダな空間が一切できないようにデザインしている。
フラットパックのサイズは欧州の標準パレット(1200㎜×800㎜)に基づいて規格化している。フラットパックをパレットに効率良く積み付けて、調達先の工場からハブ拠点、消費地の物流センター、さらには店頭までそのまま持ち込む。
パレット貨物を格納した高層ラックが並ぶ店内は倉庫そのものだ。通常のロジスティクス管理の対象領域を超えてユニットロードを徹底することでローコストオペレーションを実現している。
難民シェルターも通常のイケア製品と同様に、資材やパーツをフラットパック2箱にピッタリと収まるように設計して、輸送性を確保した。最大5人家族が使用できる広さ17.5㎡の仮設住宅を、現地で工具を使わず4時間程度で組み立てられる。サプライチェーンに配慮した製品設計「Design for Supply Chain(DfSC)」の好例だ。
ただし、eコマースの拡大によって、同社のビジネスモデルに現在、転機が訪れている。フラットパックのサイズや重さは企業間の輸送モードに最適化されている。大型のフラットパックを宅配便や引越便で個人宅に送れば極端に送料が高くついてしまう。そのためネット販売で後手に回った。現在、巻き返しを図っているが、既存のサプライチェーンの完成度が高いだけに変革は容易ではなさそうだ。
(大矢昌浩)