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Logistics as part of smart city―物流イノベーションに必要な4つのトレンド―【GROUNDコラム 第2回】

Logistics as part of smart city―物流イノベーションに必要な4つのトレンド―【GROUNDコラム 第2回】

連載「物流危機を乗り切るための10の視点」第2回

Logistics as part of smart city
―物流イノベーションに必要な4つのトレンド―
GROUND 小林孝嗣 CTO

未曾有の人手不足など逆風が吹きつける物流業界。この危機を乗り切り、持続可能な物流基盤を確立していくには、まず現状を正しく認識することが不可欠とロジビズ・オンラインでは考えています。

物流業務効率化の新技術開発に取り組むスタートアップ企業GROUNDのメンバーに、日々の業務で蓄積してきた知見を基に、業界全体が連携して生き残っていくための貴重な視点をリレー形式のコラムで提供いただいております。

全10回の連載コラムの第2回目は、第1回目で説明した物流や電子商取引(EC)を取り巻く環境と物流イノベーションに求められることなどを踏まえ、グローバルな視点で必要となる4つのトレンドを紹介・解説します。担当は国内外の技術動向に詳しいGROUND CTO(最高技術責任者)の小林孝嗣氏です。まさに今回のテーマを語っていただくのに最適な著者の登場です!

重視すべき「4つのトレンド」とは?

国際物流総合展2021 第2回 INNOVATION EXPO

ECやモバイルショッピングが浸透するにつれ、他人に配送してもらうことで消費者はいつでもどこでもお目当ての商品を手に入れられるようになりました。日本では、少子高齢化や共働き家庭の増加に代表されるような社会・経済の変化から、少量多頻度配送のニーズが増加すると同時に返品も容易になるなど、ECの裏側を支える物流の在り方に変化が求められています。

このように消費者の態様が進化していく中で、物流は消費者ニーズを理解するための動き(デマンドチェーン)と商品・製品の流れ(サプライチェーン)を両軸から捉える必要があります。

昨今、私たちの生活が便利になってきた裏には、インターネット、モバイル端末ネットワーク、そして演算処理基盤といった利用技術の発展があることは周知の通りです。一方、これらの技術がより価値を生み出すために必要なデータが消費流通の始点から終点までつながる形で整理されているかというと、ご存じの通り、そうではないのが現状です。例えば、明日必要なものを数日前から準備しておくよりは前日の午後に対応しても入手できる方が便利な場合があります。

ますます高度化する消費流通を実現するためには、リアルタイムでの在庫情報や在庫保管住所など、さまざまなデータと利用技術が融合することが非常に大切になってきます。ここでは、そのために必要な4つのトレンド、すなわち「Elastic logistics」、「Digitalization」、「AI-powered operations」、「Automation」について解説します。


データと利用技術の融合が非常に大切(写真はイメージ)

トレンド① Elastic logistics-「伸縮自在な物流」

「Elastic Logistics」とはElastic(伸縮自在の)とLogistics(物流)を組み合わせた造語です。つまり、消費者ニーズの変化に合わせて物流オペレーションを自在に変化させようとする動きです。仮に入出庫の物量が精度よく把握できたとしても、実際に対応する術を持ち合わせていなければ、作業者の増減で対応せざるを得ません。しかし、近年では作業者の時給単価が上昇しており、必要なタイミングで適切なスキルレベルの作業者を必ず確保できるわけではないのが現状です(作業者の時給などについては第1回の序論を参照)。

国際物流総合展2021 第2回 INNOVATION EXPO

この「Elastic Logistics」を実現するためにはビッグデータと自動化技術が不可欠となります。ビッグデータは需要予測の精度向上だけではなく、作業効率化や作業開始・終了のタイミングの判断、さらには求められる作業に必要な作業者数を再配置する判断支援など、物流責任者のさまざまな判断業務支援につながります。作業者が確保できない場合は、足りないリソース分の物流ロボットをレンタルするなど、迅速な対応が可能になることも前提です。


ロボットと人間の連携がますます重要に(写真はイメージ、アマゾン・ドット・コム提供)

トレンド② Digitalization-「デジタル化」

「Elastic Logistics」を実現するためにはデータが必要不可欠であることをお伝えしました。このデータは量だけではなく、質にも注意する必要があります。例えば、物流倉庫に保管される在庫商品の情報=データは、形状、数量、在庫ステータス、ロット数、荷姿など広範囲にわたります。この情報の質が低いと、ピッキングエラー率の増加や出庫効率の低下などサービスレベルの低下に直結します。

また、消費者が購入した商品を使うタイミングに合わせた出荷対応をするためには、受注データから出荷データまでがトータルに連携されていないといけません。自社において調達物流も販売物流もカバーしている場合を除き、物流データは多岐にわたる物流当事者によって散在しており、これらデータの連携自体が困難な場合が多いこともあり、デジタル化の需要は非常に高いものの、まずはデータ整備から作業パターン整備といった下準備に手間取る企業も少なくありません。

まず必要なことは、
①受注管理システム(OMS)、倉庫管理システム(WMS)、配送管理システム(TMS)に保存されているデータを連携させる
②作業の流れとボトルネックを可視化する
③ボトルネックを構造理解するために簡易的な分析を行う
④その結果を最適化につなげる一連のデータを分析する
――の4つです。

昨今、例えば人工知能(AI)への期待は高まり続けていますが、AIを本当の意味で活用するためには想像しているよりも膨大なデータが必要となります。現在、物流においては、そのデータ化が喫緊の課題となっているにもかかわらず、前述した①から④のデータ整備もまだできていないのが現状だと言えます。従って、AIの活用前にまずはこの①~④のデータ化を行うことが必要となります。

ロボットという「器」だけでなく「頭脳」を入れる

トレンド③ AI-powered operations-「AIが司るオペレーション」

国際物流総合展2021 第2回 INNOVATION EXPO

物流事業あるいは物流施設の責任者は、日々、入出庫指示や保管在庫管理対応、さらにはマテハン資産管理などに追われています。作業者の方々もやはり、当日出荷対応に翻弄されながら出荷時間に合わせた対応に追われています。

このように消費者の需要の変化に合わせ、膨大な在庫点数と多くの在庫情報から適切な作業指示を実現することはとても大変です。限られた倉庫スペースに保管できる物量も限られている一方、在庫点数を増やすことで消費者オーダーの失注回避(機会損失の回避)を目指さなければなりません。

AIとひとくくりに言っても、実はいろいろな要素技術が含まれます。深層学習や強化学習といった学習アプローチなどはその代表といえるでしょう。分かりやすく自動運転をAIの例に挙げ、この2つの学習アプローチを説明します。

自動運転における深層学習では、走行レーン、白線、信号など事前に集められた正しいデータ(「教師データ」と言います)に対して、自動車に搭載された各種センサーやカメラから集められるデータ(「訓練データ」と言います)から、どれくらい精度高く正しいデータを判断できるかを膨大なデータを使って訓練・学習させます。大量データが必要な理由は、同じ走行レーンであっても、日照、天候、時間帯、管理状態などによってさまざまなパターンが存在するため、ノイズが入ったデータでも正しく走行レーンを特定して自動運転ができるようにしなければならないからです。

つまり、ある地域や特定の走行環境だけを判断できるモデルではなく(「モデルの過学習」と言います)、新しいデータや異なる環境でも正確に対応できるようにしておくことが重要となるのです。こういった環境データを収集することにより、例えば初心者ドライバーが起こしがちな交通事故や判断ミスを回避したり、運転シミュレーション開発や走行支援部分の実装につなげたりすることができます。

一方で、強化学習とは人がほめられるとそのほめられた行動を行い、罰則が与えられる行動を回避するというような訓練データが存在しない環境において、ある一定のルールを設定し、罰と報酬を手掛かりに最適な行動を模索するアプローチとなります。

自動運転の例で言うと、道路標識や走行レーンのような限られた建造物を画像認識することはできたとしても、想定外の事象が発生した場合、深層学習では適切な行動結果を導き出すことはできません。つまり、訓練データの範疇・内容を超えた状況に出くわした際、運転頭脳が想定外のリスクを冒すことが考えられるのです。

例えば、高速道路で逆走する車に遭遇することはほとんどありませんが、もしそんな場面に出くわしたとしたら車を一斉に停車させるといった訓練データを用意した上で、運転モデルを構築しないといけないのです。


AIをいかに物流へ適応させるか(写真はイメージ)

AI-powered operationsと物流の関係

ここでは、自動運転の例で説明したAIをベースに物流作業への適応例を考えてみましょう。

物流事業あるいは物流施設の責任者による指示にのっとった作業結果データがメインデータとなるので、前述の深層学習の例で説明した教師データをそろえている企業は少ないでしょう。

この場合、まずは教師データをつくる必要があります。数理最適化というアプローチで地道に教師データのソースになるものを用意していくのが最善だと思います。自律型ロボットが見よう見まねで実践投入された後、時間をかけて賢くなっていく背景には強化学習という学習アプローチが組み込まれているはずです。

例えば、配送費を減らすには、出荷時の荷合わせ率を減らしたり積載効率を改善したりして配車数や配送頻度を減らすことが重要となります。人間の頭で、限られた容積スペースに数個の商品アイテムを多く詰め込むか考えることは非効率です。そこで、強化学習を使って空き容積を最も減らすような梱包方法や積載方法を計算するのです。

トレンド④ Automation-「自動化」

近年、皆さんも「Automation」について見聞きする機会が多くなったことと想像します。私自身の所感としては、「Automation」に本当に必要なものについての理解がまだ進んでおらず、誤解なども少なからずあるように感じています。

例えば、倉庫作業の自動化と言うと、よく挙げられるのが物流ロボットの導入という選択肢です。ですが、残念ながら「Automation」という観点からは、物流ロボットだけを入れても本当の意味での自動化・最適化の実現は難しいと言わざるを得ません。物流施設・倉庫の自動化・最適化を実現するには、物流ロボットという「器」だけではなく、「頭脳」を入れることが必要不可欠となるのです。

サービスベンダーの連携・協力が必要不可欠

GROUNDのロボットソリューション『Butler(バトラー)』や『自律型協働ロボット(AMR=Autonomous Mobile Robot)』は、導入すると採用・維持・教育が難しい物流作業者に代わって部分的な物流作業を効率化することができます。


AMRの使用イメージ(GROUND提供)※クリックで拡大

しかし、1日の物流センター作業は、入荷から出荷までよどみなく流れるのが理想的です。物流ロボットを使ってピッキング作業を自動化しつつ、いかに入荷・入庫作業を迅速にするか、その日の出庫指示に合わせて在庫配置を適正配置していくかを人の判断を待つことなく提示できる頭脳が「Automation」には必要となります。この頭脳に当たる物流作業判断支援ツールを導入することにより、物流ロボットを使用しなくても作業判断を自動化することやWMSやハンディーターミナルと連携させ、適切な作業指示と実行までをシームレスに対応することなどが可能となります。

GROUNDでは、この頭脳の一助となるAI物流ソフトウエア『DyAS(ディアス)』を独自開発していますが、物流・EC事業に寄与できる頭脳をつくるためには私たちだけの力では不十分です。今後も消費者ニーズの多様化・高度化に対応し、サービスレベルの向上および保管効率を最大化しながら一連の作業指示の精度を高めるためには、物流データの量を増やして予測機会を増やすとともに、物流データの質を高めることでしか精度の高い物流作業指示はできないのです。


「DyAS」のイメージ(GROUND提供)※クリックで拡大

繰り返しますが、これには事業者同志、特にサービスベンダーが広く連携・協力することが必要不可欠だと考えます。事業者が局所的にではなく、俯瞰的な視点を持つことにより、物流データの量を増やし、その質を向上させて頭脳を創り出すことの意義を理解してもらえるのではないでしょうか。現在言われている「Automation」は、ツールしかありません。「Automation」とはハードウエアから成るものではなく、「人とソフトウエア」で生まれるものなのです。

最後に、世界的に見て、今後ますますタイムリーな消費者ニーズの実現が重要となります。小売業界や配送業界が真っ先にこのニーズに直面することでしょう。その裏では卸売業界や倉庫業界もこのニーズの変化に柔軟に対応できるよう技術投資を行う必要があります。4つのトレンドを理解しつつ、今後派生する周辺技術の理解も必要となり、物流領域全体で技術責任者の育成や確保がより一層重要になってくると考えます。

著者プロフィール
小林孝嗣(こばやし・たかつぐ)
アイ・オー・データ機器で経理・財務・内部監査担当として国内外の事業所の経営管理全般に従事。その後、米イェール大で修士、インディアナ大で博士号をそれぞれ取得し、同大とミシガン大で多変量統計・機械学習・確率的シミュレーション・経営地理学の授業を担当。
帰国後、ZS Associatesで定量的手法を駆使し、製薬企業向けの営業・マーケティング戦略策定を支援。また、アイ・エム・ジェイでは顧客行動分析・広告予算配分最適化・需要予測領域での新規事業開発およびR&Dを統括する。
その後は、スタートアップ企業での新規事業開発から総合商社による投資案件のビジネスデューデリジェンスまで、定性的・定量的なアプローチを使って支援するなど、営業・マーケティング・流通・金融・事業戦略の軸で活用した後、GROUNDに参画。2019年より現職。

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