郵政3社トップ謝罪会見詳報②
日本郵政の長門正貢社長とかんぽ生命保険の植平光彦社長、日本郵便の横山邦男社長は12月27日、東京都内で記者会見し、かんぽ生命が保険商品の不適切な販売を続けていた問題で金融庁や総務省から行政処分を受けたことを踏まえ、そろって2020年1月5日付で引責辞任することを発表した。会見の詳報を4回に分けて掲載する(発言内容中の敬称略)。
※第3、4回は12月28日以降に掲載予定です
会見で辞任の背景などを説明する(左から)日本郵便・横山社長、日本郵政・長門社長、かんぽ生命保険・植平社長
150年近い歴史の中で、民営化してまだ12年
――特別調査委の報告でも役所体質との企業風土の指摘があった。その風土に気づけなかったのか、気づいていたが改善が難しかったのか。経営する上で政官関係に関する難しさはあったのか。
長門氏
「ガバナンスの問題は繰り返しになるが、特別調査委のリポートで、ここに至るまでの理由がさまざまあった。かんぽ生命や日本郵便という会社としての問題、われわれ持ち株会社としての問題、その持ち株会社としての見地から言うと、ガバナンスはいくつか弱点がある、という指摘もあったが、これだけでは理由ではなく、この1点がとても悪かったから問題が起きたということではないと思っている。そのように捉えているので、あえて最後の段階で2点申し上げたのは、特に持ち株会社の見地から見て、ガバナンスが一部弱いと言われているところを強化する政策について、あえて12月18日に言っていない問題なので追加した。ガバナンスはとても大事なので一生懸命頑張ろうとは思っているが、役所体質が見破れなかったから今回の事態になったとは思っていない」
「長い148年の歴史の中で、民営化して12年だから、その前の郵政公社時代の4年半を入れてもごく一部なので、当然ながら歴史を背負ってこの組織は来ているので、役所体質と言えば、そう見えるような、いくつかの(民間企業との)違いは、純粋な民間企業から来ると感じる。会社に来てまずびっくりするのは、数字へのこだわりとかだいぶ違う。それからひょっとすると、自分のテリトリーはここだけだ、これ以上は自分たちは関係ないかもしれないという自分のテリトリーを増やしていくという情熱に少し欠けるかもしれないとか、いくつか特徴はあるが、これは企業として持っている1つの特徴なので、乗り越えていくべき課題だと思っている。いくつも今日申し上げたような具体的施策を作っていけば、そういう課題は乗り越えていけると考えているし、乗り越えていかなければ上場企業として立派に今後やっていけないと思っている」
「政官の難しさは当然ある。われわれまだ政府が株式の過半数を握っている会社で、いろんなステークホルダー(利害関係者)もいる。純粋な、ただの民間企業というほどフリーハンドでないことは事実だが、一方で非常に応援団になって、サポートしてくれる側面もあるステークホルダーもいる。こういう現実的な制約や特徴、プラス面をどう乗り越えて、どう使って良いパフォーマンスを上げていくかが経営の課題だと思っているので、特別調査委が提示したいっぱいある理由の中の2つで、そういう特徴はあるが、これが大きな理由で今われわれが立ち止まっているというわけではない」
――日本郵政の次期社長となる増田寛也氏に伝えたいことはあるか。横山氏は以前の西川善文社長時代にも日本郵政で働いた経験があるが、その当時と比べても難しいことがあったと感じるか。
長門氏
「後任の増田さんには、私が口幅ったく、手取り足取りこうした方がいいよ、ああした方がいいよというようなアドバイスはない。岩手県知事をされて、県政をマネージされた経験があり、総務相もやっておられて、まさしく私ども日本郵政が管轄されていたお役所の長もやっておられた。郵政民営化委員会の委員長も務めておられる。私なんかよりもずっと広い見知を持っているんじゃないかと思っている。今考えられる候補の中でベストの後継者を選び得たと感じている」
「1点何か言ってくれといわれれば、ぜひこの郵便局ネットワーク、郵政グループのポテンシャルを前向きに生かす方向で頑張ってほしいと。むろん、今のかんぽの問題をきちんととりあえずしっかりと、大変険しい山ではあるが上っていき、きっちりと解決していただくが当面のミッションにはなるとは思うが、例えば2015年11月4日に(日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の)3社同時で上場させていただき、海外にIRに行った。株の売り込みに行ったわけだが、何社かの海外投資家から、当時で145年ほどの歴史と、2万4千の郵便局、40万人(の従業員)が毎日きちんと郵便を配達している会社、総資産300兆円、こんな企業体はない、ものすごい可能性を感じていると言っていただけた。むろん、上場の際も株を買っていただいた」
「アマゾン・ドット・コムも(スーパーマーケットチェーンの)ホールフーズを買って、インターネットの世界だけじゃなくて、ハード、具体的な物にも触りたがっている。アマゾンのライバルのウォルマートも物理的なスーパーだけではなくて、今の時流のIoT(モノのインターネット)とかAI(人工知能)とかeコマースとの融合を図って、今アマゾンと対抗している。私どもは2万4000局もあって無駄なんじゃないかという声もあるが、物理的拠点、人間を持っているのがわれわれの特徴。今音を立てて時代は動いており、インターネット、eコマース、AI、IoTの時代だが、これと例えば融合すると、ものすごくポテンシャルのある企業体なんじゃないかと思う。ぜひそういう時代の中にあって、わがグループの長所を思う存分伸ばしてほしい」
横山氏
「今回あらためて思うことは、やはりお国の時代から縦割り意識は非常に強かったということだと思う。それが分社化して、その中でも縦割りというような組織風土もあるのではないか。そういう中で、お客さまから見れば、われわれ日本郵政グループは郵便局。ゆうちょ銀行、かんぽ生命ということではなく、郵便局としてご覧になっているということなので、やはりグループ全体が郵便局を中心に考えていくというような考え方を取らなければいけないが、その意識がちょっと薄くなっているのではなかろうかという気がする」
「やはり150年近く長く続く会社なので、いろんな慣行がある。それが人事上のものも含めて公務員時代から引きずっているもの、ここで個別には申し上げないが、やはり民間企業と比較すればこんなものがあるのかというようなものがまだ残っているという意味においては、まだまだ改善すべき点はあるだろうと考えている」
かんぽと郵便の後任社長、天下りではなく生え抜き
――かんぽ、郵便の後任社長に旧郵政省出身者を選んだ理由は何か。
長門氏
「今、この会社の経営者として選び得るベストの人間を選択できたと思っている。高市早苗総務相が(情報漏洩で)鈴木茂樹事務次官を事実上更迭された12月20日、天下りは駄目という種類の発言をされている。人によっては旧郵政省の内部の人間ではないかというご意見があるかもしれないが、今郵便とかんぽが抱える課題の解決をリードできるトップとして彼らがふさわしいと思ったので選んだ」
「私たちは落下傘として、雇われマダムと言われて違う民間企業からこのグループにやって来た。具体的な制約がある中で頑張るのが経営なので、文句言わずにやらないといけないが、例えばJRやNTT、JT(日本たばこ産業)を見て、民営化した先達企業のトップあるいは役員の方々はほとんどが内部昇格だ。このグループで経営を担ってきて1つ、つくづく思ったのは、旧郵政所とか日本郵便に入った、日本郵政やゆうちょ銀行、かんぽ生命保険に入った方々は、ポストが好きだから、郵便局が好きだから入っている人間が多いと思う。国鉄が好きだから国鉄に入った、電話が電電公社に入った、そういう人間が経営を担った方がいいという側面は多々あると思っている。惚れた会社で存分鍛えられたノウハウを、十分に翼を広げて頑張ってやってもらうという意味では、むしろ内部昇格の方がいいのではないかという側面も経営には多々あるなと感じていた。民間であろうが、内部昇格であろうが、しっかり経営力のある人がいいが、内部昇格と外部からの人間をぱっと比べた時の特徴として、ポストが好きだからという人間が経営をした側面も十分あるなと感じていた。しかも彼らは天下りでも何でもなくて、たまたま同時に、民営化して12年、その前に4年半公社時代があり、その前に郵便事業庁が2年あり、その時代にわがグループに来た人間。従って、役所からの天下りでも何でもなくて、郵政の生え抜きという人間。こういう人間の方がいい側面もあるなと思ったのが1つ」
「実際の実力ベースでは、(かんぽ生命保険次期社長の)千田は長らく、かんぽ生命にいた。むしろ出世が早過ぎたくらい非常に若い専務だったが実力者。最近の2年間、JPキャピタルという郵便局で新規業務は何をやればいいのかということを、ただ机の上でうんうん考えていても分からないから、自ら汗をかき、血を流し、お金を付けて、どういう業務が郵便局に向いているのか探るためのアンテナの会社を作ったが、その社長を2年間やっていただき、バランスシートだのP/L(損益計算書)だの投資リターンだの、勉強もしてもらい、たまさか今回こういう事件が起きた時に、かんぽに戻っていた男だ。直近は、お客さまの不利益のリサーチを、事務センターで昼夜たがわずやっているが、そこのトップで現場に張り付いてやってもらった。平均睡眠時間3時間で、今度の問題でも前面で闘った男なので、今選ぶとするとかんぽでベストだと思っている」
「衣川はかんぽの経験が長いが、千田が昭和59年(1984年)、衣川が昭和55年(80年)の入省だが、長らく郵政グループで苦労してきた男。直近は人事、労務などの担当をやってもらった。今般の問題は非常に現場でいろんな問題が起こっている。その現場の叫びがわれわれはつかみ切れていなかったのが、いろんな理由の中の1つ、大きな理由で今回の事件が起こっていると言っている。組合との折衝も前面で担当している男。そういうノウハウもきっと生かせると考えている。私どもの下で日本郵政の専務執行役をやっていた。経営会議を毎週やっている。ともすれば、先ほどの官僚文化が少しあるのかもしれないが、担当はそれぞれ、不動産担当とかシステム担当とか主計担当とか、議論を活発に行っているが、どうしても自分のテリトリーにこもった議論を、専務も常務もしているなという傾向を感じていたが、衣川は経営者の目で自分のテリトリーを超えて、これはおかしいんじゃないかとか、ここは問題点とか、こうした方がいいんじゃないかとか、最も積極的に経営会議でも経営の視点でものを言って参加してくれた男。ベストと思っている」
(藤原秀行)