ヤマトHD経営構造改革発表会見詳報③
ヤマトホールディングス(HD)の長尾裕社長ら経営幹部は1月23日、東京都内で記者会見し、傘下のヤマト運輸など8社を再編、本体に統合し純粋持ち株会社から事業会社に移行するなどの大規模な経営構造改革計画を発表した。会見での長尾社長らの質疑応答の発言内容を4回に分けて掲載する。
「マネジメント層がお客さまと離れつつあるのではないか」ヤマト会見詳報①
「いかに働きがいを生み出すかにシフトしなければ」ヤマト会見詳報②
「いったん『1つのヤマト』作り上げて大企業病を打破する」ヤマト会見詳報③
「状況は小倉昌男氏が懸念していた時代よりかなり深刻に」ヤマト会見詳報④
第一線の社員の姿を取り戻してあげたい
――「かつてのヤマトの姿を取り戻す」とはどういう意味か。なぜその姿が失われたのか。デジタル・IT投資1000億円との説明だが、具体的にどういうものに投資するのか。
長尾裕社長
「やはり私が申し上げたいのは、セールスドライバー(SD)ならびに第一線でお客さまと対面している社員は、リテール事業もそうだし、法人の現場になると営業マンもそう。ただ、かつてあまり法人営業マンはいなかったので、そういう意味ではSDをはじめとした第一線の社員ということになろうかと思う。やはり、第一線のSDをはじめとしたお客さまと向き合っている社員は普段から、毎日たくさんのお客さまとお会いしている。お届けだけで毎日120~130人のお客さまとお会いするし、集める方はプラスアルファになるので、毎日かなりの数のお客さまとご自宅で対面させていただいていることになろうかと思う。まずこの第一線の社員の皆さんは、お客さまのことをしっかり考える、その立場に立って考えるということにかなり特化させてあげないといけないということと、やはり安全運転にどう徹底するか、そして本来の本分はいいサービスをしながらいかに新しいお客さまを増やすか、そして今ご利用いただいているお客さまの満足度を高めて、さらに売り上げを伸ばすか、いわゆるセールスの部分」
「そういう意味で申し上げると、ヤマトの中で、いろんな意味でSDに対し、それ以外の項目のミッションが起きてしまっているのではないかと私は非常に懸念している。例えば働く時間の問題だったり、それ以外に例えば拠点単位のP/Lだったり、それ以外に先ほど申し上げたような、本来彼らに特化してもらいたいこと以外のミッションがいろんな意味で、現場の第一線に落ちてしまっているのではなかろうかということの懸念を大きく持っている。やはり仕組みとして、そのあたりのことを取り除いてあげて、本来第一線の社員が向き合うべきことに特化させてあげるようなガバナンスであったり、組織形態であったり、仕組みにどう作り変えるか。これは取り戻すというより、仕組みを作り変えないといけない。それによって、本来の第一線の社員の姿を取り戻してあげたいというのが、先ほど申し上げた言葉の意味だ」
牧浦真司常務執行役員
「デジタルの投資の中身は、今日の長尾の話を聞いてお分かりいただけたんじゃないかと思うが、いたるところでデジタル、データという言葉が出てきた。これは非常に広範囲にわたって、経営の全般にわたってデジタル、データを差し込んでいくということなので、投資の対象としても非常に広くなっている。第一線のSDのレベルでもいろんな業務をまず、無駄を見える化して、その上でデジタル化していくというところでお金を使っていくし、それから幹線などのベースといわれているところの効率化のためのデジタル化も大きいものがある。それから最先端としてシリコンバレーのスタートアップ企業と組むための投資もデジタル投資に入ってくる。それからたぶん、塊として出てくるのが基幹システムの刷新といったところも大きいものがある。今回、あらゆる側面で経営をデジタル化しよう、データドリブンにしていこうというところで大きく変えていこうというのが基本的な戦略だ」
「それからもう1つ大事なのは、今回、これはなかなか地味だが、業務のプロセスの徹底的な見直しもやっている。あらゆる業務プロセスを、いわゆるBPRをまず徹底してやって、あらゆるところで無駄を洗い出して、なくせるものはなくした上で、デジタル化していく。これによって、経営の効率を大幅に上げられるとにらんでいるし、具体的な数字、施策に落としていく。今回、発表は今になったが、かなり長い間、時間を掛けて、計画を練ってきているので、ある程度、データ・ドリブン経営がはやり言葉になるが、その裏付けとしては、かなり1~2年かけてPoCも回し、効果を検証した上で投資に踏み切っているところをご理解いただきたい」
改革の狙いなどを説明する長尾社長
「お客さま起点」が一丁目一番地
――純粋持ち株会社から事業会社になる理由は。再編後の社名はどうなるのか。
長尾社長
「やはり、経営のスピードをどう上げるかを考えていくと、もう一度お客さま単位の組織、冒頭申し上げたように、今回の改革で一番の、一丁目一番地はお客さま起点のヤマトをもう一度作ろうということ。それを実現するための手段として、どういう組織であるべきかということをみんなで検討した。その結果、申し上げた4つの事業本部を想定したわけだが、それが4つの会社だとどうなの、ということを考えていくとやはり近年のヤマトグループを見ていて、やはりそれぞれの会社ごとでのサイロ化が起きるのは全く否定できない。いかに各社、そして1つの会社であっても部署ごとのサイロがどんどん出来上がってしまうのはまさに大企業病としか言いようがないと考えている」
「やはりこの状況を大きく打破するためには、いったん1つのヤマトを作り上げて、1人の社長、1つの経営陣の下で、1つの本社の下で、現場と一体になってもう一度、先ほど申し上げた一丁目一番地を作り上げていくことを目指しているということ。当然ながら1社化することにより、いろんな間接的なことは削減できると思うし、それだけではなくて同時に経営陣と事業、現場との間の階層をどう簡素化するか、経営と現場をいかに近くするかということを同時に作ってまいりたい」
「社名はまだ決めていない。まだ1年あるので、しかるべきタイミングまでには決めて、こういう社名にするということはまたお知らせしたい」
――拠点などグループの規模は現状規模か、スリム化していくのか。
長尾社長
「拠点数に関して申し上げると、この数年でも少し拠点数は減らしている。何かというと、何もサービスを下げようということではなく、意味のある店舗展開かということをかなり水面下で精査している。よって当初、数年前まで3900くらい拠点があったが、ヤマト運輸だけで申し上げると3700くらいまでになっているので、200くらいは適正化というか、しっかり精査したということ。今後は、当然ながら新たなビジネスを展開していくので、必要なものは逆に増やす。先ほど少し、ソーティングを刷新するというお話を申し上げた。この展開も、この1年プラス3年の間にかなり終わらせようと思っているので、この中では少しソーティングの拠点を増やすことも検討している」
「ただ、それは大きく増えるということではなくて、業務としてニーズがある地域への出店だから、決して無駄に増やすという話ではない。同時に、逆に今展開している拠点の中でも、まだまだ重複であったり、今回事業会社を統合するので例えば先ほど話題に出たヤマトホームコンビニエンスの拠点だったり、ヤマト運輸の拠点だったり、いろんなところが同じ地域に重複しているケースもある。こういったものはやはり適切な拠点にある程度集約することも必要になろうかと思うし、逆に足りないところはまた新規で出店するということもあるから、ただトータルで見ると、ある程度今より大きく増えるという話ではなかろうと考えている。このあたりは、中期経営計画の際にはしっかり設計図として、最終何拠点にしようというものの設計図はより精緻なものは、お知らせしたいと思う」
――人員についてはどう考えているか。
長尾社長
「人に関しては、先ほどから申し上げているように、特にバックオフィスの業務の削減、そして仕分けに係る部分の省人化は大きくこの1年プラス3年の間で効いていると考えている。そういう意味で申し上げると、われわれはこれからグループ全体でもう一度再成長していこうということだが、具体的な数値は少し申し上げにくいが、基本的にトータルの人員数を増やすような計画は持っていないということだ」
自前にこだわらず適切なパートナーと組む
――グローバル展開について、今後どう考えるか。
長尾社長
「海外ビジネスはもちろん、当社としてこれから、日本の中だけでビジネスをするというのは、やはり先行きの成長は乏しいと考えているので、もちろん海外には力を入れていきたい。ただ、まず目の前、やはり一度過去に展開してきた海外事業については、しっかり成果が出ているものと出ていないものに整理整頓すべきだと考えている。昨年来からその見極めはしてきているつもりなので、年内にはそのあたりの整理整頓はしっかりしたいと考えている」
「過去、自前で海外でも宅急便をやるというようなことを進めてきたが、私は今回のプランの中でも申し上げているように、やはり自力にこだわる、自前にこだわるという時代ではもうなかろうと思う。適切な海外のパートナーと一緒にビジネスを作っていくというのが、よりスピーディーに、そしてより良いビジネスを展開するためには現地のパートナーとこれからビジネスを作っていく方が早いだろうと思っている。この数年で、マレーシアであったりタイであったり、一番古いところで言えば台湾もそうだが、かなりビジネスのこれからの展開が見えてきているパートナーもいる。今いろいろ話をしているパートナーもいる。そういった方々との連携をうまく作り、主にアジアでの成長に力点を置いてまいりたい」
――法人向け物流。地域向け法人は伸びると思うか。デジタルはどう活用するのか。
長尾社長
「グローバル法人で想定しているお客さまはかなりバリューチェーンの上から下までかなりカスタマイズしていくような、象徴的なクライアント。皆さん、200社くらいかなと想定しているが、それ以外の法人、それも宅急便としてかなりたくさんの荷物を今お預かりさせていただいている、いわゆるSDが向き合っていない法人のお客さまを対象に考えている。それらのお客さまとは、現在まではいわゆる宅急便をわれ割れはお売りして、その宅急便をお預かりすることのビジネス関係をしているところがほぼ大多数。ただ、本来的には、宅急便として出てくるまでには、やはりお送りになられている商材の調達や製造、いろんな工程がある。このあたりのバリューチェーンの上から下まで、ある程度パッケージ的に、お困りごとであるような部分に関し、ご提案していく、こういうプロセスがより必要になるだろうと考えている」
「もう数年前から少し、そういう、ヤマト運輸の中の法人営業部隊も従来からあまり数はいなかったが、そのメンバーの増強だったりスキルアップにも努めてきた。そして昨年から現行のヤマトロジスティクス、これは法人向けのビジネスに特化しているが、ここの営業部隊とヤマト運輸の法人営業部隊を今、合体させている。このあたりがある程度、デジタルでバリューチェーンの見える化をしていくことによって、従来とは切り口が少し違うご提案ができる可能性があると思っている。冒頭も申し上げたが、今BtoBもかなり小口多頻度化している。そういう意味では、当社の本来得意としていた領域がこのバリューチェーンの下流だけではなくて上流の領域も使える可能性が大きいと思っている。そこに対して、デジタルで見える化する、お客さまが欲しがっている情報をお返しする、そしてデジタルの部分の中にはお金の決済だったり、ブロックチェーンをはじめいろんな技術が見えてきている。このようなことを組み合わせて、サービス提供していくと、地域法人の部分は、私は成長領域ではなかろうかと想定している」
(藤原秀行)