LOGI-BIZ記事レビュー・物流を変えた匠たち⑭ウェザーニューズ

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トラックを「動く気象観測拠点」に

※この記事は月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)2018年5月号「つながる物流」特集で紹介したものを一部修正の上、再掲載しています。役職名や組織名、数値などの内容は掲載当時から変わっている場合があります。あらかじめご了承ください。

大雪や豪雨などの悪天候を事前に察知し、荷主企業や運送事業者の輸送ルート修正をサポートするサービスを本格的に始動させた。自社の予測とリアルタイムのトラック動態データなどを重ね合わせ、修正の精度を向上。将来はトラック自体を「動く気象観測拠点」として活用する構想も温めている。

荷主と物流事業者の情報共有を後押し

1986年設立のウェザーニューズ(WNI)は民間の気象予測最大手だ。2017年8月現在、世界21カ国に34拠点を構え、衛星やレーダー、センサー、ライブカメラなどバラエティーに富んだ観測インフラを国内外で駆使。世界50カ国・地域に気象情報を日々伝えている。同社が手掛ける気象関連サービスを何らかの形で利用している企業は2500に上る。

全世界の外航船舶約6000隻に航海気象サービスを提供。航空機向けも1日当たり7000便が情報を活用するなど、創業当初から物流分野との結び付きは強い。ゲリラ雷雨や突風、竜巻といった異常気象が頻発する昨今は、精度の高い気象予報を通じて日々の経済活動を支える“縁の下の力持ち”としての存在感を高めている。

インターネットで動画番組を配信するなど、個人向けのサービスにも注力。「みんなで作る天気予報」との理念の下、WNIからサービス利用者への一方的な情報提供ではなく、サービス利用者に“サポーター”として居場所周辺の空を撮影した写真とコメントをスマートフォンからWNIに送ってもらったり、自宅に観測機器を置かせてもらったりして、より草の根の気象データを収集、分析するユニークな取り組みを展開している。


24時間365日体制で気象や海象、地象のデータを収集、外航船舶や航空機などの安定航行を支えている(写真は千葉市のウェザーニューズ本社内)

WNIは多様なBtoBサービスの一環として、15年から荷主企業と運送事業者の双方を対象としたSCMのセミナーを年1回程度のペースで開催、物流の効率化向上に関する情報を提供している。荷主側は日用品メーカー、住宅メーカー、コンビニエンスストア、商社など多彩な顔ぶれだ。他にもトラック運送会社や鉄道会社、高速道路運営会社などが名を連ねてきた。

15年の第1回は「物流気象を考える会~供給先までのロジスティクスの高度化・効率化について~」、16年の第2回は「物流気象を考える会~連携によりETA(推定到着時間)の共有ができる!~」をテーマに掲げた。セミナーでは参加各社の担当者が、物流に影響を及ぼす気象のリスクを踏まえた上で、生産計画立案や商品配送、在庫管理などを適正化する試みを紹介。まさにWNIが触媒となり、荷主と運送事業者の連携強化を後押ししている形だ。

WNIの小縣充洋執行役員(SCMグローバル市場開発グループリーダー)はセミナーの狙いを「船や飛行機の世界は当社のサービスをご活用いただき、運航の一元管理ができるようになっている。陸上の物流でもそうした効率的な管理が実現できるようお手伝いしていきたい」と説明する。

WNIはセミナーが打ち出した“荷主と物流事業者の連携深化によるSCMのレベル向上”の体現を目指し、18年3月に新たなサービス「物流リスクマネジメントシステム」をスタートした。大雪などトラック配送に悪影響を及ぼす天候不順を事前に察知し、通行可能な道路を割り出して効率的な配送ルートの設定をサポート。トラックを一元的に管理することでサプライチェーンの停滞と混乱を回避するのが目的だ。小売事業者やメーカー、運送事業者を対象としている。

これまでも運送事業者ごとに同様のサービスを個別に提供してきた。18年2月に福井県で豪雪により約1500台が長時間立ち往生するなど、雪がサプライチェーン運営にもたらす脅威があらためて顕在化したのを受け、雪への対応をメニューに加え、台風や大雨、強風といったさまざまな悪天候に対応できる包括的なサービスとして提供する体制を整えた。

雪に関しては、気象庁が運用している地域気象観測システム「アメダス」の全国約320カ所の積雪計のほか、WNI独自の気象レーダーや、前述のサポーターが各地で送信してくれる積雪量などのリアルタイム情報を組み合わせ、降雪の可能性や実際の積雪量を細かく予測。運送事業者が作成している配送計画と重ね合わせ、通行可能なルートをはじき出す仕組みだ。配送当日はGPSを使って各車両の動態を把握、気候の変動などを踏まえて、必要に応じ臨機応変に通行ルートを見直す。

小縣氏は「従来は天候不良の場合、このまま高速道路で待った方がいいのか、それとも一般道を利用した方がいいのか、配送を中止して引き返した方がいいのかといった判断は現場を預かるドライバーの皆さんに任せられていた。配送に関する判断を最適化することで、ドライバーの方々の負荷軽減にもつながる」と利点を説く。トラックの到着が遅れたり、到着自体が不可能になったりした場合は、早めに荷主へ情報提供することで、荷主としても迅速に善後策を講じられる。

同システムはある道路がどれくらいの期間閉鎖されるのか、いつ規制が解除されるのかといったポイントをWNIが迅速につかみ、より正確なルート作成に役立てることを目指す。併せて、道路管理事業者側もどの道路を先に除雪すべきか把握できるようにして、サービスレベル向上を支えるとの青写真を描いている。

小縣氏は「独自の新技術を開発しただけでなく、既存のリソースを組み合わせて最大限有効活用した」と強調。SCM向上の触媒としての役割を一層果たすことに意欲を示す。


「物流リスクマネジメントシステム」の画面イメージ(ウェザーニューズ提供)

ワイパーの動きから雨雪を感知

同システムについては、気象予測の精度をさらに高めるため、将来はトラック自体を「動く気象観測拠点」として活用することを構想している。個人向け気象サービスにおけるサポーターのように各ドライバーから気象状況をスマホで連絡してもらうのは、運転中は無理なことなどから、例えばワイパーの動きを自動的に感知して雨や雪の降り始めを察知したり、渋滞が発生していないのに速度が落ちていることから天候悪化の端緒をつかんだりすることも考えていくという。「みんなで作る天気予報」が陸上輸送の分野で実現するかどうか注目される。

WNIは18年1月にも、三井物産と組み、荷主企業と海運会社の間で不定期船の利用を仲介するマッチングサービスに乗り出す方針を発表した。米国で合弁会社を立ち上げ、同7月をめどにサービスを始める予定だ。WNIが蓄積している海洋気象のビッグデータも活用し、最適な船腹を荷主に提供できるようにする構想を立てている。多様なアプローチでSCM全体のレベルアップに引き続き貢献していく構えだ。小縣氏は「今年の夏から秋にかけて物流リスクマネジメントシステムの成功事例をつくり、横展開していきたい」と話している。

(藤原秀行)

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