DXはエンジニアと他部門が連携した「ワンチーム」で臨むべし

DXはエンジニアと他部門が連携した「ワンチーム」で臨むべし

Hacobuが物流業界者ら向け大型イベントを開催(中編)

Hacobu(ハコブ)は2月6日、東京都内で物流事業者やメーカーの物流・IT部門担当者らを対象とした大型イベント「MOVO FORESIGHT(ムーボ・フォーサイト)2020」を開催した。昨年に続いて2回目。

前回の記事:日野自・下社長とセイノーHD・田口社長、物流変革の基礎はデジタル化と指摘

「デジタル・ロジスティクスをともに考える一日に。」をテーマに掲げたイベントの会場には、物流に携わる多様な関係者約500人が集結。IT導入の遅れによる非効率性が指摘されている物流業界でいかにデジタル化を図るかについて意見を交わした。

連続報告の第2回は、データとデジタル技術を活用して製品・サービスに加え業務や組織も大きく変革していくDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組むエンジニアらが登壇、デジタル化推進の際に留意すべきポイントなどについて意見を交わした内容や、元アスクル社長の岩田彰一郎氏らベテラン経営者が自身の経験からイノベーションを起こすために何が必要かを語り合った提案を紹介する。


約500人が集まった会場

経営陣は現場に権限移譲し見守ろう

「2つのDX」と題したセッション1には、先進技術で金融サービスを革新する「フィンテック」を手掛けるFinatext Lead Developerの石橋淳志氏、アスクル執行役員CTO(最高技術責任者)フューチャープラットフォームアーキテクチャの内山陽介氏、Hacobu CTOの戸井田裕貴氏が登場した。ファシリテーターはHacobu CFO(最高財務責任者)の濱崎惟氏が務めた。

セッションは冒頭、経済産業省が2018年に公表したリポートで、25年までに既存のシステムを刷新して最先端のデジタル技術を取り入れる必要があるがIT人材不足が障害になりかねないなどと警鐘を鳴らした「2025年の崖」と呼ばれる問題に言及。いかにデジタル化を有効に推し進めていくかに焦点を当てて、議論を進めた。

石橋氏は、金融業界のシステム改革などを日々担っている立場から、「DXの意味を履き違え、単に自動化したいだけでRPA(ロボティックス・プロセス・オートメーション)を導入すれば逆にシステムのレガシー化を進めてしまう」と警告。「現状抱えている技術的負債は何か、どうすれば解決できるかを考えた上で全体最適の観点からシステムの構造を見直していく必要がある」との持論を展開した。

併せて、「情報をエンジニアだけしか知らない、ビジネスサイドだけしか知らないというような状況ではアウトプットの質を高めることはできない。コンスタントに情報を(社内の各関係者に)提供していけばより開発を最適化することが可能になる」と述べ、エンジニアなど特定の部門間で情報を囲い込んでしまわず、幅広く共有していくことが生み出すサービスの質向上につながると解説した。

内山氏は、アスクルの一般消費者向けECサービス「LOHACO(ロハコ)」の開発責任者を務めている経験を話した。「当社は『考える』や『組み立てる』という部分は自社で手掛け、『作る』の部分は外注していたが、内製化した方がコスト削減につながることなどから自社でエンジニアを抱えて開発する組織体制に変更した。そこで『作る~考える~組み立てる』のサイクルが回り、ワンチームとしての結束力が生まれた」と分析し、「DXはエンジニアだけでなく社内全体で推進すべきだ」と“ワンチーム化”の精神を訴えた。

また、コミュニケーションアプリのslack(スラック)を用いてリアルタイムで各部署の担当者らが情報共有するなど「組織内の情報を見える化することが大切。経営層にまでDXの重要性を理解してもらうためにも地道な交渉が必要になる」と語り、社内全体でDXを進める意義を共有し、常日頃からコミュニケーションを取るようにすることが大前提として不可欠になるとアドバイスした。

戸井田氏は、業務の負荷軽減などを通じてエンジニアが働きやすい環境となるよう毎日腐心していることを明かし、「大切なのは経営層からエンジニアに権限を移譲してもらうこと。経営側は口出しせず見守るくらいの気持ちで開発チームを構築するのがよいのではないか」との見解を示した。

会場からは社内にDXを担えるような人材がいない場合の対応について質問が出た。内山氏は、もともとエンジニアではない人材をエンジニアに育て上げ、キャリアチェンジさせたケースもあると言及。「非エンジニアでもやる気があり、ちゃんと技術の勉強をする人、努力できる人はエンジニアに向いている」と強調した。


セッションに臨む(左から)濱崎、内山、石橋、戸井田の各氏

“泥沼で相撲”はやめて、EDIできれいな土俵に

続いて「個社最適から社会最適へ」をテーマにセッション2を実施。メーカーや小売業と卸売業をつなぐEDI(電子データ交換)システム運営のプラネット・玉生弘昌会長と、味の素での30年以上の勤務を経て現在はJ-オイルミルズの八馬史尚社長が登壇した。ファシリテーターは元アスクル社長で大企業とベンチャー企業のマッチングを手掛けるフォース・マーケティングアンドマネージメントの岩田彰一郎社長CEO(最高経営責任者)が担った。

玉生氏は、日用品や雑貨、化粧品、ペットフードなどの業界を広くカバーするEDIを構築できた歴史を振り返り、「かつて“卸不要論”が盛り上がったことがあったが、非常に一面的な見方。メーカーと小売りの間に卸という中間結節点がある方が、はるかに社会的コストが安くなる」と卸売業の存在意義を強調。EDIでそうした認識を関係者の間に広めることができたとの見方を示した。

さらに、「当時は“競争は店頭で、システムは共同で”とのキャッチフレーズを使っていた。伝票処理といった、それだけでは付加価値を生まない仕事は共同化した方がみんなのためになると理解していただいた。今までの泥沼の中で相撲を取っていたのを、もっときれいな土俵で相撲を取ろうとやってきた」と振り返り、EDIの効能を分かりやすく説いたことが着実な普及につながったとの自負を示した。

八馬氏は、「物流は費用の問題もあるが、そもそもこれから先、お客さまへ安定的に商品をお届けできるのかという根本的な問題がある。業界団体で議論を始めており、個別(の企業ごと)でも提携などを通じて効率化を図ろうとしている。そうしたことを考えていかないといけない時代だ」と明言。

物流業務のデジタル化など変革に向け、社内で部署を超えて多様なテーマについて考える“たられば会議”を設置、議論を重ねていることを明かした。そうした経験も踏まえ、「社内の人間だけではなく外部の人にも(議論の場に)入ってもらう、外部とつながりを持つことがこれからますます必要になってくる」と予測した。

玉生氏は「若い人にはどんどん失敗しろと言っているが、意外と失敗しない。失敗した分だけ成長してくれればいい」と発破を掛けた。また、「経営者は相当勉強しないといけない。私は若い人に本を1000冊読めと言っている。それだけ幅広く勉強すべきだ」と来場者らにエールを送った。

八馬氏も「そもそも人は100%正しい答えを出すのか、逆に100%正しい判断をする経営者の下で働くのは本当に良いことなのかどうか、ということを考えている。誤りを重ねる中で学んでいくことが多くある」と玉生氏に同意、挑戦することの重要性をアピールした。

最後に、岩田氏が「生産性を上げる仕組みをつくって現場を豊かにするという思いがないと、労働集約的でコストを下げろと現場に押し付けて成り立ってきた物流を変革することはできない。雇用を守るためにも思い切ったDXをしないと現状は変わらない。株主だけではなく全てのステークホルダーに(成長で獲得した収益などの成果を)分配できる仕組みを整備することが重要だ」と締めくくり、物流現場のDX化進展に強い期待を寄せた。


セッションに登場した(左から)岩田、玉生、八馬の各氏

(川本真希、藤原秀行)

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