【独自取材・特別連載、動画】始動!「商社物流4・0」 三菱商事が挑む大変革③

【独自取材・特別連載、動画】始動!「商社物流4・0」 三菱商事が挑む大変革③

ローソンの配送網で「静脈物流」を効率化する

日本を代表する総合商社の一角を占める三菱商事が物流業界を変革しようと、倉庫から輸配送に至るまでの過程でデジタル化・機械化を包括的に進め、全体最適につながるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現する未来図を打ち出した。

そこで目指す究極の目標は、総合商社が多角的に物流基盤を再構築していくことで物を運ぶ側も受け取る消費者も笑顔になれる次世代の姿「商社物流4・0」だ。新型コロナウイルスの感染拡大で経済情勢は厳しいが、物流の重要性はますます増していくと予想されるだけに、同社が掲げる構想が着実に進むかどうかが非常に注目される。ロジビズ・オンラインは同社の取り組みを全4回にわたって紹介する。

第3回は、同社子会社のコンビニ大手ローソンが張りめぐらせた既存の店舗配送網を有効活用し、EC商品の返却や返品を担う「静脈物流」を効率化しようとする“発想の転換”を取り上げる。

過去の連載記事:
第1回 倉庫から輸配送でDX、全体最適を実現
第2回 必要な時に必要なだけロボット、「RaaS」が人手不足の救世主に

トラック戻り便の空きスペースに着目

三菱商事グループのローソンは全国に今年2月末時点で1万4444店舗を抱え、専用の配送センターから1店舗当たり多い日で7~8回商品を納めている。その物流網は社会を支える上でなくてはならない存在となっている。

これまでにも、日々の店舗オペレーションを下支えする強固な物流網を生かした新サービスとして、事前に予約したさまざまな商品を近隣の店舗で仕事帰りに受け取ることが可能な「ローソンフレッシュピック」を2018年に開始。現在は東京と神奈川、千葉の1000カ所以上で展開するなど、コンビニのサービスの幅を着実に広げてきた。

三菱商事は19年4月、物流網の有効活用でさらに踏み込んだ試みをスタートした。消費者がレンタルした商品の返却やEC商品の返品を店舗経由で手軽に行えるようにする「SMARI(スマリ)」だ。

対象のローソン店舗に配置している専用ボックス「スマリボックス」の扉を、EC事業者が発行したQRコードをかざして開錠し、同時に印刷されるラベルを該当する商品に貼り付けて納めれば返却・返品手続きが完了する。コンビニのレジで伝票への記入など面倒なやり取りをする必要がないため、消費者と店舗双方の負荷を減らすことができるのが強みだ。EC事業者にとっても、自社サービスの利便性向上による利用拡大効果が見込まれる。


店舗の「スマリボックス」(ローソン公開のYouTube動画より引用)※クリックで拡大

スマリを支えているのが、ローソン各店舗への商品納品後のトラックの戻り便だ。空いたスペースに回収したスマリの商品を納めるため、トラックドライバーの手間を大きく増やさずにトラックの積載効率をアップできるのが大きなメリットだ。

三菱商事の草場拓也デジタルロジスティクスプロジェクトマネージャーは「スマリは既にあるネットワークを有効活用してコンビニ店舗向け商品と共同配送することで、今の深刻なトラックドライバー不足への対応として、商品の回収や返品をカバーする静脈物流の全体最適を図ることができるのではないかという発想の下、進めている事業」と説明する。これまで帰り便はトラックの空きスペースを使ってローソン社内の書類を運ぶなどの活用ケースがあったが、基本的には空の状態で運行している状況だった。

帰り便の積載率をどのように高めるかは物流業界でもかねて各社が悩んできた古くて新しいテーマだ。三菱商事はそこで、コンビニとは別の分野の事業者から荷物を預かって運ぶことで帰り便を収益化しようという発想を生み出した。

草場氏は「ここ数年、アマゾンをはじめECの取り扱い物量が急激に増える中で、コンビニのようなリアル店舗の価値をどのように発揮していくべきかをずっと考えていた。その中で、店舗網と物流網をうまく使えるサービスはないかと検討していきた。まずは空きが大きい静脈物流の部分から手を付けていく」と語る。


スマリの物流網イメージ(ローソンなどプレスリリースより引用)※クリックで拡大

専用ボックス配置は1000店舗に拡大

スマリは当初、東京都内の100店舗で取り扱いを開始。その後、19年9月には東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の300店舗に、今年3月末には1000店舗にそれぞれ拡大しており、順調にサービスの利用を伸ばしている。

スマリを利用できるEC事業者もファッションやアクセサリーをレンタルできる「airCloset」を展開するエアークローゼット、クルーズが手掛けるファストファッションの「SHOPLIST.com(ショップリスト・ドットコム)」、靴やアパレルの通販サイトを展開するLOCONDO(ロコンド)、集英社の「HAPPY PLUS STORE(ハッピープラスストア)」、宝飾類を取り扱っているサザビーリーグの「ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)」を含む計8社に広がってきた。

草場氏は「これまではおおむね想定通りの物量の伸びを見せており、20社くらいを1つのゴールと考えている。積極的に呼び掛けていきたい」と意気込みを見せる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ECの利用が伸びていることもあり、今後の展開に期待をのぞかせている。

ドライバー不足は今後も急速に解消することは見込めない。それだけに、三菱商事ではローソン物流網を活用した共同物流はさらに拡大する余地があるとの見方を示している。

草場氏は「まずは現状の静脈物流の仕組みを関東エリアできちんと回るようにすることが先決。そうなれば、他のエリアへの横展開も視野に入ってくる。共同物流は組み合わせる荷物の調整などで非常に手間が掛かり、皆さんがご苦労されているだけに、ローソンのインフラを提供できる価値は大きい。社会課題の解決にも貢献できる」と力説する。その先には、他の小売業などが展開している物流網とローソンの物流網を連携させることも視野に入ってきそうだ。

(藤原秀行)

この記事の続き:【独自取材・特別連載】始動!「商社物流4・0」 三菱商事が挑む大変革④(完)

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