スタートアップと取引の大企業や出資者の問題行為、「独禁法違反の恐れ」と警告

スタートアップと取引の大企業や出資者の問題行為、「独禁法違反の恐れ」と警告

公取委が調査報告書、「片務的なNDA締結」「営業秘密開示要請」など列挙

公正取引委員会は11月27日、「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」を公表した。

連携事業者の大企業や出資者などから公平性に欠けたNDA(秘密保持契約)の締結要請といった納得できない行為を受けたことがあると回答したスタートアップ企業は全体の約17%に上り、そうした行為を一部にしろ受け入れた割合は8割に達した。受け入れた理由として、今後の取引への影響があると自社で判断したり、取引先から影響を示唆されたりしたケースが目立った。

スタートアップ企業が大企業と取引したり、ベンチャーキャピタルから出資を受けたりする際、不当な要求をされるケースが見られることが裏付けられた。

公取委はNDAを結ばないまま営業秘密の開示を要請されたり、スタートアップ企業にのみ秘密保持・開示義務を課される片務的なNDAだったりするなどの一連の行為が独占禁止法に抵触する恐れがあると指摘。今後監視を強化する方向性を示しており、産業界などに強く警告を発した格好だ。

物流関連でもスタートアップ企業が積極的に活動しているだけに、関係者は技術革新を妨げないためにも公平な取引関係の構築をあらためて求められている。公取委は経済産業省と共同で2020年中をめどに、スタートアップ企業と連携事業者間の契約に関するガイドライン案を作成、一般からの意見を公募する予定だ。

調査は19年11月に開始。創業10年程度で上場しておらず、成長産業領域で革新的な事業活動を行っていると認めたスタートアップ企業5593に調査票を送付、約25%の1447から回答を得た。併せて、144社にヒアリング調査を行った。

「顧客情報提供やデューデリ全費用の負担を要求」も

報告書によると、納得できない行為を受けた取引・契約段階(複数回答可)は「NDAに関すること」が30・6%で最も多く、次いで「出資契約に関すること」が26・9%、「ライセンス契約に関すること」が22・7%などと続いた。

一部にしろ納得できない行為を受け入れたスタートアップ企業のうち、約56%が不利益の発生を認めた。最も多かったのが「利益の低下」(50・0%)で、「当初想定されなかったコストの発生」(20・4%)、「資金繰りの悪化」(13・9%)などと続いている。

公取委は売上高が5000万円未満で法務担当者がいないスタートアップ企業は、5000万円以上で担当者も存在しているスタートアップ企業に比べ、納得できない行為を受けた割合が約2・5倍になっていると分析している。

その上で、具体的な事例を列挙。NDAを締結しないまま営業秘密の開示を要請されたり、スタートアップ企業側にのみ秘密保持・開示義務を課されたNDAを求められたり、契約期間が短く自動更新されないNDAを求められたりした事例は、独禁法で禁じる「優越的地位の濫用」の恐れがあるとの見解を示した。

また、取引先がNDAに違反してスタートアップ企業の営業秘密を盗用、スタートアップ企業の商品やサービスと競争するものを販売・提供するようになったケースは「競争者に対する取引妨害」の恐れがあると強調。

他にも、「共同研究の成果に基づく商品・サービスの販売先を制限された」「知的財産権のライセンス無償提供を要請された」「顧客情報の提供を要請された」「出資者からNDAを締結しないまま営業秘密の開示を要請された」「出資者が第三者に委託したデューデリジェンスの全費用を負担するよう要請された」といった問題行為がそれぞれ独禁法に抵触する可能性を認めている。

公取委は今後の対応として、今回の報告書の内容を周知徹底していくとともに、「違反行為には厳正に対処する」と明言している。

(藤原秀行)

報告書はコチラから(公取委ウェブサイト)

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