【独自取材】物流テックで日本を変革する⑧STANDAGE

【独自取材】物流テックで日本を変革する⑧STANDAGE

貿易実務を効率化する「デジタル商社」目指す・足立彰紀社長

人手不足などさまざまな課題を抱える物流業界を先端技術で変革していこうと奮闘する企業を紹介するロジビズ・オンライン独自企画の第8回は、貿易実務の効率化を手掛けるスタートアップ企業のSTANDAGE(スタンデージ)に焦点を当てる。

同社を創業した足立彰紀社長(CEO=最高経営責任者)は、先進技術を活用し、マーケティングから契約、発注、決済、配送まで包括的にサポートすることで中堅・中小企業も安全して海外展開できるよう後押しする「デジタル商社」を理想の姿に掲げている。

貿易に付いて回る送金など資金面の不安を解消するため、情報技術で金融サービスを変革する「フィンテック」も展開。大きな人口を抱え、今後の経済成長が見込まれるアフリカ市場をターゲットに据え、有望な商品の輸出を促進していく考えだ。


足立社長(STANDAGE提供)

ブロックチェーンで安全・安心な決済を実現

STANDAGEは2017年3月設立。現在は貿易に関する一連の業務を容易に進められる総合プラットフォームサービス「DiGiTRAD(デジトラッド)」を展開している。日本の企業がデジトラッドに商品を登録すれば、アフリカのバイヤーに紹介される仕組みだ。中堅・中小企業の海外事業展開を後押しすることに主眼を置いているが、大手企業などからの相談も積極的に受け付けている。

足立氏は共同創業者で副社長の大森健太氏(COO=最高執行責任者)と同じく伊藤忠商事出身。商社の基本とも言える貿易の実務に携わる中で、その非効率性に気付かされた。「商談から契約、送金、保険、運送手配に至るまで全ての過程がばらばら。マニュアルで対応しなければならなかった。紙の書類を大量に作成し、電話やファクスが幅を利かせるアナログな世界が残っていた。この現状を何とか変えたいと問題意識を持ったのが起業のきっかけだった」と足立氏は振り返る。

そこで、大森氏と意気投合してデジタル技術を駆使し、全ての貿易業務をワンストップで完結できるサービスの構築を決意。同サービスは昨年7月、伝統的(Traditional)な貿易(Trade)をデジタルで変えたいとの思いを込めて「DiGiTRAD」に名称を変更した。


DiGiTRADのサイト

まだまだ日本ブランドが十分浸透していないアフリカ市場に着眼、市場開拓をサポートすることに意義を見いだし、プラットフォームサービスでもアフリカ市場進出を支援することをメーンに据えた。ただ、アフリカの貿易業務を進めようとした際に障害となるのが、決済で大きな不安が残っていることだった。

貿易決済はL/C(信任状)を使った取引が重視されるが、輸入地となるアフリカの銀行ではL/C自体を発行できないケースも珍しくない。銀行送金を使おうとしても、間に銀行を複数挟むため手続きが煩雑で送金の完了に時間が掛かり、手数料もかさんでいた。代金を払っても商品が届かなかったり、商品を送っても代金がなかなか振り込まれなかったりと、中堅・中小企業にとってはアフリカ進出に二の足を踏む材料がそろっていた。

そこで、DiGiTRADは特定のネットワークに参加している複数のコンピューター間でデータを迅速かつ安全に共有可能なブロックチェーン(BC)技術を活用。デジタル通貨を使い、迅速かつ安全に決済できるサービスを確立した。BC上に「デジタル金庫」を設け、売り手と買い手、STANDAGEの3者が鍵を共有。売り手と買い手の間で契約が成立した後、デジタル金庫にデジタル通貨で入金があったことと商品が確実に届いたことをそれぞれ確認できて初めて金庫を開き、代金を売り手が回収できる仕組みとなっている。

用いるデジタル通貨は価格変動の少ないものを採用。送金のスピードは銀行間で大手ネット決済サービスでも1日要するところを最短でわずか数分程度で完了できるなど、利便性を劇的に改善。フィンテックを貿易の領域にうまく取り入れようとしている。

足立氏は「万が一、当社に事業継続のリスクが生じても、送金自体はBCで守られるようにし、利用者の不安解消に努めている」とメリットを強調。DiGiTRADユーザーの中にも、デジタル金庫を使った海外送金を利用しようとするケースが生まれてきているという。

先進技術と人的ネットワークの双方を重視

併せて、アフリカサイドの受け入れ体制整備に注力。STANDAGE自身、ナイジェリアのラゴスに拠点を置き、現地スタッフが活動している。加えて、昨年8月には旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)と業務提携を発表。HIS海外拠点スタッフが顧客に代わり、現地で営業活動などを担う海外リモート出張代行サービス「レンタルHIS」を活用、DiGiTRADに掲載した商品の営業や商談のアレンジなどをHISが手掛けている。

大手商社のアフリカ駐在スタッフらにも、現地の情報収集や商談代行などで協力を求めているという。足立氏は「新型コロナウイルスの感染拡大で海外出張がままならないだけに、当社がコロナ禍の前からアフリカに拠点を構えていたのは本当にラッキーだった。貴重なリソースを使い、貿易業務のサポートを拡充していきたい」と意気込む。

今年3月には資本・業務提携している山九と、インボイス(送り状)やパッキングリスト(P/L、梱包明細)など貿易に必要な各種書類の作成を無料でサポートするサービスを開始した。BCなどの先進技術というオンラインと、人的ネットワークというオフラインの双方を重視、日本発アフリカ向けの貿易を盛り上げていこうと考えている。

DiGiTRADの累計登録ユーザーは昨年末時点で約480、掲載製品数も約1900に上り、継続的に利用しているバイヤーらは数十社に及ぶなど、着実に普及が進んでいる。取り扱ってきた商品は中古車や中古の建機、産業用バッテリー、医療機器、化学品原料など多岐にわたっている。

足立氏は「アフリカでは東南アジアとは異なり、まだまだ性能の高さなど、日本製品の優位性が知られていない。しかし、欧米の製品が広く使われているという土壌があるため、日本の製品もブランディングさえきちんとやれば受け入れてもらえる素地はある」と分析。DiGiTRADでも引き続き、マーケティングや商談などの領域でサポートを強化していく考えだ。

東南アジアへの展開も視野に

今、最も重視しているのは「圧倒的にアフリカへの物量を集めて増やしていくこと」と力を込める足立氏。安定的かつ定期的に海上コンテナを出せるようになれば、現地への商品供給も早くなり、運賃も安くできると見込んでいる。

そのため、現地での物流ネットワーク強化に乗り出している。昨年末にはナイジェリアで貨物管理や輸送手配などをインターネットで受け付けるサービスを提供しているスタートアップ企業のMVXchangeと連携、DiGiTRADからMVXchangeのシステムにアクセスし、通関手続きなどを容易に済ませられるようにした。

さらに、ナイジェリアに加えてケニアやエチオピアなど主要な港湾や空港が存在する国で自社がオペレーションを管理する倉庫をトータルで5カ所程度まで増やし、アフリカの各方面に出荷できる体制を整えることを目指している。

アフリカでSTANDAGEの取り組みが存在感を一段と高めることができれば、次はタイやベトナムなど東南アジアへのDiGiTRADの展開が視野に入ってくる。「革新的ビジネスの創造を通じて世界の全ての地域を豊かにする」との足立社長ら同社メンバーの思いが発揮できる場がさらに広がっていきそうだ。

(藤原秀行)

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