航空貨物増で日系企業も海外の「空港至近」物件が選択肢となる可能性に着目
JLL(ジョーンズ ラング ラサール)はこのほど、韓国の物流施設市場に関するリポートをまとめた。
日本と同じく、最近は多層階のマルチテナント型物流施設の開発機運が高まっていると指摘。日本の先進的案件に匹敵するような延べ床面積が10万平方メートルを超える大型物流施設も登場している実態を紹介した。
新型コロナウイルスの感染拡大による航空会社の国際線減便で、空港に近接した物流施設の保管ニーズが高まっていると分析。今後、日本企業が割安な国外の物流施設を賃借する動きが広がるかどうか注目されるとの見解を示し、韓国の物流施設がその対象に加わる可能性を示唆した。
仁川国際空港のプレゼンスは依然高く
リポートは最近韓国で注目されている多層階のマルチテナント型物流施設は日本と同じく、大型トラックが各階に接車できる設計となっているのが特徴と解説。同国で近年新規供給される物流施設の9割超がマルチテナント型になっているとの調査結果に言及した。
日本の物流施設に匹敵したり、凌駕したりしている案件の具体例として、JLLが施設運営業務を受託しているドライタイプのマルチテナント型物流施設「アリーナス永宗(ヨンジョン)ロジスティクス・センター」を挙げている。同センターはアジアを代表するハブ空港の1つ、仁川国際空港に近接。地上6階建て、延べ床面積は19万1138平方メートル、各フロアの面積は約4万1000平方メートルに及ぶ。今年1月に竣工した。
各階の天井高は10メートル、床耐荷重は1平方メートル当たり2・3トンを確保。ルーフトップガーデンや200人収容可能なオーシャンビューカフェテリアなども備えている。
JLLは同センターに関し「地震が多い日本の物流施設では荷物の崩落リスクに備え、天井高を6メートル以下に抑えているものがほとんどだが、『アリーナス永宗』は天井高と床耐荷重において日本の標準的なマルチテナント型物流施設と比べても2倍近いスペックを有し、保管効率が高い。これはグローバル企業が物流施設に求める水準でもある」との見解を示した。
同センターは航空貨物に適した空港近接との立地に加えて、保税倉庫としての利用も可能な運用効率の高い施設規模・スペック、アメニティー設備の充実、約1時間でソウル市内へアクセスできる交通利便性などが総合的に評価され、アジア全域をカバーする拠点として欧米企業からも問い合わせが寄せられているという。コロナ禍による航空便の大幅な減少を背景として、空港近接の点で注目度を高めているようだ。
「アリーナス永宗」の外観(以下、いずれもJLL提供)
広い庫内
日本企業もコロナ禍で国際便減便を強いられる中、海外への航空貨物輸送が集中している成田空港の周辺では大規模なマルチテナント型物流施設に空きが全くない状態。海運で世界的なコンテナ不足が慢性的に続いている上、スエズ運河の座礁事故に伴う海上輸送停滞のあおりで、航空便の貨物チャーター運航数が拡大傾向にあることから、リポートは「海上輸送に比べてコストは割高だが、賃料が割安な国外の物流施設を賃借し、グローバルサプライチェーンを見直す日本企業も出てきている」とみている。
世界の空港管理者が参加している国際空港評議会(ACI=Airports Council International)が調査した20年の空港別貨物取扱量によると、仁川国際空港は275万9467トンで世界3位となり、成田空港(208万7657トン・世界10位圏外)を引き離している。仁川国際空港の1~3月期の国際線貨物量は78万6396トンで、成田空港の61万3253トンを28%上回った。
JLLは仁川国際空港の世界的なプレゼンスが高いことを踏まえ「コロナ禍で世界的にサプライチェーンの再編が進む中、日本企業にとって国外の物流施設も選択肢の1つとなり得るのか注目される」と締めくくった。
(藤原秀行)