【独自取材】短期集中連載・物流施設デベロッパー21社の戦略(第2回)

【独自取材】短期集中連載・物流施設デベロッパー21社の戦略(第2回)

三井不動産、三菱地所、野村不動産、オリックス不動産

2021年は早くも上半期の終わりに差し掛かり、年末に向け折り返し地点を過ぎようとしている。新型コロナウイルスの感染拡大で社会が大混乱する中でも、先進的な機能を持つ物流施設の需要が減速する兆しは見えず、新規の開発プロジェクトが続々と公表されている。

ロジビズ・オンラインは新たな特別企画として、主要な物流施設デベロッパー21社をメーンに、これまでの開発の軌跡と今後注目されるポイントについて、各社の公表事例やロジビズ・オンラインの独自取材などのデータを基に紹介する。

第2回は三井不動産、三菱地所、野村不動産、オリックス不動産の4社に焦点を当てる。

三井不動産
――「先進オートメーション倉庫」がお目見え

2012年に物流施設開発へ新規参入して以降、三井不動産のハイペースぶりが目立つ。総合不動産として国内随一の規模を持つだけに、幅広い顧客ネットワークを最大限生かした用地の取得に強みを持つ。同業他社の物流施設開発担当からも「物流適地を早く押さえる力は本当にすごい。絶対に侮れない」とため息が漏れる。

今年3月時点で国内の竣工稼働施設が31棟、延べ床面積が約250万平方メートルに及ぶ。年平均で5件程度の新規開発を続けてきたが、今後は6~8件程度までアクセルをさらに踏み込む構えだ。

JR貨物と東京都品川区八潮で延べ床面積が約17万4400平方メートルの巨大案件「東京レールゲートEAST」(22年7月竣工予定)を手掛けるなど、他社との共同事業にも柔軟に対応しており、今後も物流施設開発の領域で存在感を発揮し続けそうだ。

物流業界の人手不足を踏まえ、物流施設開発の新たな柱に自動化・省人化への対応を据えている。千葉県船橋市で6月完成予定の「三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)船橋Ⅲ」内で、自動化機器を積極的に取り入れた先進的なオートメーション倉庫を設ける予定。設備を使った分だけ料金を支払う従量課金制の導入も検討している。今後の物流施設開発に活用するためのモデルケースとなる見通しだ。


「MFLP船橋Ⅲ」の完成イメージ(三井不動産提供)

三菱地所
――ソフトとハード両面で差別化加速

三井不動産と同時期の12年に物流施設開発へ参入したが、当初は比較的事業拡大に慎重な姿勢との印象だった。しかし、同社と並ぶ国内総合不動産の雄として実力を発揮、ここに来て案件を着実に積み重ねてきている。

三菱地所が開発してきた案件は竣工ベースで累計18棟。今年の3月に埼玉県蓮田市、5月には同県春日部市で相次ぎ物流施設が完成した。さらに今年12月には千葉県船橋市、22年以降も神奈川県座間市で2棟など竣工予定が目白押しになっている。

施設の差別化に向け、ハードとソフトの両面で工夫を凝らしている。蓮田市の「ロジクロス蓮田」は共同部に施設利用者の利便性向上のため売店スペースを設けたほか、約500冊の書籍を備えた大型休憩室も導入。春日部市の「ロジクロス春日部」は三菱地所グループのメック・デザイン・インターナショナルと初めて共同開発し、休憩室で木を基調としたナチュラルモダンな空間を実現。デザイン性の高い家具やインテリアを取り入れ、従業員らがくつろげるよう配慮した。グループが持つ建築設計などのさまざまな機能と必要に応じて連携できるのが強みとなっている。

阪急阪神不動産と大阪府茨木市の彩都もえぎ地区で共同開発した物流施設2棟が6月に完成した。三菱地所はかねて他社との連携に意欲を見せており、今後も3大都市圏で事業の機会を探るとみられる。


「ロジクロス春日部」(三菱地所提供)

野村不動産
――「カテゴリーマルチ」が有力な提案に

野村不動産も物流施設開発の勢いが際立っている。今年3月、今後2年間で「Landport(ランドポート)」ブランドの物流施設を3大都市圏で計9棟建設していく方針を公表した。総延べ床面積は約38万9400平方メートルを見込む。同社の開発・運用棟数は全国の累計で39に達する見通しだ。

新東名高速道路の開通などで物流適地としての注目度が高まる関西の内陸部・京都で初めての案件を手掛ける計画。もともと新規の開発用地が少ない中部エリアでも優良な物流施設の開発に意欲をのぞかせている。事業エリアが広がりそうだ。

同社が物流施設の付加価値向上策の柱と位置付けている、「カテゴリーマルチ型」の案件は、今後開発する9棟中の4棟で計画している。ターゲットとしているテナント企業の業種特有のオペレーションに対応した施設仕様を施設の一部もしくは全体に盛り込むと同時に、将来のテナント入れ替わりに備えて汎用性も持たせるのが特色。既に大手自動車メーカーなどの採用実績があり、細かいニーズに対応できる有力な提案として今後も取り組む方針だ。

さらに、物流施設内の自動化・省力化ニーズに応えるため、荷主企業や物流事業者、マテハンメーカーなどと連携してロボットをはじめ先進技術の導入加速を目指す共同のプログラム「Techrum(テクラム)」を今春にスタートしている。既に複数の参加打診が来ているもようで、物流業界の関係者からは人手不足に立ち向かう新たな手法となることが期待されている。


約7・6万平方メートルとなる「Landport上尾Ⅱ」の完成イメージ(野村不動産提供、埼玉県上尾市で22年5月竣工予定)

オリックス不動産
――「グループ総合力」をいかんなく発揮

オリックス不動産は、東名阪エリアを中心に40件以上の開発実績を重ねており、国内でも先駆的に取り組んできたプレーヤーの一角を占める。近年は用地を厳選して事業の採算などを入念に検討する姿勢を堅持しているが、21年度は3大都市圏で計8カ所、順次開発に着手する方針。例年にないスピードを見せている。

荷主企業や物流事業者のニーズが底堅い中小規模案件を手掛けることが多いが、8カ所の中には、神奈川県愛川町で手掛ける予定の、同社過去最大級となる延べ床面積約18万平方メートルの案件が含まれている。EC事業者らの物流施設ニーズが根強いのを踏まえ、事業機会をとらえて大型案件にも触手を伸ばしていくスタンスだ。

開発に際しては、オリックスグループが持つ多様な事業リソースを有効活用する方針だ。具体的には、産業用ロボットレンタルや自動車リース、再生可能エネルギー、ヘルスケア、金融といった領域だ。

例えばテナント企業向けに物流施設で太陽光発電設備を導入、施設内の電力を賄えるようにしてコストを低減したり、庫内自動搬送ロボットをレンタルしたり、施設内にスポーツジムなどのヘルスケア関連設備を設けたりすることを想定。物流事業者の車両リースなどの面でも支援できるとみている。今後の開発でも「グループ総合力」をいかんなく発揮しそうだ。


大阪府箕面市で22年3月の竣工を見込む約6・4万平方メートルの「(仮称)箕面ロジスティクスセンター」の完成イメージ(オリックス不動産提供)

(藤原秀行)

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