付加価値を高め、物流クライシスから脱却する
インターシステムズジャパンは、主に医療、物流、金融向けにデータプラットフォームを開発する米インターシステムズの日本法人だ。同社が日用品卸最大手のPALTAC、車両管理システムのビズベースを講師に招き、2021年10月に開催して話題を呼んだ物流セミナーを誌面に再現する。(本誌編集部)
SCM4.0─実現への近道
インターシステムズジャパン
佐藤 比呂志 ロジスティクス営業部 部長
日本の物流はそのスピードと正確性において世界一と言っていい。これは物流の実務家たちがプロセスの改善、ボトルネックの解消、無理無駄の排除という地道な取り組みを積み重ねてきた結果であり、誇るべきことだ。しかし、その持続可能性が今、危機に瀕している。人手不足と現場の過大な業務負荷によって、“物流クライシス”と呼ばれる現象が顕在化している。
その原因を突き詰めていくと、「より良いものをより安く」という日本人の良心に基づく行動に帰結する。それぞれ企業としては正しいことをしているのに、全体として見ると必ずしも好ましくない結果となっている、いわゆる“合成の誤謬”が起きている。これを乗り越えるには発想の転換が必要だ。サプライチェーンの視点から物流を見ることで新たな展開が開ける。
日本ではSCMに関してまだまだ誤解があるようだ。「SCMとは何か?」と尋ねると往々にして「効率化によりコストを最小化すること」という答えが返ってくる。しかし、SCMの本来の目的は「売り上げ・利益の最大化」にある。同様に物流とは単なるコストではなく付加価値業務だ。物流コストについては既に「やれることはやり尽くした」との声も聞くが、物流の付加価値を高めるという観点からの取り組みはまだ手付かずと言っていい。
「SCM4.0」が新たな視座を与えてくれる。ドイツ政府が主導する「インダストリー4.0」から派生したイニシアチブだ。SCMはこれまでに4度の革新的進化を経ている。SCM1.0は内燃機関による輸送の機械化、2.0は自動化設備による荷役の機械化、3.0はITによる物流管理の機械化だった。そして今日われわれはロボットやAIを活用して操作や判断を省人化・自動化するSCM4.0の時代を迎えている。
コンピューターが人の手を借りずに判断を下して設備を動かすのに、何より重要になるのがデータだ。正確かつ不足のないデータを正しいタイミングでコンピューターに手渡さなければならない。その指令塔の役割を果たすのが「サプライチェーン・コントロール・タワー(SCCT)」だ。
その必要性は日に日に高まっている。しかし、いまだ実現できている企業は多くない。そこで当社では、レベル1からレベル4まで、段階を踏んでシステムを構築していくアプローチを推奨している。
レベル1は可視化だ。必要なデータがなければ当然ながら先には進めない。レベル2はアラート。イベントや異常が起きた時に自動的に警告を発する仕組みを作る。レベル3は意思決定支援。アラートが発生したのは何が原因なのか、問題を深掘りしていくのに必要な整理されたデータを可視化する。それによって適切な判断が可能になる。そしてレベル4でその判断をAIによって自動化する。機械学習、ディープラーニングなどのテクノロジーがそこで生きてくる。
SCCTの実現には、以下のような能力を持ったデータプラットフォームの活用が非常に有用だ。
・ 大量のデータを高速処理できること
・ データを蓄積しながら分析ができること
・ 多種多様なデータを処理できること
・ さまざまなアプリケーション、システムと連携できること
インターシステムズ社の「InterSystems IRISⓇ」データプラットフォームは、その全ての機能を備えている。創業以来40年以上にわたり独自のデータ管理ソリューションを提供してきた蓄積をベースに、われわれはSCCTの実現を支える基盤を開発した。既にいくつもの成功事例が生まれている。
データプラットフォームについて詳しく知るPALTACの挑戦
PALTAC 前田政士 専務執行役員
情報システム本部長
パルタックは日用品・一般用医薬品の卸売業だ。5万SKUの商品を取り扱い、年間35億個、国民一人当たり30個を市場に供給している。取引先メーカー数は約1千社、納品先の小売業は約400社、店舗数は5万店に上る。日本の生活必需品は多品種少量、低価格を特徴としている。われわれ卸売業がメーカーと小売業の間に入り流通を効率化・ローコスト化することがそのために不可欠だと考えている。
その要となるのが全国16カ所に建設した大型物流センター「R D C(Regional Distribution Center)」だ。大型のケース出荷センターとして「FDC(Front Distribution Center)」を各地に展開して、「ファイブナイン= 99.999%」の納品精度で全国をカバーしている。
卸売業を取り巻く環境は近年ますます厳しさを増している。とりわけドライバー不足は深刻だ。生活必需品をお届けする当社にとって、配送の改善は重要な経営課題であり、持続可能な流通の構築に向けて、個別の対応ではなく流通全体を視野に入れた取り組みをメーカー、小売りと共同で進めていかなければならないと考えている。
その一貫で内閣府が主導する「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)スマート物流サービス」のプロジェクトの一つ、「メーカー・卸売業のデータ連携に基づく物流効率化・共同化」の実証実験に参画している。
データ連携には日用品の業界VAN運営会社、プラネットの標準EDI「ロジスティクスEDI 2.0」(今年末には「2.5」をリリース予定)を利用している。メーカーの出庫指示データに「事前出荷データ(ASN)」を追加してもらい、プラネットのネットワーク経由でわれわれが入荷内容を事前に把握することで、入荷作業時間の短縮、検品レス、伝票レスおよびパレットの受け払いの自動化などを実現することを目指している。
実証実験に参加しているメーカーのASNデータは、現状では車両単位で商品が紐付けされている。これを将来的には「車両・パレット」単位で紐付けることを想定している。これにより入庫時の検品作業が、現在の発注番号単位の照合から、車両・パレット単位の照合に変わり、入荷作業を大幅に軽減できる。この運用における納品精度を確認できた段階で検品レスに移行する考えだ。
また当社は自社開発の入荷予約システムを全国21カ所の物流センターに導入した。「IRIS」をシステム基盤として採用して、パブリッククラウド上に環境を構築した。同システムの導入により納品トラックの待機時間は約3分の1に短縮され、取引先から大変好評を得ている。
入荷予約システムによって、センターに商品が到着するまでの庫内作業の時間調整、到着後のドライバー待機時間の短縮、またドライバーに予約時刻および接車バースの番号を自動通知することなどが可能になった。一方、ロジスティクスEDIは、検品レス、電子帳票化による受領書のペーパーレス化などを可能にするものだ。
この二つの仕掛けを連携することで、ドライバーがセンターに到着してから出発するまでの時間を大幅に削減できる。将来的にはデータの活用範囲を積載率向上や空車率削減などにも広げていきたい。
一方、パルタック側の庫内作業では、パレット単位のデータ連携をベースにしてスキャンレスに取り組む。現状では商品の格納先を識別するために ITFやJANコードなどのスキャンが必須となっている。RFIDや画像認識技術を活用してスキャンレスに転換し、そこからAGVなどの自動搬送装置による自動格納へと展開していきたい。
ロジスティクスと車両管理
ビズベース 安井 穂 代表取締役
われわれビズベースは、地図情報システムとインターシステムズのデータプラットフォーム製品「IRIS」の取り扱いを強みとするシステム開発会社だ。その知見に基づき、IoTデバイスで車両のデータをリアルタイムに取得して位置や軌跡を管理する車両運行サービス「ACO」を2016年にリリースした。コスト削減、安全対策、車両管理、業務効率化などの効果がある。
ACOで把握した各車両の急ブレーキ、急ハンドル、急加速のデータを基に各ドライバーに安全対策を指導することで交通事故が減る。それによって車両の修理代や保険料も抑えられる。無駄なアイドリングも減り、導入企業は燃料費を8〜12%削減している。さらには以下に説明するように車両管理の高度化や業務の効率化を実現できる。
ACOは車両のステータスを「走行中」「停止中(アイドリング中)」「エンジン停止」「危険運転車両」の4つのアイコンで地図上に表示する。さらに「危険運転車両」を指定すると、その車両の移動経路を表示して「速度超過」や「急ブレーキ」等が発生した場所を確認できる。「ジオフェンス」と呼ぶ機能も備えている。事前に設定した特定の範囲内に車両が入ると、管理者に自動で通知が届く。そして「レポート」機能で日報や月報を自動作成する。
ACOをIRISで構築したのはサーバー1台で3千台程度の車両を管理できるレベルのパフォーマンスを求めたからだ。IRISは非構造化データと構造化データを分け隔てなく扱い、大量のデータを高速処理できるため、通常のリレーショナルデータベースより親和性が高いと判断した。
ACOを活用した業務効率化の事例を二つ紹介する。一つはACOとWMSとの連携によるトラック待機時間の削減だ。先ほどのジオフェンスの機能を利用してトラックの発着を自動的に通知するサービスを開発した。
荷受けのトラックが到着まで30 分圏内に入ると、ACOが納品先倉庫のWMSにトリガーを発信。それを受けてWMSはその車両に積み込む荷物のピッキングの指示を出す。さらに車両が到着10分圏内に入るとACOが次のトリガーを発信、WMSが空きバースを指定する。トラックは積み荷が用意されたバースに待つことなく接車してすぐに出発できる。
二つ目の事例は配送ルートの自動作成だ。ACOクラウドが、その日の届け先と指定時間などの配送条件から、最適ルートを弾き出し、ドライバーのスマートフォンに指示を送る。リアルタイムの運行状況もACOでモニタリングできるため、新人や土地勘のないドライバーでもすぐに業務に就ける。急な欠員が出た場合にも他のドライバーで代替できる。
近い将来、全ての車両にIoTデバイスが搭載されてリアルタイムの運行データが自動的に把握できるようになれば、その情報とデータプラットフォームを組み合わせることでさらに多くのことが可能になる。まさしく物流DXが実現する。われわれはその支援をしていきたい。
お問い合わせ先
インターシステムズジャパン株式会社
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