JUIDA・鈴木理事長単独インタビュー(後編)
日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の鈴木真二理事長(東京大学名誉教授、東京大未来ビジョン研究センター特任教授)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
鈴木氏は、ドローンに関して物流や測量、農業、インフラ点検などの領域以外にも新たな活用方法が増えていくと予想。JUIDAとして、専門的な操縦技術に関するライセンスの発行による安全性確保などでドローンの産業利用をさらに後押ししていきたいとの考えを表明した。
また、都市部だけでなく地方エリアでもドローン活用を広げていくため、人材育成を図る重要性を指摘した。インタビュー内容を全3回に分けて紹介する。
鈴木理事長(JUIDA提供)
日本の国土保全へ林業にも採用
――ドローンの活用は物流や農業、インフラ点検などに加え、今後も多様な領域に広がっていきそうですね。
「今後は林業でもドローンの活用が期待されています。JUIDAとしても林野庁さんにご協力し、森林や山の測量などでドローンの利用を広げようとしています。林業にドローンをどう使っていくのかというところは、日本の国土保全という大きな課題に直結します。そういう意味では非常に重要なミッションだと思いますね」
――JUIDAは林業従事者向けにドローンを使った森林測量に関する専門ライセンスを創設しました。こうした専門ライセンスはさらに種類が増えていきそうですか。
「やはり普通にドローンを飛ばす場合と、ある業務に特化して利用する場合で求められる知識や機能はだいぶ違います。私自身も実際に現場を見て、そのことを実感しています。今は林業と併せて、プラント点検に関する専門ライセンスも運営していますが、点検もドローンが空を自由に飛行するわけではなく、建物の近くや中を飛ばしていくので新しいスキル、知識が必要になってきます。今後もある領域に特化した技能証明が求められていくのではないでしょうか」
「ただ、ちゃんとビジネスとして回るというエコシステムができてこないと、専門ライセンスを取ろうと思う人は増えていかないでしょう。仕組み作りも並行して進めないと、資格だけ取っても仕事がないということが起こり得ます。そこは腰を据えて変革していく必要があるでしょう」
――林業もそうですが、ドローンを産業領域で活用する場合、事業者が直接ドローンを保有するべきなのか、それとも別の事業者からその都度借りるといった形態を取る方がいいのでしょうか。
「林業を携わってる方がドローンを自分で飛ばすようにした方がいいのか、どういうやり方が一番無駄なく、経済的に効率が良いのかを考えていく必要があります。これは他の分野でも同じですね。例えば、東京消防庁の方々が今、ドローンを使う訓練をされていますが、どうしても機体の数は限られてしまうので、東京消防庁に加えて民間の人が消防隊のような組織を作り、活動するという選択肢もあると思います。一方で、やみくもにドローンを飛ばせばかえって迷惑になるかもしれない。使い方と併せて、技能を持った人にちゃんと資格を与えることなども今後検討すべき事柄でしょう」
――ドローン活用の上では人材育成もさらに重要度を増しそうですね。
「新しい技術を導入していく際には人材がボトルネックになりますので、人材をちゃんと養成していくことも重要な視点です。最近、岸田内閣がデジタル化のための人材養成計画を打ち出されています。ドローンはハードウエアを動かさなければいけないため、より深くて広い知識が求められます」
「昨年、長崎県の長崎駅に直結し、大型の国際会議などが可能な施設『出島メッセ長崎』がオープンしました。そのこけら落としの時に、私も伺ったんですが、地元の認定ドローンスクールの方々の協力を得て、JUIDAとして親子参加のドローン体験会やプログラミング教室を開催しました。若い人にドローンという最先端の技術に触れていただき、興味を持ってもらうことで将来の日本の担い手に育っていただけるようにすることもやはり非常に重要なんじゃないかと思いますね」
「米国は子供のうちからロボットなどの先進技術に触れさせる『STEM教育』に注力する動きが出ています。高校生や大学生にドローンを学ばせることによって自分で使えるんだという夢を与えることを目指しています。米国でも若者が技術に興味を失ってしまうことは深刻な問題です。それは若い人が既にもう世の中に技術があふれているため、自分が新たに貢献できることはほとんどないという気持ちを持ってしまっている側面があるのではないでしょうか。そこで、新しい技術を自分たちで作り出すことの喜びを知ってもらうことが大事です。ドローンはそういう意味で非常に適した教材です。組織的に、どうやって若い人に関心を持ってもらえるようにするかを考える必要があるでしょう」
技術などの国際標準化促進に意欲
――昨年はJUIDAなどが主催の国際展示会「JapanDrone」に関し、東京での開催に加えて地方版も行いました。地方でもドローンの関心を高め、人材育成など需要を盛り上げていくことが重要ですね。
「現地でドローンを扱える人たちを育てていくことが求められます。今はどうしても、ドローンを扱える人が都会から地方に行き、そこで実証実験を行った後、再び都会に帰ってくる形になっています。それでは地方に人材が定着しません。地方でも新しい技術を使いこなせる人材を育成するという意味で、ドローンが1つの教材として大きな役割を果たせるのではないでしょうか」
――先ほどお話のあった林業などの以外に、ドローンに関してはまだ着目されていないものの、今後普及が有望な領域はありますか。
「ドローンが非常に使われ出してはきていますが、まだ実証的な使い方のレベルです。ビジネスとして普通に使われるというところまではまだ定着していません。ドローンをいかに実証から社会実装へ移行し、普通の道具として使えるようにしていくか、そのために操縦ライセンスや機体の認証制度をいかに整備していくか。自動車も自分で勝手に作って街の中をドライバーズライセンスなしで動かせるわけではありません。きちんと車両を登録しなければいけないし、運転免許は必要です。そうした仕組みがあってこそ、自動車が生活の中に溶け込んでいる。ドローンはまさにそうした準備ができつつあるレベルです。最近は空中だけではなくて、水中で動かすことを前提としたドローンも登場しています。ドローンに関して新しい使い方は開拓していけばいろいろ出てくるでしょう」
――ドローンに関する技術などの国際標準化も日本が存在感を発揮していく上で非常に重要です。
「いろんな国際標準化が進みつつあります。今は、日本は日本、米国は米国、欧州は欧州といったようにそれぞれの国でドローンの制度作りが動いていますから、これをどう国際標準にしていくかが大事です。非常に大変な作業ではありますが、どこかで進めていかなければいけません。ISO(国際標準化機構)がドローンの国際標準を作る上で大きな役割を担っています。日本からも必要な標準化技術を提案し、ドローンの飛行に関するトレーニングのように既に規格化されているものもあります。標準化は国同士の戦いみたいになってきますので、日本は日本できちんと取り組んでいく必要がありますね」
(藤原秀行)