福島・会津若松市で地域内流通DXの実証実験を開始、23年度の事業化目指す
凸版印刷は7月11日、農産物の生産者と、宿泊施設や介護施設、飲食店など実需者となる地域の顧客を専用のアプリ上でつなぎ、生産情報と需要情報をマッチングするサービス「ジモノミッケ!」を開発したと発表した。
「ジモノミッケ!」ユーザー向けサイトのイメージ画像
サービスの使い勝手と事業性を検証する実証実験を同日、福島県会津若松市とその近隣地域で開始。農産物生産者30社と、宿泊施設、介護施設、飲食店、食品加工業者、小売店など30社が参加している。
「ジモノミッケ!」サービス概要図
実証実験は一般社団法人AiCT(アイクト)コンソーシアム(福島県会津若松市)の「食・農業ワーキンググループ」の活動の一環として展開。凸版印刷は「地域内流通DXとフードロス削減による農業再活性化プロジェクト」の責任事業者を務めている。ラクスルのハコベル事業本部もAIを使った配送のルート最適化で参加している。
デジタル技術の導入を進める自治体を国が支援する「デジタル田園都市国家構想推進交付金(デジタル実装タイプTYPE3)」の配分先として採択された会津若松市で、凸版印刷は地域内流通DXの実装を通じて生産者・実需者・地域が一体となった地産地消型の「食・農業」の実現を推進する。
凸版印刷は「ジモノミッケ!」を活用した会津若松市と近隣地域での実証実験を通じ、2023年度の事業化を目指す。併せて、膨大な都市の情報を収集・分析するシステム「都市OS」の導入地域を中心に「ジモノミッケ!」の水平展開を図り、30年度までに卸売市場など50拠点への導入と、「食農需給マッチングプラットフォーム」関連事業で10億円の売り上げを目標とする。
少子高齢化で消費市場全体の規模が縮小し、売り上げの拡大が見込めない中、多くの実需者はコモディティとしての農産物を欠品しないよう確実に仕入れるのと同時に、競合との差別化につながり、自社の利益率の向上に寄与する付加価値の高い農産物の仕入れに力を入れ始めている。生産者の顔とこだわりが見える地元産の農産物が象徴的な存在となっている。
ただ、地方都市の食品流通は、大都市への優先的な供給や一般消費者向け流通サービスの台頭で地元への流通・供給量が年々減少。地方での農産物流通は電話やファックスなどいまだにアナログな手段を介して取引されているため、実際の供給と需要を定量的に把握するのが困難。実需者は地元産の新鮮な農産物を手に入れづらく、都市部を経由し入荷される過剰コストのかかった農産物を購入せざるを得ないのが実情だった。
一方、生産者にとってはこだわりをもって生産した農産物もコモディティ品と一緒に扱われ、都市部への流通コストがかかることを前提にした価格で取引されてしまうため、高収益化へのシフトがしにくいことも問題だった。
同社は課題解決のために「ジモノミッケ!」を開発。地域内の供給情報と需要情報を可視化し、農産物流通の最適化を「デジタル」と「サステナブル」の両面から支える方針。。
「ジモノミッケ!」で生産者は「供給(サプライ)情報」、実需者は「需要(デマンド)情報」をPCやスマートフォンから少ないアクションで登録可能。「入札」(デマンド情報への生産者からのリアクション)や「落札」(サプライ情報への実需者からのリアクション)などマッチングの状況はリアルタイムで確認できる。
実需者用画面例(デマンド情報に関するタイムライン表示)
実需者用画面例(登録したデマンド一覧)
マッチング後は、指定日時に専任の配達員が生産者の軒下で農産物を集荷し、AIルーティング機能により算出された最適なルートを通って実需者に納品。無線通信タグを貼付したコンテナによるトレーサビリティ・温度管理ができる仕組みを導入し、安全な物流体制を構築する。
他にも、最適な取引相手の自動マッチング、都市OSとデジタル地域通貨の連携による現金化までのサイト短縮といった機能の開発にも取り組む。
■ 会津若松市での実証事業について
実証事業名 | 食農需給マッチングプラットフォーム実証 |
期間 | 2022年7月11日(月)から9月30日(金) |
目的 | 食農需給マッチングプラットフォーム「ジモノミッケ!™」のユーザビリティ及び事業性の検証 |
概要 | 参加者にアプリを提供しマッチングを行う。マッチング成立後、専任の配達員が生産者の軒下で農産物を集荷し、実需者に納品する。 <参加者> 会津若松市及び近隣地域の農産物生産者30社 宿泊施設、介護施設、飲食店、食品加工業者、小売店などの30社 |
運営団体 | 凸版印刷株式会社(実証の全体統括) 有限会社 会津中央青果(運営主体) PLANT DATA株式会社(アプリ開発) ラクスル株式会社ハコベル事業本部(AIルーティング機能の提供) 会津若松市農政課(広報支援) |
「プレ実証」(2022年6月27日~7月10日)中の様子(生産者から農産物を集荷:写真左、実需者に納品:写真右)
(藤原秀行)※写真や画像はいずれも凸版印刷提供