ソニーベンチャーズ・土川氏と環境エネルギー投資・河村氏が企業間連携や人材育成を提案
Shippioは3月2~3日、オンラインで大規模なカンファレンス「Logistics DX SUMMIT2023」を開催した。
国際物流とDXをメーンテーマに設定。登壇者は物流業界に加え、シンクタンクやロボットメーカー、大学、IT企業、ベンチャーキャピタルなど様々な領域から知識や経験が豊富なメンバー30人以上が集まり、物流業界が直面する人手不足やデジタル化の遅れなどの諸課題にどうやって立ち向かうか、処方箋について活発に意見交換した。
ロジビズ・オンラインでは、各セッションを順次、詳報している。第6回は3月3日の冒頭に開かれた「大企業にイノベーションが起こせるか~日本の産業の未来~」と題したパートのやり取りを掲載する。
ソニーグループ傘下でベンチャー企業への投資や事業成長支援ファンドの運営を手掛けるソニーベンチャーズの土川元社長、環境・エネルギー分野に特化したベンチャーキャピタル、環境エネルギー投資の河村修一郎社長が登場。Shippioの佐藤孝徳CEO(最高経営責任者)が進行役を務めた。
戦後の復興や高度経済成長を支え、多数の優秀な人材を輩出したことでも知られる日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)出身の土川、河村の両氏は、大企業で多様な任務に当たってきた経験から、大企業でもやる気と創造力のある個人の活動を後押しする体制を構築して人材育成に努めたり、優れたスタートアップと連携したりすることで産業界を刷新するようなイノベーションを生み出せるとの見解で一致。若手が活躍できる環境の整備を呼び掛けた。併せて、若手の人たちに対しても、起業やスタートアップへの転職で経験を積むことを推奨した。
セッションに登壇した(左から)Shippio・佐藤氏、ソニーベンチャーズ・土川氏、環境エネルギー投資・河村氏(以下、いずれもオンライン中継画面をキャプチャー)
エネルギーの強さや人材の質の高さにほれ込んだ
土川、河村の両氏は興銀に在籍し、それぞれ米国留学した経験もあるなど共通項が多いという。土川氏はベンチャー投資に携わるようになった契機について、米スタンフォード大学に留学した時に、優秀な学生を起業させようとする意識が強く、実際にスタートアップへの道に踏み込んだ人も多かった環境に触れたことを回顧。
さらに興銀へ戻った後、30代で証券化という当時としては新しいビジネスに参加、3~4年で50億円規模の利益を出せるようになった経験から、ベンチャー投資への関心を高めていったと説明した。
土川氏は興銀からソニーグループのベンチャー投資会社へ移った際の感想として「最初はやはり取り扱っている金額の小ささみたいなところに目が行くが、スタートアップの方々の中に流れているエネルギーの強さ、人材の質の高さというところにほれ込んで、どっぷりと浸かってやらせてもらって現在に至っている」とベンチャー投資の魅力を力説した。
河村氏は興銀入りした後、長らくエネルギー業界を担当し、その間に米プリンストン大学に留学。その当時を振り返り「当時の興銀やエネルギー産業はいかにその時々の位置付けを守っていくか、あるいは守っていくためのルールをどのように維持していくかが仕事の結構な部分を占めていた。大企業のビジネスをどのように新規参入から守るのか、そのために徹底的にルールも活用していこうということに加担していた」と明らかにした。
その後、海外のエネルギー業界でスタートアップが活躍を始めて地殻変動が起きていたことに気づき、「大企業の中で徹底的にイノベーティブなことをやるには壁があり、外でやろうということで、現在の会社を創業した」と背景を説明した。
佐藤氏が、大企業がイノベーションを起こす際、日本ではどのような課題があり、成功した企業はどのように課題を乗り越えたのかを質問。それに対し、土川氏はソニーグループの体験を紹介した。
土川氏は「ソニーに感じるのは経営のリーダーシップの強さ、社員のクリエイティビティの強さ、それを支えるプラットフォームがすごくしっかりしていること。その3つを特徴として挙げられると思う」と説明。ソニーグループの吉田憲一郎会長CEOと、十時裕樹社長COO(最高執行責任者)がともにグループ内でインターネット接続サービスを手掛けるソネットエンタテインメント(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)の経営に携わり、上場への道筋を付けるなど経験を積んだ上でソニーグループ本体に戻ってきた実例を紹介した。
「そうした経験からソニーグループの経営陣は当然、スタートアップから出てくる新しいアイデアみたいなものに対して、すごく胸を開いて接している。それは全社に伝わるものがあると思っている」と指摘、経営陣のスタートアップに対する理解が社内に良い影響を及ぼしているとの見解を示した。
併せて、「ソニーの場合、社員が自分はクリエイティブだと思っている比率が極めて高い。20年くらい前に実施したサーベイ(調査)でも、半分以上の社員が自分はそうだと答えるような結果が出ている」と解説。「今の経営層を見ても、やはりまだ(ソニー創業者の)井深大さん、盛田昭夫さんの薫陶を受けた世代であり、“ファウンダーズカンパニー”という色彩感がすごく強く残っているのがソニーという会社の特徴だ」と語った。
「事業変革についてはいろいろな議論があるが、ソニーグループの今一番の収益頭になっているゲーム事業はもともと、エレキとミュージックという既存事業のジョイントベンチャーで生まれた。社内のそういった前向きな発想から新しい事業を作り、それが今や儲け頭になっている」と述べ、変革への意識の高さについても強調した。
ソニー以外でも、TDKの事例を挙げ、「自分のところを大企業として捉えるよりは、もともとは東京工業大学発のベンチャーだという意識の下に経営されているという話を聞いた。存知のようにTDKさんは相当大きく変革されてきているが、そのスピードはそういうところにも(起源が)あるんだなと思っている」との持論を語った。
「ギブ&テイク」ではなく「ギブ&ギブ」
一方、河村氏は「イノベーションを起こすのはアントレプレナー(起業家)。われわれが出資するかどうかを判断する時も、基本的にはアーリーステージ(会社の立ち上げ期)なので起業家やそのチームのスピリットを見るということが(判断材料の)かなりの部分を占める」と説明。「大企業がイノベーションを起こす際にどういう課題があるかというと、そういった熱量のある個人が活躍できる風土があるのか、支援体制があるのか、というところではないかと思う」と分析した。
土川氏は、大企業がケイパビリティギャップ(成長の目標と自らの組織の遂行能力の差)を埋めるための選択肢の1つとして、有望な製品や技術を持つスタートアップのM&Aがあると言及。
「スタートアップの経営者を生かすことを中心に全体の(成長の)ストーリーをちゃんと組み立てることが必要になってくるのではないか。(買収先の)スタートアップがやりたいことに経営資源を投入し、グループ全体のバリューを高めていく方が短時間で成果が上がる」と分析し、大企業の側がスタートアップの事業を取り込もうとせず、経営者が力を発揮できるよう自主性を重んじ、サポートしていく方がPMI(買収後の統合作業)を円滑に進める上で有効との認識をにじませた。
河村氏は、再生可能エネルギーの開発を担っているスタートアップが時価総額で既存のエネルギー企業を凌駕するなど、海外のエネルギー業界でスタートアップの存在感が高まっていることを紹介。同業間などのM&Aが日本でもさらに促進されていくと予想した。
また、「大企業として認識しないといけないのは、優れたスタートアップにとってお金を入れてあげる、つまりギブするから足りないものをよこせとテイクするのは成り立たなくなっているということ。大企業にとっては『ギブ&テイク』ではなく『ギブ&ギブ』の姿勢が必要。機動的にまず何がギブできるのかというところから入らないと(スタートアップと)信頼関係もできないし、Win-Winの関係にもならないということは全ての投資先で起きている」と紹介。土川氏も「ギブ&ギブ」の考え方に賛同した。
若い人には儲ける体験をさせよう
土川氏は興銀時代、30代で新たなビジネスの経験を積めたことに再度触れ、「若い人にリーダーシップ研修などではなく、実際に儲ける、(新たなビジネスを)当てる経験をさせてあげることで、その後の人生の展開で自信になってくる。そういう機会を与えていくことが人材の育成につながっていくのではないか」との見方を示した。
河本氏は「(若い人にとって)大企業とスタートアップのどちらが魅力的ですか、という勝負が始まっていると思う。全員が全員、起業やスタートアップに向いているわけでもないので、既存の産業の中で(キャリアを)考えていく人もいるだろうし、やはり大手と言われる会社から飛び出していく人もいっぱい出てくるだろう。流動性が確実に増していくと考えておいた方がいいと思う」と話した。
最後に視聴している人たちへのメッセージを依頼されたのに対し、土川氏は「優秀な若い人をすぐに管理職にするのではなく、外に出して儲ける、当てる経験をさせてあげると素晴らしい会社の資産になってくる」と、企業の経営層にアドバイス。
河本氏は「大企業を辞めて起業したりスタートアップに就職したりして経験を積んだ上で同じ会社に戻るといったサイクルをどんどん作ってほしい。それがエコシステムだと思うし、Win-Winになると思う」と若い人たちにエールを贈った。
(藤原秀行、安藤照乃)