9000億円でTOB計画、非上場移行しサプライチェーン強化狙う
政府系投資ファンドの産業革新投資機構(JIC)は6月26日、東京証券取引所プライム市場上場の半導体素材大手JSRを買収すると正式発表した。
JICの完全子会社で企業へのエクイティ投資を手掛けるJICキャピタルが6月に新設した子会社を通じ、JSRにTOB(株式公開買い付け)を実施、全株の取得を目指す。全株を取得した場合、買い付け代金の総額は約9040億円に達する見込み。
JSRは同日、TOBに賛同する意向を表明、株主に対してTOBへの参加を呼び掛けた。TOBが成立すればJSRは株式上場が廃止になる見通し。
JICはJSRを傘下に収め、非公開企業とすることで、株式市場の動向などに左右されず迅速に設備投資などを進められる環境を整え、半導体関連のサプライチェーンを強化したい考え。今後はJSRを軸にした国内半導体関連企業の再編が進む可能性がありそうだ。
JICは「JSRが短期的な業績への影響にとらわれず、大胆かつ中長期的な戦略投資を、スピード感を持ち円滑に実行できるよう(JICが)戦略的パートナーとなりTOBを実施、非上場化を図り、構造改革や業界再編を機動的に推進する。本取り組みを通じて、わが国の半導体材料産業の国際競争力強化に向けた事業再編や民間資金獲得を推進していく」とのコメントを発表した。
TOBの期間は今年12月下旬をめどに始める方向で準備を進めている。TOB価格は1株当たり4350円で、JSRの6月26日の株価終値(3934円)から約1割高い。買収が報じられる前の6月23日終値からは3割超のプレミアムが付いている。TOB成立の下限は株式の66.67%と設定する。
JSRは1957年、合成ゴムの国産化を目指し、国策会社として発足した日本合成ゴムが前身。69年に完全民営化された後は半導体素材などに事業領域を拡大した。半導体の回路を形成する際に用いる素材のフォトレジスト(感光材)で、世界シェアの約3割とトップクラス。
(藤原秀行)