エニキャリ・小嵜代表取締役に聞く
2019年に創業したスタートアップのエニキャリはフードデリバリーとEC宅配を中心に、独自のラストワンマイル物流サービスを提供している。デリバリーが企業単位の取り組みではなく、企業を横断する“共通インフラ”として提供されている中国の流通変革に刺激され、日本でも同種のニーズが高まるとにらんで創業した。自社開発した配達管理システムと、ギグワーカーではない自社雇用の配達スタッフを強みに、急成長を果たしている。今後の事業展開などについて、小嵜秀信代表取締役に聞いた。
小嵜代表取締役
年間配送件数は前年の17倍
エニキャリはEC事業者に対し、販売サイトの構築、配達管理システムとの連携、自社配送網による即時配達サービスまで、ワンストップで提供している。配達エリアは今年6月時点で東京・神奈川・愛知・大阪の一部地域をカバー。今後は九州全域と京都への進出を予定している。年間配送件数は2022年12月時点で前年比17倍に拡大させた。
小嵜氏は2010年代半ばに仕事で6~7年ほど中国・上海にいた際、事業の着想を得た。当時の中国は、メッセンジャーアプリ「WeChat」のモバイル決済サービス「WeChatPay」や決済サービス「アリペイ(支付宝)」が出現し、キャッシュレス社会が出来上がりつつあった。日本ではキャッシュレス化だけがクローズアップされがちだったが、小嵜氏は連動して「流通そのものがラストワンマイルを中心に激変した」と指摘する。
インターネットとリアルを融合(オムニチャネル化)する動きが出始め、それに伴い中国のベンチャー企業が続々とラストワンマイルに特化した物流ビジネスに乗り出した。日本のように各企業でオムニチャネル化を進めるのではなく、どの企業でもオムニチャネル化できる「共通インフラ」としてラストワンマイル物流サービスが構築されていったという。
小嵜氏によれば、日本の流通は中国より4年遅れていると言われているため、日本でも必ずラストワンマイルのインフラが求められるようになると見込み、エニキャリ創業へ踏み切った。最初はフードデリバリーから始めた。その狙いについて、小嵜氏は中国のラストワンマイル物流企業もまずはフードデリバリーから参入していたため、ラストワンマイル事業の経験を積むには一番良いと判断したと語る。
福岡市博多区で10月に営業を始めた九州支店
システム活用し“非物流人材”を戦力に
エニキャリが注力したのが、システムによる配達管理だった。中国では従来、宅配便がデリバリーの基本だったが、オムニチャネル化に伴うラストワンマイル物流では、即時配達(注文から概ね60分以内に宅配するサービス)が若者世代を中心に急速に普及していった。中国のスタートアップ勢は、自動ルート選定などの機能を持つ配達管理システムを開発することで、こうしたスピード感あるラストワンマイル物流を実現していた。
エニキャリが開発した配達管理システム「anyCarry Delivery Management System(ADMS)」は、リアルタイムに入る配達依頼データに対し、スタッフの位置、起点・終点の地点情報を基に効率的に配達するための振り分けを自動で行う機能や、走行ルート上で定点計測したタイムレコードを集めて配達ルート検索アルゴリズムを改善する機能、選択したエリアの稼働状況や混雑状況の表示機能などを備えている。
このシステムを活用して、事業をフードデリバリーからEC配送にも広げた。クライアント企業の店舗(リアル、オンライン)の受発注情報とADMSをAPIなどでつないでおり、注文が入るとADMSからクライアントの倉庫や店舗に導入した専用アプリに自動で発送依頼が届く。配達員の専用アプリにも自動で配達指示が出される。商品のピックアップ地点と配達先が関東近郊同士・関西近郊同士であれば、朝までの注文で当日に配達が完了する。出荷後はGPSによって荷物の位置情報を把握する。
ADMSは、アルバイト学生などの“非物流人材”を戦力化する上でも効果を発揮した。エニキャリの配達員は、ギグワーカー(業務委託)ではなく、自社雇用が中心となっている。歩合制報酬のギグワーカーと違い時給制の従業員には、天候・曜日に左右されずシフトで必要な人員を確保できる利点がある。従業員側も、安定した収入が得られる。
「効率的なルートや、配達員は裏門から入る必要がある建物など、本職の宅配員なら経験で判断できることも、アルバイトでは分からない。だが、ADMSに蓄積した情報やノウハウを、専用アプリで逐一共有することで、経験の差は補える。システムの力によって非物流人材の物流人材化を進めたことが、当社のビジネスにおける最大の成果だと思っている」。小嵜氏は自信をのぞかせる。
自動で配達を振り分ける「配達管理システムADMS」
街中に休憩スペース用意、休息可能な協力飲食店も確保
制服やバッグを支給するだけでなく、街中に会社で借り上げた休憩スペースを用意したり、配達の合間にスタッフが立ち寄って休息を取れる協力飲食店を確保したりと、配達員の労働環境にも配慮。福利厚生の拡充は女性の戦力化にも寄与しており、23年時点で配達員の20.5%を女性が占めている。
23年6月時点で国内12カ所の拠点を持ち、500~600人の配達員を抱えている。現在は自転車便を中心とした配送と、協力会社のトラックや軽バンを利用して配送をしている。今後は自社で軽バンを持つことを含め、配送網の拡大を狙っている。
このほか、先駆的かつユニークな取り組みとして展開しているのが、「anyCo(エニコ)」という個人向けの即配サービスだ。駅での忘れ物の引き取りや、友人へのプレゼントを届けるといった、日常のちょっとした用事を、同社の配達員が代行する。中国ではごく当たり前のサービスだが、日本での認知度はまだまだ、ないに等しいという。小嵜氏は「日本で同種のサービスを見かけないのは、日中の人件費の差よりも、“おつかい”をプロに頼んで時間と手間を節約するという発想がなかったことが理由かもしれない」と推測しており、地道に浸透を図る考えだ。
全国で配達員の自社雇用に注力している
(安藤照乃)※写真はいずれもエニキャリ提供