【独自取材】「物流テック」で日本を変革する②souco

【独自取材】「物流テック」で日本を変革する②souco

マッチングサービスが“倉庫のシェアリング”実現・中原久根人代表取締役

人手不足をはじめ課題が山積している物流業界だが、悲観論一色ではなく「変革する余地が大きい」とプラス思考で捉え、先端技術で窮状を打開しようとする動きも盛り上がっている。ロジビズ・オンラインはそうした潮流を継続してウオッチし、プレーヤーたちの熱い思いを随時お伝えしていく予定だ。

第2回はウェブサイトを介して倉庫を使いたい人と貸したい人を仲介するマッチングサービスを展開している2016年創業のスタートアップ企業、soucoの取り組みを紹介する。これまで誰も手掛けてこなかった“倉庫のシェアリング”実現へ果敢に挑んでいる。

「物流の容量が企業の成長にキャップかけていた」

「今のところ、結構われわれの仮説通りに進んできたと感じている」――。同社の中原久根人代表取締役はこれまでの取り組みを回顧し、笑顔をのぞかせる。同社は都市部を中心に倉庫の空きスペースに関する情報を掲載し、随時更新。その規模は変動があるものの、直近でトータル290以上の事業者が利用登録をし、13万坪以上が利用可能なスペースとなっている。1日単位で1パレット分の広さから利用を始められるため、大手だけでなく、倉庫に空きスペースを抱える中小の物流事業者のキャッシュフロー改善にも寄与できるのが強みだ。

季節によって波動の大きい飲料やアパレルといった商品を一時的に保管したり、引っ越しの家具などを受け入れたりと多様な使い方が広がっている。次の長期利用テナントが見つかるまでの間、soucoを経由して短期での利用を獲得できるため、収益が途切れるのを回避したい企業にとってはまさに助け船的な存在だ。

さらには倉庫の空きスペースを登録している物流事業者が、荷物の取扱量が増える時は空きスペースを臨時で借りる側にもなり得る。中原氏はマッチングを有効活用しようとする企業の動きを「同じプレーヤーが違う役割を果たす。まるでシーズンごとに異なる収穫を挙げる二毛作のようだ」と表現する。


中原久根人代表取締役(中島祐撮影)

物を運んでほしい荷主企業と運びたい運送事業者をマッチングするサービスは以前より盛んだったが、倉庫を使いたい人と貸したい人をITで仲介するサービスはこれまで目立って存在していなかった。中原氏が新たな商機の可能性に出会ったのは、以前別のスタートアップ企業でEC事業を手掛ける事業者をサポートしていた頃だった。

この事業者が着実に業績を伸ばしているにもかかわらず、適切な倉庫を確保できないことが事業規模拡大の重しになっているのに気付いた。「物流のキャパシティーが成長にキャップをかけてしまうことが起きていると実感した。これはITをうまく使うことで解決できる問題なのではないかと思った」と中原氏は当時感じた衝撃を振り返る。

事業拡大に伴い商品の保管スペースを広げようと思っても、倉庫を借りる最小の単位が1000坪、2000坪といったロットで、期間も最短で1年からなどと設定されているのが一般的だったため、スタートアップ企業にとっては身の丈に合わない広大な面積を押さえる過剰投資になりかねず、倉庫の選択は慎重にならざるを得なかった。商品の季節波動が大きいアパレルなどの業界にとっては特に悩ましい問題だった。

中原氏はそこで従来顕在化していなかった「小規模」「短期間」のニーズが確実に存在するとの仮説を立てた。ITを活用し、サイトで空き倉庫の情報を共有化できれば確実に利用は見込めると判断、事業化に着手した。


マッチングサービスの流れ(souco提供)※クリックで拡大

“トップ3”との連携が大きな転機に

倉庫業界では異例の取り組みだっただけに、中原氏らが各方面へ意義を熱心に説いて回ったものの、倉庫事業者からはなかなかサービス利用の快諾を順調には得られなかった。自分の倉庫に空きスペースがあることを公には知られたくないと抵抗感を示す事業者、小さなスペースを短期で借りるニーズが本当にあるのかと懐疑的な事業者が少なくなかった。適切な契約の形態を考案し、荷物の破損に備えて専用の損害保険を準備し…と、クリアすべき課題は山積していた。

しかし、マッチングサービスの価値を理解するプロロジス、グローバル・ロジスティック・プロパティーズ(現日本GLP)、大和ハウス工業の物流施設デベロッパー国内大手3社と相次いで契約にこぎ着けたことが大きな転機となった。日本のトップ3とのパイプを構築できたことで、他の倉庫事業者もマッチングサービスに関心を寄せるようになって新たな利用を呼び込み、徐々に流れが変わっていった。

基本的に空き倉庫の検索から契約までを一貫してオンラインでできるプラットフォームを整え、契約は定型のフォーマットを準備。倉庫を使う際の荷物はパレット積みや木枠など荷姿を統一して取り扱いやすくするなど、マッチングをスピーディーに行える工夫を随所にしていることも評価され、大手物流企業が自社で展開している倉庫の空きスペース情報を提供するなど、着実に貸す側、借りる側の双方で利用が広がっている。

中原氏は「眠っていた倉庫スペースを有効に活用し、借りられる側も倉庫をより柔軟に調達できるようになった。誰でも、いつでも無駄なく、簡単に好きなだけ使える倉庫のシェアリングをさらに広げていきたい」と自負をのぞかせる。物流業界のベテランからも「仕組み自体は簡便なのに、これまで誰も気づかなかったのが不思議なくらい。着眼点が素晴らしい」と評価の声が聞かれるプラットフォームはますます存在感を増していこうとしている。


soucoのホームページ

サービスの海外展開も視野

今後の課題はどこにあるのか。中原氏は「倉庫の登録をさらに拡充していく必要がある」と力説する。現在は全体の約半分が首都圏、約3割が関西圏、残りが九州や東北などでそれぞれ占められている。都市部以外でもマッチングのニーズは見込めるとして、多様なエリアで倉庫登録をより獲得していく姿勢を見せる。さらにボリュームだけでなく、場所に関してもより柔軟に利用者のニーズに応えられるようにするため、倉庫の数を積み上げていこうと考えている。

中原氏は日割りとしている今の利用形態を、より細かく時間単位とするアイデアも温めている。「そうすることで、例えば長距離輸送の中継用施設として夜間だけ空きスペースを提供したり、国際物流の中継拠点として一時的に活用してもらったりとさらにマッチングの幅が広がってくる」との見方を示す。

マッチングのシステム自体はシンプルなだけに、日本だけにとどまらず海外でも展開可能に思える。中原氏も「サプライチェーンが世界中に張りめぐらされている今、物流の基本的な課題は共通しているところが多い。少なくともアジアにおいては当社のプラットフォームが日常的に使えるようになってくるのではないか。プラットフォームを活用してもらうことで、最適なタイミングで最適なところに商品を届けられるようになる」と中長期的な事業展開を念頭に置く。日本発の倉庫シェアリングが海外の人々に受け入れられる日はそう遠くないのかもしれない。

(藤原秀行)

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