ドライバーの長時間労働規制強化、「2024年問題」が本格的にスタート

ドライバーの長時間労働規制強化、「2024年問題」が本格的にスタート

業務効率化・省人化に加え運賃上げ待遇改善が急務、全関係者の決意問われる

トラックドライバーらの長時間労働規制を強化した働き方改革関連法の当該部分が4月1日に施行され、物流現場の混乱が懸念される「2024年問題」が本格的に始まった。トラックドライバーらの拘束時間や休息時間の規制を強めた改正改善基準告示も同日スタートした。

1人のドライバーでトラックを走らせることが可能な時間や距離が旧来より短くなっただけに、荷主企業や物流事業者は異なる企業間で荷物を混載する共同輸送の促進、荷積み・荷降ろしを迅速化するための庫内作業自動化、トラックから鉄道や内航海運へのモーダルシフト加速、一度に多くの荷物を運べるダブル連結トラックの普及支援などの対応を迫られている。

さらに、そもそもの根本的な問題として、ドライバー不足が深刻化する中、人材を確保してつなぎとめるためには全産業平均から2割程度低い賃金の見直しをはじめ、待遇改善が急務だ。政府は関係閣僚会議で、法規制の強化や予算を活用した補助などを多数打ち出し、物流事業者が運送に関して適正な運賃や作業料金を受け取ることができる環境の整備を図っている。

物流が社会生活を支える上で不可欠な存在との理解はようやく社会に広まってきた。物流業界のある関係者は「そんな中で荷主が運賃や作業料金を安く抑えようと物流現場に無理強いしようとすれば、もはや社会にとって害毒でしかない」と憤る。日本の物流を真に持続可能なものへ進化させるため、物流事業者以外にも荷主企業や政府・自治体、消費者ら全ての関係者の決意が問われている。


鉄道へのモーダルシフトなど対応が広がる(写真はJR貨物の静岡貨物駅で日本ネスレがトラックから切り替えた商品を搭載する現場)

「10%前後の賃金引き上げ」が最初の試金石に

働き方改革関連法の施行により、4月1日以降、トラックドライバーの時間外労働は「年間960時間」に設定。その規制と足並みをそろえる形で、改正基準告示は拘束時間の上限を現行の「年間3516時間」から「原則3300時間・最大3400時間」に短縮した。1カ月当たりでは現状の「原則293時間・最大320時間」を「原則284時間・最大310時間」に変更。1日の休息期間は現行の「継続8時間以上」から「継続11時間以上を基本とし、9時間を下限」に修正した。

こうした規制強化により、1人のドライバーが1日当たり走行できる距離は片道で最長約250kmとみられている。2024年問題は特に長距離輸送への影響が大きいだけに、荷主や物流事業者、自治体関係者などからは「農作物の産地や水産物の水揚げ地から消費地への輸送に支障が出る恐れがある」との指摘が多数出ている。工業製品の原材料輸送にもダメージがあるとの懸念は強い。

政府は2024年問題への対応として、補正予算を活用し、倉庫作業や輸配送の自動化につながる実証事業を積極的に支援。効率的な立地の物流施設開発も後押ししている。トラックから鉄道や内航海運へのモーダルシフトを進める前提として、鉄道や船舶の輸送量と輸送分担率を今後10年程度で現状から2倍に拡充する目標を設定するなど、挑戦的な取り組みも打ち出している。

併せて、物流事業を所管する国土交通省は物流センターでの長時間の荷待ちや荷降ろし作業の強要など不適切な行為を物流事業者に強いている荷主企業や元請け物流事業者を監視する「トラックGメン」を配置し、現場からの情報収集に注力。特に悪質な事業者は企業名を公表している。

他にも、一定規模以上の荷主や物流事業者に対して、物流センターの長時間の荷待ちなどを解消する物流効率化の計画を義務付け、違反すれば政府が社名公表などを可能にする法改正案を開会中の通常国会に提出した。運送事業を手掛ける物流事業者が荷主企業や元請けの物流事業者と運賃交渉する際の目安として利用を促している「標準的運賃」も平均で8%引き上げ、何とか運賃を上げる潮流を醸成しようと苦心している。政府緩傾斜は「”官製賃上げ”と言われかねないが、ぎりぎりの決断だ」と語る。

現状ではトラックドライバーの間で「これまでより長時間労働ができず、収入が減ってしまうため副業をやらざるを得ない」と本業以外に軽貨物のラストワンマイル配送などを手掛けようとする事例も聞かれる。それではかえって負荷が増し、「働き方改革」という本来の狙いと逆行してしまう。

「10%前後の賃上げが期待できる」。岸田文雄首相は2月に開催した「物流革新・賃上げに関する意見交換会」で、2024年問題を受けて政府が講じている諸施策が効果を発揮し、トラックドライバーの賃金が平均で10%前後引き上げられることに期待感を示した。元請けの大手物流事業者だけでなく、まさに現場の最前線で奮闘するトラックドライバーの所得まで効果を浸透させていくことが強く問われており、10%前後の賃上げ実現は最初の試金石となる。


「物流革新・賃上げに関する意見交換会」で発言する岸田首相(首相官邸ホームページより引用)

(藤原秀行)

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