「2024年問題」対応考慮、生鮮品に加え精密機器などの需要も開拓
JR東日本が管内の新幹線を使った荷物輸送に乗り出している。グループで物流事業を担っているジェイアール東日本物流と組み、2021年10月に新幹線の列車で荷物を運ぶサービス「はこビュン」の提供を開始した。
東京や新青森、盛岡、仙台、郡山、新潟といった主要駅で荷主企業から預かった荷物を積み降ろしている。新幹線が強みとしている運行の定時性やスピードを最大限生かし、生鮮品などを取り扱っている。
トラック配送との連携にも対応。精密機器や医療用検体などの輸送需要を掘り起こしており、「2024年問題」に対応した新たな輸送手段としてアピールしている。
(この記事は「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」2024年3月号の記事を一部修正の上、再掲載しています。役職名などの内容は取材当時のものです)
車内販売準備室を荷物スペースに
JR東が新幹線物流を始めたのは2017年。当初は新潟や長野などで朝に採れた野菜や果物を新幹線に乗せて当日中に東京駅まで運び、構内で産直市を開いて販売していた。新鮮な食品を購入できるとあって人気を博していたのと同時に、生産者からも自分たちが作った食品を大消費地へ素早く届けてもらえるため好評を得ていた。
そこで、JR東の社内から新幹線による輸送はビジネスにつながるのではないかとの声が上がり、生産者の需要を調査するなど事業化の準備を進めてきた。JR東マーケティング本部くらしづくり・地方創生部門の堤口貴子マネージャーは「当社が注力してきた地域活性化にも貢献できるとの期待があった。産直市に輸送していたのはそれほど多くの量ではなかったので、生産者の方々からはもっと輸送可能な量を拡充してほしいとのご要望もいただいていた」と振り返る。
21年4月にはJR北海道とタッグを組み、新函館北斗駅から東京駅を経て都内の飲食店などに鮮魚を定期的に届けるサービスを始めた。
はこビュンは現在、東北・北海道、上越、北陸、山形、秋田の各新幹線の始発駅と終着駅、一部の路線は途中駅でも荷物の積み降ろしが可能。JR北海道やJR西日本が管轄する駅も含んでいる。
輸送に当たっては、新幹線の1編成に2カ所ある車内販売準備室の1カ所を使用。この準備室は3辺の合計が120cmサイズの箱を約40個収納できる広さだ。対象駅のホームで荷物を積み降ろしている。
はこビュン利用者が出発駅に持ち込んだ荷物を到着駅の構内や周辺の指定した店舗などへ配送する。オプションとして、ジェイアール東日本物流が集荷して出発駅までトラックで運んだり、到着駅から店舗や倉庫などに輸送したりすることにも対応している。
人が多い駅ホームでも円滑に荷物を積み降ろしできるよう、足踏み式のストッパーで固定できる専用の台車を開発するなど、安全性にも最大限気を配っている。
輸送のニーズが多いのはやはり生鮮品だ。スピードや定時運行に加え、輸送中の揺れが少ないことが、傷つきやすい果物や鮮度が命の魚介類を運ぶ上で重要視されている。また、当初想定していたもの以外にも輸送ニーズが広がっており、例えば最近は電子部品の取り扱いが増えているという。
堤口氏は「海外に送る部品は、新幹線を活用することで空港まで正確にスケジュールを守って届けることができるため、お客様に喜ばれている。届く時間が確実に読めるというのは非常に大きな価値があることが分かった」と指摘する。
また、医療用の検体を運ぶニーズも高まっている。ジェイアール東日本物流営業本部営業ユニットの中田聡ゼネラルマネージャーは「夜中に検査機関へ検体を届け、翌日の午前中には結果が出るため、医療関係の方々から評価いただいている。スポットではなく定期的にご利用いただく方も増えている」と言う。
地方のメーカーから駅弁を新幹線で東京駅まで毎日送ることにも使われている。中田氏は「1つの駅弁を東京駅で大量に消費するというよりも、各地からさまざまな種類の駅弁を少しずつ集めてくる、という方が多く、新幹線物流はまさにそうした運び方に適している」との見方を示す。利用の拡大に伴い、JR東とジェイアール東日本物流も低温で運ぶ必要がある荷物に対応するため、保冷が可能な専用の輸送容器を準備するなど、需要の堀越に注力している。
JRグループで鉄道貨物輸送を担うJR貨物との棲み分けが必要だが、現状では大量の輸送はJR貨物、それよりも少ない分は新幹線となりそうだ。
新幹線の客室に駅ホームで荷物を積み込む様子(JR東日本X公式アカウントの掲載写真を引用)
車両基地を積み降ろし拠点化
目下の新幹線物流の課題は、1編成当たりで運ぶことができる量の拡大だ。当初の輸送スキームは駅で荷物を積み降ろしするため、あくまで乗客の乗り降りの間に実施する必要があった。時間が限られるため、大量の荷物を扱うのは難しい。
そうした課題を克服するため、23年度に駅ではなく新幹線の車両基地を積み降ろしの拠点に使うことで、乗客の存在を気にせず、より多くの荷物を一度に運べるようにするトライアルを複数回実施した。昨年8月には上越新幹線の新潟~東京間で初めて臨時列車を仕立て、上りは新潟の車両基地で、下りは東京の車両基地からそれぞれ荷物を積んで、多量輸送にチャレンジした。
上り列車には鮮魚や青果、菓子、精密機器部品など約700箱、下り列車には医療用医薬品や雑貨など約100箱をそれぞれ客室内に乗せた。省力化を図るため、車両基地にある既存のフォークリフトを使うなどの工夫を凝らした。車両基地を用いることで、大規模な投資をせずに新幹線物流のサービス内容を拡充できるかどうかを見極めている。
昨年9月のトライアルでは、東京の新幹線車両基地で荷扱いをする際、AGV(無人搬送ロボット)を導入。人手不足を考慮した運用の確立に挑んだ。トライアルには大手物流会社などグループ外の事業者も複数参加した。
堤口氏は「トライアルにも予想していたよりも多くの企業の方々が参加してくださったので、期待度の大きさを実感している。『2024年問題』への対応策としても有効なのではないか」と力を込める。
中田氏は「地域の物流事業者の方々の幹線部分の代替手段になり得るのかどうかという点も着目しており、ぜひ連携していきたい。どのようにすればサービスの持続可能性を高められるのか検討したい」と語る。
JR東とジェイアール東日本物流は2024年度以降、多量輸送を実用化していきたい考えだ。ただ、そのために有効とみられる新幹線の車両基地は当然ながら物流の用途を想定して設計されているわけではないため、トラックが円滑に積み降ろしできるようになっていないなどの課題を抱えている。2024年問題対応のために使える輸送手段として確立するには両社が知恵を絞り、着実に施設面の制約などのハードルを乗り越えることが求められている。
(藤原秀行)