「CLO協議会」が初会合、求められる人材の姿など提言

「CLO協議会」が初会合、求められる人材の姿など提言

フィジカルインターネットセンター開催、関係者交流促進狙い

フィジカルインターネットセンター(JPIC)は9月2日、東京都内で、政府が一定規模以上の荷主企業を対象に任命を義務化する「物流統括管理者」(CLO)の設置を促進するため、関係者の交流の場として設けている「CLO協議会」の第1回会合を開催した。

登壇した経済産業省の幹部が、立法の趣旨や政府としてCLOに期待する役割などを説明。既にCLOを配置したり、同様の役職を設置していたりする企業の幹部はパネルディスカッションに臨み、日々の業務の経験からCLOとして求められる人材の姿や取り組むべき領域などを提言した。協議会の第2回会合は今年11月に開催の予定。


約100人が集まった会場

「CLO設置は経営改革にもつながる大きなチャンス」

冒頭、JPICの森隆行理事長(流通科学大学名誉教授)が、今年7月にJPICが取りまとめた提言「物流革新実現に向けてCLOに求められる要件」を説明。CLOの定義として「持続可能な社会と企業価値の向上を実現するため、モノの流れを基軸にしたサプライチェーンにおいて、経営視点で社内外を俯瞰した全体最適を図る役割を担う責任者」と定めていることを紹介した。


森理事長

CLOに求められる役割として、
・地域社会の持続可能性を促進し、社会課題の解決や災害時の対応、カーボンニュートラルへの取り組みを通じて持続可能な豊かな社会の実現に貢献する
・サプライチェーンの全体最適実現にむけた構造的変革を伴う中長期計画の立案と実行をリードする
・物流オペレーションの効率化計画の策定と社内外の調整により実践する
――の3点を列挙していることに言及した。

さらに、CLOの設置により、受動的なコスト管理だった物流部門がCLO が中心となってイノベーションを推進することで企業内の意識改革が醸成され、企業全体の成長と競争力の向上につながったり、他の企業との間で連携が進んだりするといった効果が期待できると指摘。「CLO設置は経営改革にもつながり、大きなチャンス」と語り、自社のCLOの役割を明確に定め、社内で共有した上で早急にCLOを任命するよう提唱した。

続いて経済産業省商務・サービスグループの平林孝之消費・流通政策課長兼物流企画室長が、同省と国土交通、農林水産の両省の審議会が合同で議論を進めている、物流センターでのトラックの荷待ち・荷役時間短縮などを義務付ける改正2法の具体的な内容について、現状での検討状況などを報告した。

CLO選定の対象となる「特定事業者」の指定や、特定事業者に義務付けられる物流改善の中長期計画提出とCLO選定などは2026年度に施行することや、27年度に定期報告の提出を開始することなどを念頭に置いていると説明した。

この後、森理事長が平林課長にCLOの提言を手渡した。


平林氏


提言を平林氏に手渡す森理事長

NECソリューションイノベータの樋口聡主席プロフェッショナルと杉尾光博営業統括本部第三グループコンサルティンググループ主任が、CLOが従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に実践する「健康経営」を推進するためのソリューションなどを紹介。Hacobuの佐藤健次執行役員CSO(最高戦略責任者)はセミナーでCLOの役割を解説する取り組みを進めていることなどを明らかにした。


NECソリューションイノベータの樋口氏(右)と杉尾氏


Hacobuの佐藤氏

「経営者的な視点があればどの部門出身でも関係ない」

最後にパネルディスカッションを開催。YKK APで今年4月にCLOに就任した岩﨑稔執行役員ロジスティクス部長)、ダイキン工業の生地幹物流本部長、日清食品の深井雅裕常務取締役サプライチェーン本部長兼Well-being推進部長の3人がパネリストとして登場した。進行役は森理事長が務めた。

岩﨑氏はパレタイズや自動化など自社グループの物流改革の歩みを取り上げるとともに、CLOとして取引先物流事業者とのコミュニケーション推進、社内外への情報発信などを進めるとともに、長時間の荷待ちなど法令に抵触する原因となる行為へのガバナンス強化を担う必要性を感じたことを明かした。


岩﨑氏

生地氏は物流本部が全社サポート部門として独立した組織になっており、「2024年問題」対応を踏まえ、各組織間の法規制動向の情報共有、取り組み状況の監査、進捗状況の報告などを同本部主管で進めると解説。家電物流効率化研究会に参加しエアコン業界のパレット化促進など他社との協業を進めていることなどにも言及した。

深井氏は自らの職務として、サプライチェーンの戦略や資材・製品の供給の計画立案などを担っていることに触れるとともに、サプライチェーン本部で月1回の定例会議を開催するなど、部門内の会議で課題を共有し、担当関係部門を横断した会議も開いてタイムリーな情報共有などにも努めていることを明らかにした。

岩﨑氏は、森理事長から改正法の施行前にCLOを設置した狙いについて、国土交通省が設置している「トラックGメン」から物流業務に関して指導されたことが契機と明かした上で「あまりにも(関係物流企業などと)一方通行の会話しかなく、双方向でのやり取りがあまりにも足りなかった。そういったことを改善していかないといけないとトップに提言して、この役割ができた」と語った。

生地氏は「もともと物流本部という組織は、各事業部に横串を刺して見なさいということだったが、なかなかそういう力が及んでいなかった。主に空調の販売物流だけでやっていたが、調達から販売、最近は静脈物流までのサプライチェーン全体を見るような範囲を希求して取り組みを始めている」と説明。


生地氏

深井氏はサプライチェーン本部長という役職に関し「役割で一番重要なのは(DXなどが可能な)人材と活躍できる場所、組織を作ることだと思っている。社内の構造改革の1つの切り口がサプライチェーンととらえており、あらゆる部門の仕事に口も人も出していく。CLOに近い気がする」との見方を示した。

2019年にサプライチェーン本部を立ち上げ、物流変革をスタートした背景を問われたのに対し、あるエリアで物流企業が商品を運べなくなり、物流機能が一時完全に止まったことがあると解説。「今はこうしたことが社会全体で起こっている。個別企業対応ではなく、社会全体の対応が求められている」と述べた。また、日清グループは欧州や米国でCLOと同様の役職、部署を置いており、環境変化への対応スピードが速いことなどを紹介、日本だけ設置していなかったという。

生地氏は「世界各国でロジスティクスの持続可能性という問題が出ている。各国ともドライバー不足、倉庫作業員の不足がすごく問題になっており、単純に在庫の増減だけをコントロールしていては、実際のオペレーションが回っていかないというのが各国共通の認識になっている。1つの先鋭的な形だと思うが、今後グローバルに展開していくのも非常に大きな課題になっている」と指摘。物流の持続可能性を高めていく上で、CLO的な役職を配置し、グループでサプライチェーンの全体最適を図る必要性が高まっているとの見解を示した。

岩﨑氏は「当社は発荷主でもあるし、着荷主でもある。その部分はあまり見てこなかったので、しっかりと効率を気にしてやっていかないといけないと感じている」と強調。CLOとして、難度の高い商慣行の見直しにも踏み込んでいく実用性をアピールした。

CLOに向いている人材を問われたのに対し、深井氏は「経営者的な視点があればどの部門出身でも関係ないと思う。物流や財務の専門家でなくてもいい」と持論を展開。「全然違う業界の方がいろいんなアイデアをお持ちで、問題を解決できるんじゃないか」と異業種が集まるJPICのCLO協議会に期待を寄せた。


深井氏

生地氏は「物流側からどうしてほしいか、どうすれば会社が良くなるかということを発信し続ける専門家であるべきだと思う。物流の専門家ももっと経営や営業のことを理解する必要がある」との問題意識を表明した。

最後に森理事長が議論を総括し、「CLO任命は単に物流改革ではなく企業の効率化、改革につながる。特定事業者にならなくてもCLO(設置)という形で取り組むのは企業にとって大きなプラスになると感じた」と指摘。「CLO任命に当たり、まず自社のCLOの役割、ミッション、権限を明確にして、任命される方に対してはっきりと任命する側が伝えることが必要だと思った」とメッセージを送った。

(藤原秀行、安藤照乃)

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