各地の事業所などに“油田”設置、富士興産と連携し年間9万t調達見込む
サントリーグループで物流を担うサントリーロジスティクスは、物流領域の脱炭素を推進するため、一般家庭などから出る廃食油を回収して環境負荷が低いバイオディーゼル燃料に再生、自社のトラックに使う取り組みに注力している。
各地の同社拠点に専用の回収場所を設け、自社でバイオディーゼル燃料の源を賄えるようにする「サンロジ油田」と称する活動を展開。社員らから廃食油を集めているほか、サントリーグループの工場の食堂などにも協力を要請している。
サントリーグループは2030年までに事業由来の温室効果ガス排出量を19年実績比で50%減らす目標を掲げている。サントリーロジとしてもサンロジ油田の活動を継続し、廃棄物をなるべく生み出さない「循環型物流」を形成、グループ全体の目標達成を強力に後押ししていきたい考えだ。
拠点で廃食油を回収する様子(サントリーロジスティクス提供)
全国16カ所に展開、年間5tの排出抑制
サントリーロジは環境負荷が低いバイオ燃料を輸配送車両に導入することを目指し、燃料油の仕入れ・販売を手掛けるENEOSホールディングス系の富士興産と連携して2023年5月から今年4月までの1年にわたり、大阪で運行している車両の一部に高純度のバイオディーゼル燃料「B30」(軽油にバイオディーゼル燃料を30%混合)を供給。5月以降は「B5」(混合割合が5%)を使っている。
サントリーロジはバイオディーゼル燃料の導入拡大を図る過程で、廃食油の調達が重要と認識。使う資源の量を最小化しつつ既存のストックを有効活用し、廃棄物の発生抑止も図る経済活動「サーキュラーエコノミー」を物流の領域で推し進めていくことを念頭に置いている。
そのため、23年10月、各地のサントリーロジの支店や事業所に、専用の回収場所を配置する取り組みを始めた。従業員は回収容器に廃食油を入れて持ち寄っている。さらに、「サンロジ油田」の一環としてサントリーの工場の食堂運営を担っている業者などから調理後の廃食油を提供してもらっているほか、外部の私立中学・高校からも回収している。今年9月時点で「サンロジ油田」のスポットは16カ所に上る。
サントリーロジの田村智明執行役員安全推進部長は「国内では持続可能な航空燃料SAFの製造に用いられることなどから、廃食油の調達が徐々に難しくなってきている。そこで、自分たちが使うものは自分たちで調達するという考え方に則り、サンロジ油田の取り組みを開始した」と狙いを強調する。
取材に応じる田村氏
廃食油の回収量は年間で約9万リットルに上る見通しだ。集まった廃食油は富士興産のプラントに持ち込まれ、B5のバイオディーゼル燃料に精製・加工。現在はサントリーロジが大阪で運用している自社トラック2台向けに供給、サントリーグループ製品の輸配送に当たっている。
以前は工場の食堂で出た廃食油は薬剤で固めるなどして廃棄しており、その作業の負荷は決して小さくはなかった。サンロジ油田の取り組みが始まってからは食堂運営スタッフらの廃食油処理の手間を省けるようになり、歓迎されているという。
現状では年間で温室効果ガスの排出量を5t減らせる見通しだ。まだまだ決して大きな規模ではないが、田村氏は「サントリーグループの外部からも廃食油を調達できるつてができてきた」と意気込む。
食用油製造の業界団体などの調査によれば、日本国内で消費される植物由来の食用油は年間240万t程度。そのうち事業系と家庭系で合わせて50万t程度が廃食油となっているが、家庭系の約10万tはほぼ再利用されず廃棄物として処分されているほか、事業系も海外に流れている分が相当数あるという。
サントリーロジの安全推進部で環境推進担当を務める西村和世氏は、こうした実情を踏まえ「国内で廃食油の有効活用をさらに広げていける余地がある。サンロジ油田では廃食油を資源として集めた上で再利用しており、非常に素晴らしい循環になっていると思う」と語る。
取材に応じる西村氏
サントリーホールディングスは今年10月、三井化学や岩谷産業と組み、廃食油が原料の素材「バイオパラキシレン」でペットボトルを量産、石油消費量を減らす方針を表明するなど、サーキュラーエコノミーの確立に強いこだわりを見せている。西村氏は「当社としても物流の面から環境負荷低減に貢献していきたい」とグループ全体の方針に追随していくことを強調している。
サントリーロジとしては、今後はサンロジ油田のスポットをさらに広げていくことを視野に入れている。田村氏は「バイオディーゼル燃料の市場全体の成長につながることも考えていく必要がある」と語り、さまざまな事業者との連携に意欲を見せている。
(藤原秀行)
※2024.11.06 14:00一部差し換え