キリングループロジスティクス・山田社長独占インタビュー(後編)
キリングループで物流事業を担うキリングループロジスティクス(KGL)の山田崇文社長はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
山田社長は、業務改善のために進めている事前出荷情報(ASN)を活用した「検品レス」や「D+2」と呼ぶ出荷日前々日受注の取り組みについて、物流拠点でのトラックの積み降ろし作業開始の待ち時間短縮で大きく効果を挙げていると説明。新型コロナウイルスの感染拡大でパートナー企業との打ち合わせなどに影響が出ているものの、「どの企業にとってもデメリットはない」と述べ、参加企業の拡大に強い意欲を見せた。
また、ビール業界で共同物流が積極的に議論されている現状に言及し、物流は既に競争ではなく「協調」の領域にあると指摘。商品配送とビールパレット回収の両面で業界内の連携をさらに強固なものにしたいとの思いを語った。前編に引き続き、インタビュー内容を掲載する。
前編記事:【独自取材】「コロナ禍でも拠点増強継続、20年は青森と大阪・堺で新センター整備へ」
山田社長(KGL提供)
1時間以上の待ち時間が15分に
――御社の業務改善の取り組みとしては、事前出荷情報(ASN)を活用した「検品レス」の存在が際立っています。トラック単位でASNを御社から荷主サイドへ提供することで、作業の段取りを事前に把握できるようになるのに加えて、現場では個々の商品ごとに検品する必要がなくなるというものです。成果と今後の展開についてお聞かせください。
「検品レスは昨年の9月、三菱食品さんと共同でやりましょうということで始めました。これまでテスト的に実施してきましたが、非常に効果が大きいとお互い実感しているところです。待機時間が目に見えて減り、1時間以上待っていたところが15分で済むようになる。ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が起こる前の今年2月に、検品レスの話はどんどん進めていきたい、仲間も増やしていきたいと合意していました。その後は感染拡大の影響でなかなか打ち合わせができていませんでしたが、非常に筋の良い話だと思いますので、あらためて積極的に進めていきたいですね。検品レスはどの企業の方にとってもデメリットはないと思いますから」
――御社が作成した「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言にも検品レスを盛り込んでいますね。
「まさに当社におけるホワイト物流推進運動の目玉の1つと考えています。当社の取り組みの象徴的存在にできるほど広げていきたいですね」
――御社は他にも「D+2」と呼ぶ出荷日前々日受注の取り組みを進めています。前々日に受注を締め切ることで出荷する商品をそろえる時間を十分確保し、業務の負荷を軽減するとともに配車も落ち着いて行えるようにするのが狙いと聞いています。進捗状況はいかがですか。
「これは極めて重要な話で、D+2は検品レスと同様、ホワイト物流推進運動の自主行動宣言で明記しています。既に導入している飲料では、商品積み込み時の待機時間削減など、明らかに時間単位のレベルで業務改善にかなり貢献できることが目に見えていますから、物流部門としてはビールも含めて、さらに対象領域を広げていきたい」
「ただ、これは卸の皆さまのご理解をしっかりいただいた上で進めないといけない話です。メーカー側から強引に通知して来月からいきなり導入するみたいなやり方はしないよう心掛けています。D+2も例に漏れず、新型コロナウイルス感染拡大の影響により若干、打ち合わせの面で苦戦していますが、かなり丁寧に進めるべき活動との認識はお客さまと共有いただいていると感じています」
――ビール業界は商品配送などの共同物流に熱心です。今後の活動はどのように進むと展望されますか。
「商品配送とビールパレット回収の両面でいっそう連携を進めていきたいという思いは、ビール4社の中で当然ながら共通認識になっていると思います。できる限り前広に、情報もオープンにして検討し、可能性を探っていこうというのが4社で一致したスタンスです」
「ただ、現状は具体的にすぐ、次はここで実施するということがまだ固まっていません。なかなか全ての地域でシナジーが生み出せるとは限らないので、4社全てに対して平等にメリットがなくても、参加している各社に少しでもメリットがあれば前に進めようというくらいの意識で話し合っていきたいですね」
――人手不足も深刻化する中、物流で競争してはいられない、というのが現状でしょうか。
「物流が競争領域と協調領域のいずれかと問われれば、今はもう明らかに協調領域です。もともと数年前から北海道や北陸のエリアで一部、共同物流を展開していることは営業部門でも情報をシェアされていましたから、物流に関して協調領域という認識は持っていました。しかし、ここまで物流危機が深刻化している中、先ほどもお話しした通り、もっともっとオープンに可能性を探っていくべき領域だと認識を新たにしています」
「キリングループは『社会的価値の創造』と『経済的価値の創造』を両立させるCSV(Creating Shared Value)経営を重視し、世の中のため、社会のために働いて利益をいただくという姿勢を貫いています。ホワイト物流の取り組みはまさにCSV経営そのものです。新型コロナウイルス感染拡大で、物流自体が社会にとってなくてはならない存在だと私自身もあらためて認識しました。物流を持続可能なものとするためには、ホワイト物流の各取り組みが手段としては不可欠でしょう。残念ながら実態としては、まだまだホワイト物流が本当に世間全体で広く理解を得られている段階には至っていないと思いますので、われわれ物流を担う企業が取り組むことで、どんどん世の中にホワイト物流の考えと具体的な活用を定着させていかなければいけないと肝に銘じています」
(KGL提供)
自身が先頭に立って在宅勤務を定着させたい
――人手不足は物流業界全体の課題ですが、人材確保や働き方の改革についてはどのようにお考えですか。
「物流業務を担う当社は、まさに『人に始まり、人に終わる』であるということを非常に認識しています。良い人材を採用し、いかにその方々に育ってもらい、いかにその方々にやりがいを提供して働き続けてもらうか、という3点に尽きます。数年前から女性の活躍促進という形で運動を始めたのですが、それをダイバーシティという枠に広げ、集合研修を開催したり、各エリア独自の取り組みを社内報で紹介して横展開できるようサポートしたりといった、多様なメニューにトライしています」
「新型コロナウイルス感染拡大に伴うニューノーマルへの転換が求められている今は、働きやすい環境を整備する非常に大きなチャンスと捉えています。われわれも在宅勤務を進めていて、なかなか今まで難しいと思っていた受注や現場に近い業務でもある程度実施可能な体制を整えることができつつあります。このことは出産などの重要なライフイベントを迎えたり、子育てを抱えていたりする従業員にとって働き方の幅を広げられる絶好の機会だと思うので、コロナが沈静化した後も在宅勤務はしっかり定着させていきたいですね。社長の私が先頭に立ち、制度としてあらためて整備していこうと社内で話は始めています」
――今後新たに取り組みたい施策はありますか。
「業務プロセスの見直しですね。これには2つポイントがあって、ホワイト物流推進運動の自主行動宣言にも盛り込んだ通り、物流機能を持続させられる環境を整備するため、業務の中で極端に人へ頼っているところ、場所的な制約があまりに大きいところを何とか代替が利くような仕組みにできないかと考えています。そういった持続性の観点ともう1つはBCP(事業継続計画)の観点から機械化やデジタル化、システム化も含めて環境を整備しようという議論を社内で始めています」
「例えば、当社は東日本の受注業務の全てを東京・豊洲の東日本支社で手掛けていますが、ここの機能が災害でダウンしてしまった場合、もう1つの受注拠点である西日本の兵庫・尼崎に全部移せるかというと、まだまだそういう体制にはなっていません。何があってもどこか1つの拠点が必ず機能し、物を届けることができるようにする環境づくりは当社の課題と認識しています」
「残念ながら、われわれ自身の力だけでは(KGLとして掲げている)『運びきる』という目的を達成するのはどんどん難しくなってきています。パートナー企業とオープンに課題を共有し合い、取り組んでいくことが従来以上に重要さを増してきています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で就任直後からパートナー企業を訪問できず、非常にもどかしく、申しわけなく思っていますが、パートナー会社の皆さまとの体制はより強化していく方向に変わりはありません。テレワークが重要視されている時代ではありますが、まずは新型コロナウイルス感染防止に最大限努めつつ、パートナー企業の皆さまと直接顔を合わせて、私どもの思いをお伝えしていきたいですね」
2019年12月にアサヒロジと共同で実施したダイバーシティ交流会(KGL提供)
(藤原秀行)