作業員の位置をスマホセンサーで捕捉
動線の見える化が拠点運営を革新する
レイアウトの改善で歩行距離を短縮
NECパーソナルコンピュータの米沢事業場(米沢工場)は、約2万種類に及ぶPCを注文から最短2営業日で組み立て、出荷している。そのスピードと効率性から別名「米沢生産方式」として知られる。1983年の工場稼働以来、改善活動を積み上げてきた。ITをフル活用する一方、改善に必要な治具を作業員自身で作成するなど、独自のカルチャーが根付いている。
昨年春、その一環で構内作業員の動線の見える化に取り組んだ。生産ラインに部材を供給する運搬作業にかなりの人手がかかっていた。人員や部材の配置に改善の余地がありそうだった。各作業員の動線を把握するため、当初は構内各所にチェックシートを配置、作業員がその場所を通るたびに記入してもらった。しかし、その手間と集計作業の負荷は大きく、情報は正確性を欠いていた。そこでデジタルツールの活用に方法を改めた。動線のデータを他のシステムと連係することで、運搬の改善だけでなく幅広い効率化につなげようという狙いもあった。
そのツールに、独立系システムインテグレーター・NSDの動態管理ソリューション「Tracking Navi(トラッキング ナビ)」を採用した。作業員が携帯するスマートフォンのセンサーを利用してリアルタイムの位置情報を取得する。構内にカメラやビーコン(Bluetooth信号の発信機)を設置して作業を測定する方法と比べ導入・運用コストを大幅に抑制できる。
トラッキングナビでムダを見える化するトラッキングナビで米沢工場の動線を可視化した結果、1日の歩行距離が延べ16キロメートルにも達している作業員が見つかった。改善すべきは人員や部材の配置より、むしろ構内のレイアウトだった。動態データに基づいて総歩行距離が短縮されるようにレイアウトを修正、通路を広げてAGV(無人搬送車)による部材の供給を増やした。これにより作業員の歩行距離は最大3分の2に削減された。
現場の見える化はこれまで基本的に時間軸でステータスを把握してきた。それに対して人やモノの動きを「動線」として見える化する取り組みが本格的に始まっている。とりわけ大量の作業員を投入している物流センターにおいては、ピッカーの歩行距離削減や作業場所の集中による渋滞を解消するため、動線の可視化が新たな課題として浮上している。
屋内の作業者の動きを見える化する方法としては従来、観測者が現場に張り付いて人手で作業を記録する方法のほか、対象エリアの全域にビーコンを設置する方法、カメラで作業を録画する方法の3つが主に用いられてきた。
しかし、いずれの方法も物流現場に適用するには課題があった。人手による観測では継続的な調査や全数調査は難しい。ビーコンやカメラは設置工事をはじめ初期投資がかさむ。構内のレイアウトが変更になればその度に再工事も必要になる。また数千平米のフロアをビーコンでカバーすれば端末の数は千単位に上る。そのメンテナンスや電池の交換には多大な工数がかかる。
こうした課題を克服する方法として、NSD傘下のNSD先端技術研究所は、独立行政機関の産業技術総合研究所(産総研)の特許技術「自律航法」に着目した。GPSやWi−Fiなどの外部信号に依存せず、作業者が身に着けた端末のセンサーで位置を測定する。
同研究所の黄川田英隆社長は「従来から庫内作業員の動態管理を課題としている企業が多いことは分かっていた。しかし、フロア全体に無数のセンサーをばらまく方法はコスト的に現実的ではない。全方位カメラも高額で、画像に写った作業員個人を特定して動きを追跡するのはAIを使っても難しい。自律航法を応用すれば、大がかりな設備なしに動線を見える化できる。突破口になると考えた」という。
NSD先端技術研究所 黄川田英隆 代表取締役社長
ビーコンの端末数を90%削減
ただし、実用化には技術的な課題が残されていた。産総研技術移転ベンチャーのサイトセンシングでは自律航法を利用したソリューション開発を進めていた。しかし、複数の端末の情報を同時に処理する負荷が大きく、端末の導入台数が10台程度に限られていた。そこでNSD先端技術研究所はサイトセンシングとの共同研究に着手、最大1千台まで対応できる仕組みを開発した。
測定精度の向上にも取り組んだ。自律センサーの位置情報をビーコンで補正、その上でレイアウトマップに基づいて制御をかける。この方法なら必要なビーコンの端末数を従来型の約10分の1に抑えられる。初期費用、メンテナンス費共、桁違いに安くなる。頻繁なレイアウト変更にも柔軟に対応できる。
NECPC米沢工場や3PLの物流センターで実証実験を行った。NSDの髙橋右門執行役員先端技術事業部長は「十分実用に耐えられる精度を実現できた。動線の可視化によって課題を発見できるだけでなく、そこで蓄積されたデータをさまざまな用途に使えることも分かってきた。実証実験に参加した3PLでは現在、他の拠点への横展開も計画している」という。
NSD 髙橋右門 執行役員 先端技術事業部長
トラッキングナビは各作業員の動きを秒単位で把握して動線やヒートマップとして可視化する。ムダな動きや混雑エリアを一目で把握できる。集計機能やグラフ表示機能を標準装備しているため、導入後すぐに詳細な分析ができる。荷主ごと、注文ごとの正確な作業原価も算出できる。作業員全員の動きを記録したデータはそのまま作業実績として利用できる。作業報告書の作成が自動化される。
過去の測定データをアニメーション表示したり、各作業員の滞在エリアや移動距離をグラフ化するなど、分析に必要な機能を標準で装備している※クリックで拡大
昨年9月にリリースして以降、メーカーやEC事業者と並んで多くの物流企業から引き合いが寄せられている。髙橋執行役員は「踏み込んだ内容の問い合わせが多い。各社が物流のデジタル化に真剣に取り組んでいるのがよく分かる。動線の見える化は始まったばかり。データをどう活用するか。それをWMSと連係させることで何が可能になるのか。ユーザーと一緒になって取り組み、物流DXを推進していきたい」と意欲を見せている。
トラッキングナビの詳細はこちらからお問い合わせ先
株式会社NSD
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