「次世代のオープンな物流プラットフォームを構築」

「次世代のオープンな物流プラットフォームを構築」

楽天と日本郵便の提携合意発表会見詳報(前編)

楽天と日本郵便は12月24日、物流領域の戦略的提携に向けた基本合意書を締結したと発表した。両社首脳らが同日開いた記者会見の内容を前後編に分けて詳報する(後編は12月28日掲載予定)。

【会見の冒頭発言】

「2社が組むことで新たな価値を創造できる」

楽天・三木谷浩史会長兼社長

「今までにも日本郵便とは楽天が運営する『楽天フルフィルメントセンター(RFC)』からの配送、楽天市場出店者さん向けの特別運賃提供、それ以外にも効率向上やCO2削減の意味から不在配達をできるだけ減らす取り組みなど、さまざまな協力関係を築いてきた。このたび、さらに大きく前進させるということで、両社の協業を進化させるべく、物流領域における戦略的提携を発表した」

「楽天グループのネットショッピング、あるいはそれ以外のテクノロジーと日本郵便さんの配送網などのアセットを組み合わせて、文字通り、物流分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)を起こしたいと思っている。一緒に作り上げた次世代の物流プラットフォームを、できるだけオープンな形でさまざまな事業に展開していく、オープンな、持続可能な仕組みを創っていきたいと考えている」

「さらに、今回は物流領域だけではなく、金融、決済、モバイルなどさまざまな分野で日本郵便さんと、さらに深い戦略的提携を進めていきたいということで合意し、さまざまな検討を行っていきたい。2社が組むことで新しい価値を創造できるのではないかと考えている。ぜひ皆さん楽しみにしていただき、期待していただきたい」

「5年後に安定的配送が本当にできるのか」

日本郵便・衣川和秀社長

「楽天さんとは2017年の本格的な取引開始以降、日本郵便の大切なお客様として、またEC市場の発展に向けたパートナーとして、ともに歩んできた。足元の物流業界では成長を続けるEC市場の拡大に加え、いわゆるコロナ禍による巣ごもり需要の拡大とあいまって、宅配便の増加が加速している。この傾向は新しい生活様式の下、これからも続いていくと考えている。もちろん、取扱量が増えることは私どもとしてもうれしいことではあるが、このペースで増加が続いた場合、今のうちからいろんな手を打たなければ、5年後には安定的な配送が本当にできるのかと強い危機感を持っている。楽天さんとはこうした共通認識の下、国民生活に必要不可欠なインフラのEC市場を守り、持続的かつ健全な成長をさせていくため、協業の可能性について検討してまいったところだ」

「同時に、戦略的業務提携に向けた基本合意は、当社のDXを飛躍的に加速させる最大のチャンスだと考えている。私どもの唯一無二の強みである全国2万4000の郵便局と、物流のリアルなネットワークに、楽天さんの強みであるデジタル技術とデータ活用のノウハウを組み合わせていく。これにより、私どもが連綿と作り上げてきたリアルの強みが一層強化できるのではないかと考えている。そうした意味でこの提携は、当社を挙げてのビックプロジェクトであり、EC物流のバリューチェーン全体をテクノロジーで変革していく非常にダイナミックなチャレンジと考えて居る。配送キャパシティーの拡大はもちろん、お客様の利便向上やサービス品質向上、コスト削減など、同時に実現させる新たな社会インフラとしてのオープンなプラットフォームを創っていきたい」


会見後の撮影に応じる(左から)楽天・小森執行役員、三木谷社長、日本郵政・増田社長、日本郵便・衣川社長(以下、いずれもクリックで拡大)

「合弁会社設立も視野」

楽天・小森紀昭執行役員コマースカンパニー ロジスティクス事業 ヴァイスプレジデント

「新型コロナウイルスの感染拡大によって、巣ごもり消費、非対面、非接触の購買が好まれる中で、eコマース成長が急加速しており、結果として宅配を中心とした小口配送が非常に強い勢いで拡大している。まさに新しい生活様式の下で、eコマースの需要が拡大し、日々の生活に欠かせない社会のインフラ化している。一方、物流領域は以前から継続しているものも含めて、多くの課題があることも認識している」

「BtoCに加えて、CtoC、今後はネットとリアルの融合、オンラインとオフラインの融合がどんどん進んでいくと思うが、そちら関係の荷量も今後ますます増えていくと見込まれており、配送の小口化と物流拡大は将来にわたり継続していくと思う。一方で労働人口減少による人手不足、その中でも、若干デジタル化が遅れたような分野でもあり、物流施設内は省人化・自動化含めた機械化をますます進めていかないと効率的な業務はできないのかなと思っている」

「それに加えて、地方、過疎地域での配送網維持も大きな課題と思っている。その中の1つにデータの分断があると思っていて、サプライチェーンの中で、われわれのような配送事業者にお願いするような事業者側と、配送会社側もデータをもっと共有することで、配送網全体がもっと効率化するんじゃないかと考えている」

「そうした中で、どんどん日常で利用されるeコマースでは、受け取り手のユーザーの要望はどんどん多様化している。欲しい物を欲しいタイミングで、欲しい場所で受け取りたいという基本的な要望に加え、非対面で受け取りたいとか、置き配でお願いしたいとか、急いでいないのでまとめて週末土曜日の午前中に受け取りたいといった多様化していくニーズに対して、荷主側もさまざまな方法で対応していく必要があるが、結果として物量、時間、場所といった要素が絡み合い、物流を取り巻く環境がどんどん課題として複雑化しているのではないか。
そういった複雑化する、物流を取り巻く環境の課題を解決して、持続可能な社会の実現を目指し、本日、日本郵便様と物流DXを推進し、物流領域における戦略的提携に向けて合意した」

「まずは両社の強みを持ち寄って、データを集約し、お互いの資産、知見を活用した新たな物流プラットフォームを創っていきたい。まず大前提としてはもちろん、両社の既存アセットの最大化、フルポテンシャル化を目指していきたい。その上でデータをコアにした物流DX、2つ局面があると思っており、1つは顧客体験の向上、これはUXとかユーザーエクスペリエンスと呼ばれるが、もう1つはオペレーショナルエクセレンスと呼ばれる業務改善、デジタル化による業務改革をしっかり両立させていこうということを検討している」

「その中でより受け取り手が受け取りやすいような、例えば専用ロジアプリの開発など、配達する側にとってもより配達しやすい、高効率の配達システム開発などを考えている。例えば、ロジアプリだと、楽天IDなどを使い、荷物を少しまとめて出していただければポイントを差し上げるとか、考えられるのではないか」

「もちろん、次世代技術の活用は非常に重要なポイントと考えており、物流倉庫の中では自動倉庫の活用、そしてビッグデータやAI(人工知能)の活用、今も実証実験を行っているがドローンを使った山間部などでの配送、公道における自動配送ロボット(UGV)活用も両社が進めているので、しっかりと検討していきたい」

「こうして構築していく新しい物流DXプラットフォームの共同事業化、つまり合弁会社設立も視野に入れて、検討を深めていきたい。プラットフォーム自体は、社会課題をしっかり解決していくものとの位置付けなので、両社のみの活用ではなくオープンプラットフォームとして、いろいろな物流に携わるステークホルダーの方々と協業していきながら作り上げることができれば、さらに良くなるんじゃないか。この取り組みを通じて、全ての物流に関わるステークホルダーの方に、満足度の非常に高い、そして社会全体がデジタル化に進む中で今後も必ず増え続けるであろう小口の配送を、健全で持続可能な形で継続していきたいことを実現すべく、努力していきたい。内容が固まったものから開示していくので、両社の取り組みについてご期待いただきたい」


楽天が今月公開した公道での自動配送ロボットの走行実証実験


日本郵便が今年10月に東京都内で公開した公道での自動配送ロボットの走行実証実験

「両社は最高のパートナー」

日本郵政・増田寛也社長

「今後金融、モバイルといった、今日発表した物流以外の事業分野においても幅広く、提携について協議、検討することとした。具体的には、例えば金融分野はキャッシュレス決済サービスに関する連携の可能性について協議、検討していきたい。また、モバイル分野は楽天モバイルの事業拡大に資するよう、全国の郵便局ネットワークの活用策についても協議、検討していきたい」

「さらに、こうした金融、モバイル以外の事業分野についても、さまざまな提携の可能性があるのではないか。そしてその上で、合意できたものは可能な限り、2021年3月に締結を予定している最終合意書の中に盛り込み、順次実施していきたい」

「再度申し上げるが、楽天さんは先進的なデジタル技術と豊富なノウハウを生かし、さまざまな事業領域においてインターネット関連サービスを提供されている。私どもはお客様とのリアルなタッチポイントである全国の郵便局2万4000、そしてその上に築かれた強固な物流網を持っている。両社の強みを組み合わせることが、当グループにとっても大変いい結果を作り出せると考えている。両社はそういう意味では最高のパートナーではないかと考えている。双方の強みを最大限生かし、さまざまな事業領域で連携、協業することで新たな価値創造を目指していく」

(藤原秀行)

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