10月の景気ウオッチャー調査、先行きも慎重な見方
内閣府が11月8日発表した10月の景気ウオッチャー調査では、各地の輸送業関係者から燃料費高騰を懸念する声が相次いだ。全体の景況感は改善傾向を見せており、内閣府は基調判断を「緩やかな回復基調が続いている」で据え置いたが、輸送業界では景況感に強弱が混在し、先行きに関しても慎重な見方が根強いのが実情だ。
同調査はタクシー運転手や飲食店経営者、旅行代理店など景気の動向に敏感な業種の全国約2000人を対象に実施、毎月公表している。エコノミストなどの間では、より景気の実感に近い「街角景気」をつかめるとの評価が多い。
10月の調査結果は、現状の景況感を表す「現状判断DI(指数)」が前月から0・9ポイント上昇し49・5だった。今夏に北海道や西日本を襲った災害から復旧が進んだことなどがプラスに働き、2カ月ぶりに上向いた。
一方、先行きの景況感を示す「先行き判断DI」は0・7ポイント低下し50・6。米中貿易摩擦や消費税増税決定などが重しとなり、2カ月続けてダウンした。
地震で停滞していた物流がようやく回復へ動く
全国12地域ごとに輸送業の声を集めると、現状に関しては「9月の北海道胆振東部地震の影響で停滞していた物流がようやく正常に動き始めた」(北海道・営業担当)、「災害により商品を九州や本州に届けることができなかったが、JRの復旧などにより徐々に回復している」(九州・従業員)と、災害の影響から抜け出てきたことをうかがわせる回答が見られた。
一方、東海の経営者は「輸入関連では神戸港、大阪港の天災による対応力不足から名古屋港での大混雑に発展し、生産力が追い付かない状況」と説明している。
南関東の経営者は「荷主との運賃交渉が行われる中、値上げが実現した業者がある一方、現状と変化のない業者もあるといった、まだら模様の状況を呈している。値上げできたところも一部に限られ、対処療法的な色合いが強く、現況の厳しさを改善できるものではない」と説明。運賃見直しにまだ荷主の理解が得られていないことをうかがわせた。
人手不足による人件費上昇や燃料価格高騰への言及も相次いだ。北関東の営業担当は「ドライバー不足により車両手配に苦労しており、原油高による燃料コストの高騰で利益が薄くなっている」と指摘。南関東の経理担当も「燃料価格の高騰、人件費の増加により、収益が伸びない」と嘆いた。
日中関係改善による輸出入活性化に期待
先行きにおいても、不安材料を挙げる向きが目立つ。北海道の支店長は「ここにきて燃料価格が高騰しているため、物流業においては収支を圧迫することになる」と厳しい見方を示し、北関東の営業担当も「ドライバー不足のため、特に 大型車の手配が困難な状況で、車両手配に苦慮しそうである。また、燃料高も続きそうなので、厳しい状況になる」と悲観的な予想を明らかにした。
製造業が多い東海からは「米中(貿易摩擦)の関税の影響や貨物の動きを調査している」(エリア担当)、「米国の閉鎖的で保護主義的な経済・貿易政策が徐々にわが国にも影響してくる。石油価格の高止まり、値上げ傾向に歯止め感が見受けられないのが不安。燃料費、フェリー料金の上昇に加え、人手不足があり年末繁忙期が不安」(役員)といった回答が見られた。
半面、「越境ECなど、中国・台湾向けの特定保健用食品のダイエット商品は受注が好調を維持しており、6カ月の生産まで受注が埋まっている」(九州・従業員)、「日中間関係改善のニュースが大々的に流れたが、これを受けて将来に向かって日中関係がこれから徐々に良くなると、 対中国の輸出入額が上がってきて活性化してくる」(東海・エリア担当)といった、前向きな評価も聞かれた。
(藤原秀行)
※10月の景気ウオッチャー調査での輸送業の回答抜粋
【現状】
東北 経営者 ▲(やや悪くなっている)
燃油価格が上昇しているが、いつ上げ止まるのか不明である。また、人手不足による影響が出始めている。
東海 役員 ▲(やや悪くなっている)
輸送物量は前年同月比で若干少なくなっているが、運賃アップが寄与し収入では上回っている。しかし、石油価格は高止まりの状況であり、じわじわと産業界や一般消費者にも影響が及んでくる。
中国 支店長 ▲(やや悪くなっている)
燃料費と人件費の上昇で経営負担が増えている。人材募集に対して応募がないこともあるが、景気の動向を踏まえて募集単価と賃金の見直しをする。地元プロ 野球チームのリーグ優勝景気はあったが、個人の荷物、企業発送荷物ともに減少傾向である。
中国 営業 □(変わらない)
以前にも増して競合業者の取引客より輸配送案件の引き合いが入るようになった。既存の受託業者が取引先に対し運送契約の解除を申し出ている事例が多く、 燃料の価格高騰や労働力不足が主な原因ではあるが、もはや小幅な運賃値上げだけでは対応が難しいところまで来ていると推察される。
九州 総務担当 □(変わらない)
入庫量は多いものの、出荷量は減っている。従って、滞留在庫が増える傾向にある。推察すると国内の需要量は飽和状態であり、見込んだほど受注がなかったと考えられる。景気が悪くなっているということではなく、良くもなっていないという状況である。
沖縄 経営企画室 □(変わらない)
いくつか継続して商談している取引先と輸出関連について意見交換をしていると、国内商品の需要は継続してあり、輸出商品の取り合いのような状況もあるそうである。また新規のリゾート開発系の輸入案件もあり、そちらも計画的にいくつか事業があり、県内での消費など景気につながる部分は増えていくとみられる。
【先行き】
北海道 営業担当 ○(やや良くなる)
今年の農作物の収穫が平年並みであったため、今後の本州向けの農作物関連製品の荷動きが相当量期待できる。
東北 経営者 ▲(やや悪くなる)
主要荷主が減産しており、作業料金の見直しも要請されている。また、冬場に向かって経費増加が見込まれるため、非常に厳しい環境になるとみている。
南関東 経営者 ▲(やや悪くなる)
高騰が続く燃料価格や、働き方改革などの法令順守に伴う人件費増による経費増に対し、年末特需が過去のものとなり、売上増加が見込めないため、状況は厳しくなる。
東海 経営者 □(変わらない)
人手不足は日々深刻化している。年末の物量をさばくだけの生産力確保が難しい。
中国 経理担当 ○(やや良くなる)
雇用状況が若干改善傾向にあり、人員が確保できれば扱い 数量を増やすことができるため良くなっていく。
四国 営業 □(変わらない)
燃料油の価格高騰が止まらず、10月末現在で4年ぶりにガソリン160円、軽油140円を超える高値となり経営を圧迫している。冬場は灯油の製造が増える時期であることから大幅な値下がりは到底期待できず、トラックを使用する運送事業者にとっては厳しい状況が続くとみている。