【独自取材,動画】キヤノンITSが製造・物流向けIoTで本格攻勢

【独自取材,動画】キヤノンITSが製造・物流向けIoTで本格攻勢

“イベントドリブン”で突発的な事象をリアル共有

 キヤノンITソリューションズが製造業、物流業をターゲットとしたIoT(モノのインターネット)システムで攻勢を掛けている。生産現場などで発生する故障やトラブルといった突発的な事象をリアルタイムで取得・処理し、関係する企業・人が同時共有することで迅速な判断・対応を図る“イベントドリブン”型のアプリケーションを提唱。事業機会のロス解消を通じて企業活動の効率化と新しい付加価値の創出につなげたい考えだ。

 11月14~16日にかけてパシフィコ横浜で行われた「ET & IoT Technology 2018」では、今年5月に日本での販売パートナー契約を結んだ米Vantiq社の次世代アプリケーション開発プラットフォーム「VANTIQ」(バンティック)によるIoTソリューションサービスを披露。ロジビス・オンラインの取材には模型を使ったデモンストレーションで活用可能性を説いた。

 工場などの生産現場では日々膨大なデータが得られるものの、多様なデータの中から付加価値となり得るものはごく一部。また人や物などによる“つながる世界”が進行すると、全てのデータを集積して解析・通信するのは処理時間や通信容量など物理的にも限界が出てくる。VANTIQはこの部分に着目し、特徴や意義のあるデータだけを抽出して新しい価値に結び付けるアプローチを提案。現在、メーカー数社がトライアル導入を行っている。

エッジコンピューティングの活用

イベント・ドリブンの活用

スマホ機能を活用した“プッシュ”手法で迅速対応

 デモでは工場の生産ラインに見立てた模型によるトラブル発生時のIoT活用を解説。ベルトコンベヤーが何らかの異常で作動しなくなると、センサーやモニターがイベントとして検知。この情報をクラウドへ送り、現場までの距離とトラブル内容を両方同時に判断して装置メーカーは適任なサポートエンジニアを派遣する。この間のコミュニケーションは全てスマートフォンを介して行われる。サポートエンジニアは事前に現場の状況を把握できるだけでなく、作業完了後に写真撮影や注記・連絡事項などのコメントも書き込める。(動画参照)

 スマートフォンを活用することで、電話やファクスに見られる“トラブルの状況がうまく伝わらない”“担当者と連絡が取れない”などといったロスもなくなり、意思疎通の精度・速度を飛躍的に向上させることができるという。

 また、同社では先手、先手で対応を打っていく“プッシュ”手法のメリットを提起している。これまでのように必要な情報をプル型で取得するのではなく、イベント発生時に必要な情報をプッシュ型で即時共有することによってスピーディーで無駄のない初動対応が期待できる。

 とはいえ膨大なデータを処理するためには多数のプログラミングが必要だ。これをゼロから構築していくのは難易度が高く、開発に掛かるコスト・時間・人的リソースも負担になる。VANTIQでは1~2週間程度の短期間でアプリを開発できるほか、稼働後でもシステム構成の拡張・変更や機能追加が容易に行える点も特徴だ。

VANTIQについて

サービスについて

欧米では物流企業が大規模・広範囲に運用中

 デモでは工場と装置メーカーにおける双方向の情報伝達を例として示したが、同社ではさらに先の関係者を取り込んだネットワークへの発展を見込む。故障によってパーツ交換が生じれば部品メーカーに在庫確認と発注、それを現場まで運ぶトラックの手配もしなければならない。

 同社エンジニアリングソリューション事業部の担当者は「今までこれらの情報伝達は事が起こってから段階的に行われていたが、IoTによって関連する企業・人を神経的につなぐことで同期化。パーツメーカーの在庫確認やトラックの手配などが連動することによって、リードタイムの短縮だけでなくサプライチェーン全体の効率化にもつながり事業機会の喪失を防ぐことができるのではないか」と展望。

 その上で「IoTは試行錯誤のプロセスを要するため最初に要件を設定するのは難しい。その点でVANTIQは運用しながらシステムを作り変え、さらに育てていくことができるユーザー目線に立ったソリューション」と汎用性・革新性を強調する。

 既に欧米では物流企業のトラックや荷物などの状況を国中でトラッキング、可視化するシステムを構築・運用している例もあるといい、ビッグデータやICTの導入・活用が後手に回っている日本の物流業界にとっても参考事例になりそうだ。

IoTシステムで縦割り体質の日本企業に横串

 日本ではITシステムも含めて企業間・部門間での縦割り意識が強く、異業種や他部門との連携が進んでいないことは多くの研究などからも明らかになっている。製造業、物流業、小売業などサプライチェーンの参加者が各々の視点でシステムを構築してきた経緯から、上流と下流の情報シェアは発展途上にあるといっても過言ではない。

 前出の担当者はIoTの意義について「今までの概念ではコンタクトすることがなかった企業や領域へのアクセスが可能となり、未開発の部分を探索することによって新しいビジネスや付加価値を生み出すチャンスが広がるだろう」と見通す。

 日本企業は現場最適においては世界最高水準といわれながら、全体最適の取り組みは欧米企業の後塵を拝している。同社ではイベントドリブンをキーワードに業務フローを関係者全体で網羅・共有することによって、縦割り体質の企業経営に横串を刺すソリューションツールとしても提供・普及させていきたい意向だ。

(鳥羽俊一)

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