【現場取材、動画】プロに見せたい物流拠点⑥ハヤブサ・自社物流センター

【現場取材、動画】プロに見せたい物流拠点⑥ハヤブサ・自社物流センター

将来の保管能力不足など懸念からオートストアの自動倉庫導入、高速出荷を実現

未曾有の人手不足など課題山積の物流業界でピンチをチャンスに変えようと、省力化や生産性向上などに果敢に取り組む物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポート。第6回は大手釣り具メーカーのハヤブサが兵庫県三木市に構えている自社物流センターを紹介する。

業容拡大による商品保管能力や人手の不足が懸念されたことに先手を打ち、オートストア製自動倉庫システムを導入。業務の大幅な効率化と負荷の軽減に成功した。新型コロナウイルスの感染拡大下で経営環境は厳しいものの、釣り具の需要自体は旺盛なため、中長期的な観点から必要な投資として引き続き最大限オートストアの能力を引き出そうとしている。


新本社兼物流センターの建物(オカムラ資料より引用)

出庫スピード3倍、保管効率は2倍に

ハヤブサは1954年創業。釣り針やルアー、重りなど約2万点を取り扱い、国内の釣り具店の大半に商品を卸している。2020年12月期の売上高は約34億円。現在は中国やベトナム、ミャンマーなど海外に製造拠点を構えている。

現在は釣り具に加え、「FREEKNOT(フリーノット)」ブランドのアウトドア向けアパレル製品や「Pet’s Republic(ペッツリパブリック)」ブランドのペット用品も展開、多角化に注力している。


本社内に展示しているバラエティに富んだ釣り具やアパレル製品、ペット用品

同社は昨年12月、ロジビズ・オンラインなど一部メディアを対象に、自社敷地内で2020年10月に竣工、21年1月に本格稼働を始めた新本社兼物流センターを公開した。同社は物流業務を自前で運営。その一環として新物流センターにノルウェーのオートストア製自動倉庫システムを取り入れ、メーンの釣り具を取り扱っている。延べ床面積は約5000平方メートルで、このうち1階の物流センターは約2700平方メートルを占めている。

オートストアはアルミ製の支柱とレールを組み合わせた「グリッド」の中に「ビン」と呼ぶ専用コンテナを格納。箱型の自走式ロボットがグリッドの中を縦横に動き、ピッキング対象の商品が入ったビンを吊り上げて自動で作業エリアまで運んだり、ピッキングが終わったビンを自動で吊り下げ、再びグリッド内に収めたりする。作業スタッフは物流センター内を歩き回る必要がなくなり、ほぼ定位置でピッキングや入庫の作業をこなせるようになる。

ハヤブサの物流センターでは76台のロボットを投入。49メートル×38メートルの倉庫スペースに約2万3000のビンを保管できるようにしている。オートストア日本法人によれば、国内でも最大級の規模という。


倉庫スペースを移動するロボット


ロボットが自動的に充電する設備


ロボットの稼働状況を色で表示しているモニター

物流センター内に入ってまず目を引くのが、ユニークなレイアウトだ。1階の物流センタースペースに架台を並べ、中2階を設けた上にオートストアの倉庫部分を載せている。架台の下は従業員による作業スペースとして確保。上下2層に分けることで、建物内の空間利用効率を高めている。


上部をオートストアの倉庫スペース、下部を従業員の作業スペースとして活用している

併せて、ロボットが作業する倉庫スペースを広くした一方で、グリッドの段積みを一般的なオートストアの利用ケースより低くし、ロボットによるビンの吊り上げ・吊り下げをより迅速に行えるよう工夫。1出庫当たりに要する時間は16秒とスピード作業を実現している。設計上の1時間当たり入庫能力は180ビン、出庫能力は1712ビンという。段積みを低くしたことには、釣り具は小ロットでの注文が多いため、倉庫の回転数を上げてスピード出荷につなげたいとの思いが込められている。

作業スペースには、オートストアに商品を投入する「入庫ポート」を3カ所、商品をピッキングする「出庫ポート」を8カ所設置。入庫ポートの横には検品エリアを設置している一方、出庫ポートでピッキングした商品はコンテナに入れ、コンベヤーで梱包エリアまで運ぶ。いずれも従業員が物流センター内をずっと歩き回らなくても済むよう配慮している。


入庫ポート脇にある、入荷した商品を仮置きするシャトル式自走倉庫


入庫ポート


入庫ポートの横には検品エリアを設置


商品を細かく検品

ハヤブサは以前も別のメーカーのクレーン式自動倉庫を使っていた。オートストアに刷新したことで、出庫スピードは3倍、保管効率は2倍に高められている。昔は繁忙期には出荷まで3~4日を要するケースがあったが、オートストアの採用でリードタイムは大きく短縮した。


出庫ポートでのピッキング作業

オートストア導入をリードしたハヤブサの歯朶(しだ)哲也常務取締役は「釣り業界では日曜の夜から月曜の朝に注文が入り、同じ週の木、金曜に出荷するケースが多い。このリードタイムを他社よりも短縮できれば顧客満足度が上がり、さらに注文が増えてくるという好循環につながる」と効果を語る。


ハヤブサの歯朶常務

10年先も運用可能な体制を実現した

ハヤブサは2018年、中期経営計画として売り上げを当時の規模から2倍に増やす方針を掲げた。2025年に50億円まで引き上げることを打ち出したが、達成する上で物流が懸案となっていた。

伸びる受注量に対し、人力の作業が追い付かず、繁忙期には24時間体制で出荷作業に当たっていた。長時間労働が常態化し、時間外労働は長い人で月50~60時間に達した。さらに自動倉庫の保管能力も限界に近付いており、売り上げを伸ばしても対応できなくなる公算が大きくなっていた。

また、ハヤブサの本社は高速道路のインターチェンジに近い物流適地にあるものの、三木市の中心部からは離れている上、近隣の工業団地に物流企業が多く進出。郊外型商業施設などもオープンし、人材の獲得競争が激しくなっている。このまま行けば、業務量と人員のミスマッチがさらに拡大していくことが不可避だった。歯朶常務は「当社の立地ではこの先5年、10年を考えた時に、人に来てもらうことがますます難しくなるのではないかと危機感を持った」と胸中を明かす。

そうした状況が歯朶常務らの背中を押した。当初は現行の自動倉庫の更新を想定していたが、歯朶常務がオートストアの自動倉庫システムを採用したニトリの物流拠点を視察したことがきっかけとなり、オートストアへの関心が高まっていった。

歯朶常務は、オートストアを紹介する動画を視聴した際、海外の物流センターで従業員がイヤホンで音楽を聴きながら楽しそうに作業していた姿に衝撃を受けたと回想。「出庫のスピードが速いことも重要だが、倉庫部分のレイアウトの自由度が高い点が大きな魅力に映った」と語る。

イニシャルコストは架台の設置やシステム整備などトータルで約7.7億円。ハヤブサの企業規模からすればかなりの大型投資だけに、社内には反対意見も多かった。しかし、歯朶常務らは従業員の移動距離を8~9割減らせると見込まれることや、周辺で借りていた外部倉庫を新物流センターに集約してコストを年間約5000万円削減できることなど、メリットを繰り返し社内で説いて回り、理解を得ることに成功した。

現状では1日8時間稼働が基本で時間外労働を大きく削減することに成功。今では全体の平均で月5~6時間となり、ゼロの人も珍しくない。歯朶常務は「率直に申し上げればランニングコストは決して安くないが、それ以上のメリットを得られている」と満足そうだ。


ビンに収められた商品


梱包作業のエリア

実は昨年、大規模な停電が本社周辺で発生したため、オートストアも稼働がストップする予想外のトラブルが発生。復旧まで2時間を要し、出荷も完全に止まってしまった。歯朶常務は「あらためて事業継続計画(BCP)の重要性を認識し、社内で策定作業を始めた」と語る。一方、昨年12月に和歌山を震源とする最大震度5弱の地震が起きた際は、問題なくオートストアは作業を継続した。

コロナ禍でも釣り具などのニーズは旺盛だが、海外の製造拠点をコロナ禍の影響で計画通りに稼働させられず、供給が十分に追い付いていない。「25年に売上高50億円」の目標は見直しが必至の情勢だ。それでも歯朶常務は「当社にとってはコロナ後まで見据えた投資だ。10年先でも運用可能な体制を整えることができた。ROI(投下資本利益率)などの数値だけにとらわれない経営改善ができている」と前向きな姿勢を崩していない。架台を使って上下2層に分けているのも、作業スピード向上や空間利用効率アップのため、歯朶常務らが強く要望したこと。オートストアを最大限生かそうという熱意が現れている。

プレスツアーにも同席したオートストア日本法人、オートストアシステムの鴨弘司社長は、コロナ禍で世界的にオートストアの需要が増えていると説明。「倉庫で1日ピッキング作業をやれば足が非常に疲れる。ソーシャルディスタンスの確保が必要な現場もあり、自動化で職場環境を整え、従業員が働きやすい環境を作ることが重要だ」と意義を強調した。


オートストアシステムの鴨社長


(左から)オートストアシステム・鴨社長、ハヤブサ・歯朶常務取締役、オカムラ物流システム事業本部マーケティング部シニアコンサルタント・飯寺亮介氏、オートストアシステムマネージャー・阪井克来氏

(藤原秀行)

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