個々の患者に適したものを迅速に提供可能に
ヤマトホールディングスは5月18日、傘下のヤマト運輸が、マウスピース歯科矯正サービス「hanaravi（ハナラビ）」を提供するDRIPSと連携し、ヤマトグループの国内ネットワーク上に設置した3Dプリンターを活用した歯科矯正用マウスピースの製造・配送サービスを同日始めると発表した。
（プレスリリースより引用）
これまでワイヤーがメーンの歯科矯正で、軽中度な場合は透明で周囲から目立ちにくく、ワイヤーと比べ安価なマウスピース矯正の利用が広がっている。マウスピース矯正は1～2週間ごとにマウスピースを交換し、歯列を少しずつ動かすため、患者1人当たり20～30段階の異なる歯型模型が必要。また、マウスピースは患者ごとに形状が異なるため大量生産が難しく、人件費が安い海外の歯科技工所で、初期計画を基に矯正開始から完了までを一括製造・輸入するスタイルが一般的だった。
口腔環境の改善で病気予防や健康維持を目指すDRIPSは、2019年に矯正専門の歯科と提携し、マウスピース矯正サービスの提供を開始。SNSを活用した遠隔経過診察で、忙しい人や近所にクリニックがない人でも歯科矯正を始めやすため、サービス開始以降の利用希望者は1万人を超えた。
これまでの効果検証から、歯の動きに合わせてより短期間でマウスピースを交換すれば治療期間を短縮できることが判明。よりスピーディーなマウスピース交換で患者の負担を軽減する製造体制の強化、機械化を含むマスカスタマイゼーション（個別の顧客ニーズに合わせた大量生産）の実現を模索してきた。
ヤマト運輸は医療機器や医薬品メーカーのサプライチェーン最適化に向け、2017年に東京の大型拠点「羽田クロノゲート」に3Dプリンターを導入。人工関節の手術用治具の造形や、メディカル領域における試作品などを製造・配送してきた。新たに歯型造形用データから3Dプリンターの造形に適したデータへ自動補正するツールを開発、3Dプリンターによる製造から最終製品の仕上げ加工まで全工程の機械化を果たし、国内初のマウスピースのオンデマンド・カスタマイズ生産を実現した。
両社は国内で安定したマウスピースの製造体制を構築し、成長が見込まれるマウスピース矯正市場に貢献するとともに、患者の治療進捗状況に沿ったサービス提供による治療期間の短縮、治療計画の変更で生ずるマウスピースの廃棄削減など、日本の歯科矯正に新たな価値を提供していく方針。
DRIPSは今後、信頼できる提携医院数を増やし、より多くの患者を受け入れられるようにするほか、将来は歯科領域から身体全体の予防領域へとサービスの拡張も目指す。OEM（相手先ブランドによる製造）も手掛ける予定。
ヤマト羽田クロノゲートに続き、全国の主要拠点に順次3Dプリンターを増設、患者に近い拠点で製造することで、よりスピーディーに届けられるサービスを強化する。今後は3Dプリンターを活用したものづくりから新しい運び方にチャレンジし、設計開発領域から製造、配送まで一貫したソリューションを提供することで、多品種少量生産、オンデマンド製造といったデジタル製造ニーズへの対応、型レス製造による製造コスト低減、将来に向けたアディティブマニュファクチャリング（塑像のように材料を付加しながら製造していく造形方法）の強化などを進めているメーカーの製造プロセス・サプライチェーン変革に携わりたい考え。
（藤原秀行）
