【独自取材】「物流データを中央集権的に管理することが生成AIの恩恵を大きくする」

【独自取材】「物流データを中央集権的に管理することが生成AIの恩恵を大きくする」

Hacobu・佐々木社長CEOインタビュー(前編)

生成AIを業務で活用しようとする動きが広がっている。民間の調査では、企業の3割が情報収集や文章の作成などに生成AIを使っていると回答しているという。物流業界でもそうした流れが今後さらに強まることは確実だ。だが、本格的に物流業務を変革しようとすれば、AIに参考となる意見を尋ねるだけにとどまらず、自社内の膨大な物流データをAIに分析させ、意思決定の一助とすることが求められる。

データとAIを活用して物流インフラの進化や業務の自動化を促進する「AI-Driven Logistics」(AIドリブン・ロジスティクス)を提唱しているHacobuの佐々木太郎社長CEOに、物流業界でAIをいかに活用していくべきかを尋ねた。前後編の2回に分けて内容を紹介する。


取材に応じる佐々木社長CEO

AIによる物流データ活用は伸びしろがものすごくある

――御社で生成AIをどのように業務で使っていますか。
「今は相当利用しています。例えば、ある出来事があった時に、過去からさかのぼって、どういう経緯でそうなったのかといったことを、社内の情報を全部踏まえて解き明かしてもらっています。1回で扱える情報量がものすごく大きいんです。この情報量の中で、私が一度にその情報から因果関係を検証できているのは生成AIの100分の1くらいだろうという感じがしています。これとこれがつながっているのではないかと仮設を立てて検証していく能力は非常に高い。多大な情報をさばいて因果関係を特定できる能力は、人の何十倍どころではないのではないか。明らかにこれは人智を超えているレベルだと感じています」

「このように生成AIを使う上で、社内の情報がデジタルツール上に保存できているからこそ、そうした機能を使うことができていると思っています。例えば、社内のコミュニケーションの内容はビジネスチャット上にもう何年分も溜まっています。他にもオンラインストレージサービスにも情報が蓄積されています。社内の情報は必ず共有できるようにしていることが、生成AIの力を最大化できているように思っています」

――御社は個社の枠を超えて物流のビッグデータを分析・活用することでサプライチェーン全体の最適化を図る「Data-Driven Logistics」(データドリブン・ロジスティクス、DDL)を掲げていました。現在は「AI-Driven Logistics」を提唱しています。データを重視する一連の理念につながるような話ですね。
「最近は、DXやDDLのような話はAIを活用する上で前座だったんだなと思います。つまり、基本となるデータの収集ができている会社とできてない会社ではAIを使うことによる恩恵を受けるレベルが全く変わってくると感じています。ただ、今使っている生成AIは性能が非常に高いのですが、その分料金も高額です。AIという非常にパワフルなツールに安い料金でアクセスできる時代はもう過ぎていて、今はある程度投資しなければいけない局面に来ている。投資余力がある会社かどうかが、AIを活用できるかどうかの分岐点になってくる。さらに、投資の効果をマキシマイズできるかは、社内の情報がどれだけ中央集権的に管理されているか、というところに影響されているように思えます」

――データを中央集権的に管理しようという考えはいつごろから実践していますか。
「基本的には創業当初のころからクラウド型のツールを導入していて、先ほどお話したビジネスチャットのツールも早い段階から使っています。ログがどんどん蓄積されています。そうした考え方が、AIによって大きな果実を得られるとは思ってもいませんでしたが」

――データを溜めて共有しておけば、何らかの形で生かせるというような意識だったのでしょうか。
「もちろん、そうしたツールを使うことが便利だったというのが最も大きいですが、どちらかといえばコンプライアンス的な意識もありました。お客さまに対して、DDLのように、物流のビッグデータが個別最適から全体最適に変革していく、データが非常に重要な意味を持つというお話をさせていただいていたのですが、そのころはまだ、AIによる恩恵についてリアルには考えていませんでした。しかし、この1年くらいで、そうした仮説が正しかったと実感しています」

――現時点でさまざまなビジネスのデータを蓄積、共有できている企業はそのことだけで相当有利になっている?
「かなり有利だと思います。データが溜まっていることに加えて、その次にAIを使ってそうしたデータをどう活用するかというスキル、ノウハウも必要になってきます。ただ、現状、クラウドなどにデータを蓄積できている物流企業はまだ非常に少ないでしょう。例えば、トラックがどう動いているかといった情報はあったとしても、よりパワフルなデータにするためには出荷指示や配車の結果といった情報も必要になってきます。そこまでの情報をクラウドに収集できているケースはほとんどないのではないか。まだ紙ベースで情報を持っていたり、エクセルデータがいろんなところに散らばっていたりする企業が大半だと思います。そもそも、AIの進歩の速さに付いていけていないという側面もあるでしょう。ただ、逆に言えば、AIによる物流データの活用という意味では、伸びしろがものすごくあるという印象です」

――御社で実際に、蓄積してきた膨大なデータをAIで分析して、役に立ったという具体的な事例はありますか。
「例えば、あるトラブルが起きた際、そもそもの発端はどの行動にあったのか、ということを膨大な業務のデータをさかのぼることで突き止めることができました」

「何でもかんでも残す」でもOK

――データを蓄積するにしても、業務効率化などの役に立つような特定のデータだけを収集しているのではなく、とりあえず全部、何でもかんでも残しちゃえ、みたいな感じで取り組んでいるところは差が出てきてしまうのでしょうか。
「私は、とりあえず何でもかんでも残すというやり方でいいと思うんです。人間の認知の範囲の中では、この情報は意味がないと思っていても、情報量をたくさん扱えるAIからすれば参考になる情報だ、ということもありますから。当社内でも、この情報が役に立つのか、という発見がありましたし、何でも取っておけば役に立つかもしれない。いうのは.最近気づかされました」

――中小企業であれば、コストやリソースの制約で、どこまでデータを残せばいいのかと取捨選択に迷うケースもありそうです。
「とりあえずクラウドのツールを使っていればどんどんログがたまっていきますし、別に自社のサーバーを立てて活用するのでもいいと思いますが、いずれにしても中央に溜まるようにしておくのが重要でしょう」

――そうしたデータの蓄積をこれから始めても間に合いますか。
「今からでも間に合いますから、すぐに始めた方がいいですね。データの量が多ければ多いほど、そのデータは種類もそうですが、時系列でもあるということが、AIの力を最大化しますから。データは過去にさかのぼって集めるのがすごく大変です。紙の書類などから全部データを読み込むみたいなことをしなければなりませんから。すぐに中央集権型でデータを集められるようなツールを入れて、実際にデータを保存し始めるべきです。これは物流分野にとどまらず、全ての企業や組織に言えることだと思いますが」

「物流企業、特に大手の物流企業は拠点ごとに業務が最適化されているので、逆にせっかく規模が大きいのに規模の経済を利かせられていないことがまだ多い。そこで何かツールを導入して、ヘッドクォーターの方でデータ収集を中央集権化するだけで、実はここの営業所とここの営業所は統廃合した方が効率は良いといったことが見えてくる可能性がある。だからこそ、データを全社で統合できた企業が勝ち残っていくように感じますし、いち早く始められたところは2030年、光が見えている会社になっているのではないでしょうか」

――これまでビジネスの現場ではトップダウンから現場への権限移譲というトレンドもあったと思いますが、情報の取り扱いに関しては中央集権ではないと駄目なんでしょうか。
「駄目だと思いますね。意思決定の権限は現場でもいいかもしれないですが、情報に関しては、やはり中央で集約をしていくことが大事だと思います。振り返ると基幹システム的な部分はERP(統合基幹業務システム)が頑張ってきて、情報を中央集権化して経営の意思決定を迅速化しようということが進められてきましたが、物流の領域に関してはそうしたことがあまり波及してきていなかったので、できていない企業が多いのかもしれません」

――情報を中央集権的に取り集めていく上では、最近注目されているCLOの存在意義につながりそうです。
「これまでのお話はどちらかと言えば物流企業文脈でしたが、荷主企業はまさにそうでしょうね。荷主企業においても、それぞれの現場で、そもそも何のツールも入ってなくて、情報が全部紙で取り扱っていたり、物流企業に全部頼っているので全く情報を持っていなかったりといったところに対しては、やはりCLOなりがコミットして進めるべきマターだと思います」

※後編に続く

(藤原秀行)

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