Hacobu・佐々木社長CEOインタビュー(後編)
データとAIを活用して物流インフラの進化や業務の自動化を促進する「AI-Driven Logistics」(AIドリブン・ロジスティクス)を提唱しているHacobuの佐々木太郎社長CEOがロジビズ・オンラインの取材に応じ、物流業界でAIを人材育成などに生かしていく上で留意すべきポイントについて、持論を展開した。その後編を紹介する。

取材に応じる佐々木社長CEO
AIが人事をエンパワーする可能性も
――物流企業の方にお話を聞いていると、若い方が現場の課題への回答を生成AIですぐに見つけられるのはいいが、自身の経験値が伴ってない、非常に大変な現場を経験していないのに、先に答えだけを手に入れてしまうのは人材の育成につながるのだろうかと懸念されている声に多く出会います。率直にどのように感じますか。
「お寿司屋さんの修業に10年程度はかかると言われていることに対して、動画などを活用すれば短期間で効率的に学べるなどの意見があることを思い出しましたが、AIに聞いて迅速に回答を得た方がいいものもあるはずですし、聞いただけでは分からない、身に付かないことも存在していると思います。小売業を例に挙げれば、店舗のオペレーションはおそらく数カ月程度で理解できるでしょうし、1年程度でイレギュラーの事態にも対応できるようになる。そうしたことはAIに尋ねるのも役に立つと思います。しかし、店舗のスタッフとどのようにコミュニケーションを取るか、どのようにリーダーシップを発揮して現場をまとめていくか、といったことは経験が必要でしょう。業務の中でAIに聞くべきものと実際の経験を優先していくべきものを切り分けていかないと、AIから恩恵を受ける際の障害になってしまうかもしれません」
――今後は物流現場のさまざまな経験やノウハウをデジタル化していかないと継承自体が難しくなりそうです。
「さまざまな現場で積み重ねてきた集合知はできるだけ形式知化していった方がいいのではないかと感じています。例えば、配車業務は非常に難しいという印象があり、確かにその通りだと思います。ただ、実際にデータを分析してみると、業務の8~9割はきちんとルースベースで処理されていて、イレギュラーなことが起きて対応が難しかったのは残りの1割だったというような全体像が見えてくる。それが、配車業務全体が難しくと思われ、属人化してしまうことになりかねない。きちんとデータで分析した上で、8~9割はAIなり機械に任せ、残りの1割のノウハウを人間で伝承する。そうした切り分けが重要なのではないでしょうか」
「新卒一括採用が主流だった時代は、個々の人それぞれに合ったキャリアプランを考えていくのはコストがかかるため、どうしてもある程度、同一のキャリアを歩んでもらうことが多かった。それに対して、人材系のAIを活用すれば、それぞれの従業員の方ごとに『このキャリアプランはどうだろう?』と仮説が出てきて、人事担当の方がその提案を修正して考えていく、AIが人事をエンパワーしてくれることが広がっていくかもしれません」
――人手不足が深刻化している状況では、AIを駆使するなりしてより個人の要望に応えられるようにする方が、人材も定着してくれるし得策ですね。
「今の若い方は非常に将来に対して焦りを感じているように思います。AIが登場したことで、自分の将来は大丈夫か、今過ごしている時間は有意なのか、ということに対してすごく敏感になっている。同じ業務を長時間繰り返すといったことにはすごく抵抗を感じている。昔であれば3年間続けていれば何かが見えてくる、というような理解だったのが、今は通用しなくなっている。AIを駆使することでそうした不安に応えられるようにしていきたいですね」
「労働力の需要と供給の線が交わり、現在は完全に供給不足となっています。かつてとは全く状況が異なる中、意識を変えられている人とそうではない人に分かれているように見えます。後者に該当する人がまだ結構多いのではないでしょうか。『とりあえず人でやってみろ』と指示するマネジメント層もまだまだいらっしゃいます。マクロの構造変化がまだ腹落ちしていない。現場から距離があり、実態をよく理解できていないのかもしれません。『現場は人手不足で大変だ、大変だ』とは聞いているけれど、現場が頑張って、何とかまだ業務を回せているから『オペレーションが出来ているからまだ大丈夫』と思い込んでしまっている側面もありそうです」
――最初に、御社内でも積極的にAIを活用しているというお話でしたが、そこから得られた気づきはありますか。
「情報を中央に集約出来ている方がよりAIの恩恵を受けられるというお話をしたのですが、当初は情報を集めるために今は紙やエクセル、ファクスなどで取り扱っている業務を全てデジタルツールに置き換えなければいけないと思っていたんです。しかし、その壁を突破するのには結構時間がかかる。当社も創業から10年以上が経過し、デジタル化すべきだとお客さまに働き掛けて正面突破を図ってきたのですが、やはりまだ物流の現場ではさまざまな事情により紙やエクセル、ファクスが手放せない。そこでわれわれも発想の転換をして、AI-OCR(AIによる文字読み取り技術)を活用しようと取り組むようにしました。当社としてもAIが帳票の内容を自動で読んで理解し、配送日や品名といった必要な情報を抽出するAI-OCRサービスを今年2月に始めました。これが非常に好評をいただいています」
「帳票の形式がばらばらでもデジタルデータに変換できるということが広く受け入れられているのを見て、『まずはこれが答えだな』と思いました。現場を大きく変えずに紙やファクスをそのままお使いになっていてもいい、という既存のものを生かしつつデジタル化できるようにする方が業務効率化の進み具合は早いのではないか。特に物流は自社だけで業務が完結しませんから、相手の事情に合わせる必要があり、一気にデジタルツール導入というふうには行かないこともある。AI-OCRにする方が情報の中央集権化を早く実現できる」
「まずAI-OCRでデータを読めるようにすると、データが中央に集まるようになる。そうすると、トップマネジメントとして知りたいことが分かるようになる。データを使うことが非常に有効だと実感できる。そこからデジタルツールを利用するという順番で進めていく方が、物流のビッグデータ活用の重要性を理解していただきやすいと感じました。当社としても、今後もAIを活用したサービスを新たに開発し、物流ビッグデータの蓄積をさらに図っていきたいと考えています」
佐々木太郎氏(ささき・たろう)
1977年生まれ。2000年慶応義塾大学法学部卒業、09年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院(MBA)卒業。アクセンチュア、博報堂コンサルティングなどを経て11年にグロッシーボックスジャパンを創業。13年に食のキュレーションEC&店舗「FRESCA」を創設。15年にHacobuを創業、現在に至る。
(藤原秀行)








