【次回から大幅リニューアル!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

【次回から大幅リニューアル!】「今そこにある危機」を読み解く 国際ジャーナリスト・ビニシウス氏

最終回:あえて今、経済安全保障の重要性を再考する

国際政治学に詳しく地政学リスクの動向を細かくウォッチしているジャーナリストのビニシウス氏に、「今そこにある危機」を読み解いていただくロジビズ・オンラインの独自連載。3年以上にわたって続けてきましたが、今回が最終回となります。物流も避けては通れない、経済安全保障の重要性について、あらためて解説いただきます。なお、次回からは形式などを刷新し、新たな連載としてスタートいたします。ご期待ください!
プロフィール
ビニシウス氏(ペンネーム):
世界経済や金融などを専門とするジャーナリスト。最近は、経済安全保障について研究している。

極めて複雑な模索の真っただ中に

今日、「経済安全保障」という概念が急速に重要視されるようになっている。かつて国際社会においては、冷戦終結後のグローバル化の進展に伴い、経済的な相互依存を高めることが紛争を抑止し、相互の繁栄をもたらすという見方が主流だった。市場の効率性を最優先し、最適な場所で生産された部品を国際的なネットワークで結ぶという自由貿易体制は、世界経済の成長を牽引してきた。

しかし、現在の国際情勢はこの前提を揺るがす事態に直面しており、経済を国の安全保障、すなわち国家の生存や独立を守るための不可欠な要素として捉え直す動きが不可避となっている。

この背景にある第一の要因は、地政学的な対立の激化、とりわけ米国と中国という二大国による覇権争いである。現代の国際競争においては、従来の軍事力だけでなく、最先端の科学技術や経済力が国家の優位性を左右する決定的な要素となった。半導体や人工知能、量子技術、バイオテクノロジーといったデュアルユース(軍民両用)技術は、民間市場で巨万の利益を生むと同時に、将来の軍事的な優位性を決める性質を備えている。

そのため、技術の海外流出への警戒が強まり、国家が主導して先端技術の管理や育成、投資規制を行う動きが加速している。こうした潮流で民間企業が主導してきた自由な技術交流や市場競争は制限を受け、国家が安全保障の観点から市場介入を強める傾向が顕著になっている。

第二の要因として、グローバル・サプライチェーン(部品や原材料の供給網)の脆弱性が顕在化したことが挙げられる。新型コロナウイルスの世界的な流行や、ウクライナ情勢をはじめとする各地の武力紛争は、特定の国や地域に依存した供給網がひとたび分断された際、市民生活や基幹産業が深刻な機能不全に陥るリスクを浮き彫りにした。特に半導体のような高度な電子部品、リチウムやコバルトといった電気自動車や蓄電池に不可欠な重要鉱物、さらにはエネルギーや医薬品の原材料などが滞ることは、国家の経済活動だけでなく、社会の安定そのものを揺るがしかねない。

このような深刻な事態を受け、特定国への過度な依存から脱却し、供給網を自国内に回帰させるオンショアリングや、価値観を共有する同盟国・友好国との間で強靭なネットワークを再構築するフレンドショアリングといった構造転換が活発化している。

第三に、経済的な依存関係を手段として、他国に外交的な譲歩や自国の意向を迫る経済的威圧への対抗が迫られている点がある。不当な通商措置や輸出規制、あるいは投資の制限などを通じて、相手国の経済的な弱みを突き、政治的主張を受け入れさせようとする戦術が国際社会で顕在化している。こうした動きに対抗するためには、単一の供給源に依存しない代替ルートの確保や、威圧を受けた国を多国間で支援する枠組みの構築など、経済的な強靭性の向上が各国に共通する極めて重要な課題となった。

このように、経済安全保障の重要性が高まる一方で、この概念を追求することに伴う副作用や課題についても議論されている。過度な囲い込みや輸出入の規制、保護主義的な政策の採用は、これまで世界経済の発展を支えてきた国際分業による経済的な効率性を著しく損ない、生産コストの構造的な上昇や世界経済全体の成長鈍化を招くという懸念が強い。また、自国の安全保障を最優先するあまり、気候変動対策やパンデミックへの対応といった、地球規模の課題における国際協調の枠組みが機能不全に陥るリスクも指摘されている。

現代の経済安全保障を巡る潮流は、国家の存立や国民の安全を確保するという安全保障上の要請と、国際貿易による経済的な効率性や繁栄という、相反しかねない二つの価値のバランスをいかに取るかという、極めて複雑な模索の過程の真っただ中にあると言える。各国は、過度な排他主義に陥ることなく、自国の経済的な自立性を高めるための制度設計と、国際的なルールに基づく協調体制の維持という二面的なアプローチを両立させることが求められている。はたして日本はその難題をクリアすることができるのか。引き続きウオッチしてきたい。

(了)

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