マテハンメーカーのタクテックとピッキング作業見直しを相互に提案、「生産性30%改善」達成
未曾有の人手不足など課題山積の物流業界でピンチをチャンスに変えようと、省力化や生産性向上などに果敢に取り組む物流施設を紹介するロジビズ・オンライン独自リポート。第7回は、国内有数のファッション通販「SHOPLIST.com by CROOZ」を運営しているCROOZ SHOPLISTが神奈川県相模原市に構えている基幹物流センター「SHOPLIST LOGISTICS CENTER」にスポットを当てる。
ピッキングの生産性向上へマテハンメーカーの先進的な機器を導入。しかし、メーカーに丸投げせず協働して積極的に改善を提案し続け、当初立てたハードルが高めの目標を見事にクリアした。失敗を恐れない自発的な姿勢がEC物流の基盤強化に結実している。
「SHOPLIST LOGISTICS CENTER」の外観(CROOZ SHOPLIST提供)
人手不足対策へデジタルピッキング採用
「SHOPLIST LOGISTICS CENTER」はラサール不動産投資顧問が2017年に開発した延床面積約4万5300平方メートルの物流施設の全フロアを賃借。年間450万件以上のBtoC出荷を手掛けており、同社のEC物流の基幹的存在だ。
今後もEC市場は中長期的に成長が見込まれる一方、物流現場の人手不足が深刻化しているため、業務の効率化が日常的な課題となっている。
SHOPLISTは改善策の1つとして、ゲートが開閉することで仕分けのミスを防ぎ作業スピード向上につなげるGAS(ゲート・アソート・システム)などを手掛けているマテハンメーカーのタクテックと提携し、デジタルピッキングを導入することを決定、作業の生産性向上にチャレンジしている。タクテックが2019年に開発したデジタルピッキングシステム「LSS(ロジスティクス・スマート・システム)」を同センターに採用した。
一般的に、通販物流の全作業のうち、商品のピッキングが50%を占めると言われている。この工程をいかに省力化するかが、通販事業者にとって成長を遂げる上で非常に重要なポイントであり、物流担当者の腕の見せ所でもある。タクテックの営業活動の経験で言うと、現在も50%以上の現場はまだ紙の書類ベースで指示が出されるピッキングが続けられているという。
タクテックはLSSを生かすことで、ピッキングの負荷を大きく減らせると強調する。LSSはスマートフォンを庫内作業スタッフ用の端末として使い、ピッキングをする。まず倉庫内の地図データを作成、その距離情報を生かし、端末に表示した地図上で目的とする商品が収められた棚まで最短の最適な経路を表示。庫内作業スタッフは指示に従って移動すれば、歩く距離を大幅に減らせるという仕組みだ。
画像がない商品に関しては、気づいた人が端末のカメラを使って撮影、システムに登録すれば他の従業員や庫内作業の管理担当者らが迅速に共有できる。まさに「集合知」を生かせる仕組みだ。センターに来たばかりの作業初心者もすぐに即戦力として活躍することが可能。作業の負荷を減らし、庫内作業スタッフの定着にもつながることが見込まれる。
LSSで活用するスマートフォンとスキャナー。スマホに表示した地図に沿ってピッキングすれば最短かつ最適なルートで商品にたどり着く。スマホとスキャナーはセット(タクテック提供)
経路最適化のイメージ(タクテック提供)
SHOPLISTも以前は紙の指示書を使ったアナログピッキングだったため、不慣れだとなかなか作業効率が上がらないといった課題を抱えていた。そのため、業務改革でデジタルピッキングへ切り替えることを決定。数社のデジタルピッキングシステムを検証した結果、タクテックに決めた。
SHOPLISTがタクテックを選択した大きな決め手は、現在の庫内システムの改修が非常に少なかったことに加え、生産性向上の成果をトライアル期間に得られ、効果の継続を確信できたからだ。実際、従来通りの紙の指示書によるアナログピッキングとLSSを駆使したデジタルピッキングの効果を比較する「ABテスト」をトライアルで実施した結果、新人の庫内作業スタッフでも十分に投資対効果を見込める結果が出たという。
改善目標達成でも歩みを止めず
LSS導入に際して、当初はSHOPLISTの現場の計測実績からタクテックの担当者が生産性改善の目標値を15%程度と提案。それに対し、SHOPLISTの担当者はその2倍となる30%を主張したという。両社が協議した結果、最終的に30%が目標として確定した。
SHOPLISTで物流業務を担当する斉藤慎吾ロジスティクス部長はその背景について「高い目標にした方が障壁となる課題をあぶりだせるからという現場の判断だった。課題をクリアできればもっと成長できるかもしれない、とチャレンジする意識を持ち、変化を躊躇しないことを当社は重視している。ロジスティクス部も現場の若いスタッフの自主性を重視して大きく裁量を持たせているが、今回の件でも非常に意欲的に、タクテックさんとも協力して取り組んでくれた」と語る。
また、タクテックとしてはピッキングするために必要な庫内地図などのデータをLSSに入れるまでに、WMS(倉庫管理システム)やWCS(倉庫制御システム)などSHOPLIST側で倉庫を管理するシステムを改修することを前提に考えていた。しかし、SHOPLISTからは「インターフェース互換アプリを作りWMSとWCSを改修しなくても導入できる仕組みが作ることができないだろうか」と提案。タクテックも応じ、結果的に互換アプリが完成、大幅なシステム改修を回避して初期投資を大きく抑えられた。
他にも、以前は物流現場にLSSを入れるのに伴い、地図作成からデモ開始まで2カ月程度有していたが、タクテックとSHOPLISTが協議を続ける中で「1カ月でやろう」と意見が一致。通常はタクテックがデジタルピッキングの前提となる庫内地図データの作成を担っているが、SHOPLISTも庫内で一緒にメジャーや歩行計測器を持って距離を測定し、データ作成をサポート。現場の密接な協力により、関係者が目指した通り、普段の半分の期間で作り上げることができた。
2022年のLSS本格導入後、ピッキング作業の生産性30%改善の目標値は想定通り達成した。しかし、それだけで両社は満足することなく、その後もより歩く距離を減らせるよう地図上のスタート位置を変えたり、人が通る経路を見直したりすることを検討するなど、常にLSSの機能と活用方法改善に取り組み続けている。
LSSを使ったピッキングの様子(CROOZ SHOPLIST提供)
タクテックとしても、従来はLSSについて、オンプレサーバーが現場にあるものという固定観念で現場導入の提案を進めてきたが、SHOPLISTの経験を通じ、サーバーをクラウド化して運用することも可能と気づくなど、顧客の要望に応じてより柔軟に対応できる体制の確立につながった。現在はクライアントへLSSを導入するまでの工数は、SHOPLISTとの取り組みによって、それまでの2~5カ月から約半分の1~3カ月で済ませられるようになったという。
斉藤部長はこうした作業改善の流れを「SHOPLIST側のIT会社としての知見と、物流部門の中にある変化に強い現場を作る思想から出てきたものだ」と説明する。一連の取り組みはタクテックとSHOPLISTの双方に大きなメリットをもたらす現場改善となった。
斉藤部長は併せて、「今後さらに伸び続けるEC市場の中で、物流改善を進める上で意思決定のスピードを高めるとともに、失敗を成功のプロセスと考えて前向きに現場改善していくことが、通販物流としては重要だと認識した」と振り返る。引き続き、そうしたことを原則に掲げ、継続的に生産性向上や負荷軽減を図る方針だ。
斉藤部長
(藤原秀行)