社員の多様性確保に腐心、ロボット事業の海外展開にも意欲
物流現場向けロボットの開発などを手掛けるラピュタロボティクスの創業者、モーハナラージャー・ガジャン代表取締役CEO(最高経営責任者)はこのほど、ロジビズ・オンラインの単独インタビューに応じた。
同氏はスリランカ出身で、日本の東京工業大学でロボット工学を専攻し、スイス連邦工科大学チューリッヒ校で博士号を取得、2014年にラピュタロボティクスを設立した。同氏は20カ国以上から社員が集まってきている現状に言及し、事業の成長持続へ多様性の確保に今後も腐心していく姿勢を示した。
また、ロボット事業は今後1~2年、日本で基盤固めに注力するとともに、その後の海外展開本格化にも意欲をのぞかせた。インタビュー内容の後編を掲載する。
自社製AMRと撮影に応じるラピュタロボティクスのガジャンCEOと森亮執行役員
日本の顧客と架け橋になるバイリンガル人材に着目
――御社は20カ国以上の国籍を持つ従業員が約120人在籍しているとうかがいました。それぞれの方のバックグラウンドもかなり違うと思います。そうした多様性豊かな環境は意識して作られたのでしょうか。
「特にソフトウェア開発に関しては、なかなか日本だけで必要な人材を採用するのが難しいので、積極的にインターナショナルで採用しています。最近は意識がたいぶ変わってきましたが、日本でスタートアップにまでエンジニアの方々に目を向けてもらうのは簡単ではありません。ただ、一方で今はお客様のほとんどが日本の方ですので、エンジニアが日本のお客様が抱えている問題を正しく理解することも非常に大事だと思っています。そういう意味では積極的に日本のエンジニアも採用しないといけない。外国語と日本語のバイリンガルで、日本のお客様とわれわれの架け橋になるような人材を積極的に採用していきたいと思います」
――従業員に関しては、成長を見込んでかなり大幅に拡充されますか。
「人材は増やしたいですが、急激に人数を拡大させる予定はありません。それよりはロボットをもっと増やさないといけません(笑)」
――御社の多様性を重視している取り組みの1つに、このたび東京都江東区木場で新たに開設したオフィス「木場支社」内に設けている社員食堂「Gina’s Lounge(ジーナズ・ラウンジ)」の存在が挙げられると思います。日替わりのランチメニューは和食を中心にベジタリアンフードなど、社員の様々なバックグランドに配慮したものを提供しており、全ての社員が気軽に集まってランチタイムを過ごすことができるよう配慮しているのがユニークです。スタジオジブリの著名なアニメ映画「紅の豚」に出てくるマダムジーナが営んでいたレストランに、世界中からパイロットが集まり、食を通した活発なコミュニケーションが行われていたことを受け、そんな場にしたいとの思いが込められているそうですね。CEOご自身、今のような社員食堂を導入されることにこだわったのでしょうか。
「昔から火の周りに人が座り、食事を取りながら話し合うことで新しいアイデアが生まれてきました。そうした環境を整備すれば、多様な社員同士で相手のことをより深く知り、距離を縮められます。ぜひそうした場を作りたいと考えました。和食を提供することで外国出身の社員に日本のことを知ってもらい、健康的な食生活につなげていってほしいという考えもあります」
――多様性重視の社員食堂というアイデアは以前からお持ちだったのでしょうか。
「同じ江東区内にある『平野本社』でも一応、社員食堂を開いていたのですが、新たなオフィスに移ってから、さらにスペースを大きくしました」
――まだオープンしてから間もないとは思いますが、今のところ社員の皆さんの反応はいかがですか。
「料理は外部の業者の方に作っていただいたものを温めて提供しているのですが、反応はいいと思います。社員によっては量がまだ足りないようで、そこは改善点ですね(笑)」
新たに導入した社員食堂。オフィススペースと隔てるパーティションなどがなく、気軽に立ち寄ることができる
インド拠点のスタッフが来日、直接交流
――多様性に配慮し、社員の方々がより力を発揮できるようにするための環境整備で今後お考えになっていることはありますか。
「当社はインドに連結子会社のオフィスがあり、40人ぐらいが在籍しています。昔は日本のわれわれともよくやり取りをしていたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大でなかなかコミュニケーションを取るのが難しくなってしまいました。そこで最近、初めての取り組みとして、インドのオフィスから社員を日本に迎え、交流を図っています。現場を見てもらったりもしているんです。自分たちが開発したソフトウェアがどのように動いているか、現状は何が課題なのかといったことを自分の目で見てもらうようにしています」
「実は会社を始めてすぐくらいの時には海外の社員たちとそうした形で交流していたんです。初めて会う人もいますし、顔を合わせて意思疎通することでものすごく新しいアイデアが生まれたり、お互いの信頼関係が深まったりしました。とても有効なことだと思います」
――今後、海外展開の可能性は?
「詳細はまだ申し上げられないのですが、国外での拠点新設など海外展開を加速させていくことも検討しています。海外でも物流現場の自動化・省人化が求められていますので、われわれのAMRなどが活躍できる余地はあると思います」
――例えば、既に物流現場でロボットなどの自動化機器が広く使われている中国はいかがでしょうか。
「当社のAMRは簡単に言うと、1人に3台を付けて生産性を2倍に高めるというのが基本なので、生産性の改善を考えた時に、やはり人間のスタッフの時給との比較が重要になるんです。その点では、中国はまだ物流現場で働かれている方々の時給が高くないので、現状は当社のAMRを広く納入していくのは難しいと思います。もしアジア太平洋地域で考えるのであれば、おそらくオーストラリアやシンガポールなどが対象になるのではないでしょうか」
――海外の展開にはかなり注力していきますか。
「そうですね。ただ、おそらくここ1、2年はまず日本で基礎を固めていく時期で、海外での展開拡大はそれからになると思います。まず日本からですね」
(藤原秀行)