人との“協働ロボット”実用化に懸ける・宮田啓友代表取締役
トラックドライバーや物流センターの作業スタッフなど広範囲に及ぶ人手不足は改善の兆しが見えない。一方でeコマースの荷物は増加が続き、グローバル規模でロジスティクスを効率化することも求められている。
物流業界には課題が山積しているが、「変革する余地が大きい」とプラス思考で捉え、先端技術で窮状を打開しようとする動きも盛んだ。ロジビズ・オンラインは2019年、こうした潮流を継続してウオッチし、プレーヤーたちの熱い思いを随時お伝えしていく予定だ。
第1回は人と“協働”が可能な物流ロボットの実用化に懸ける15年創業のベンチャー、GROUNDにスポットを当てる。
中堅・中小企業の現場も変革
「ここ数年で一気に市場のニーズが醸成されてきたように見える。われわれに対する期待も非常に高まってきている」――。同社の宮田啓友代表取締役はこれまでの物流ロボット開発の歩みを振り返り、確かな手応えを感じている。
宮田代表取締役(GROUND提供)
GROUNDが物流業界などで大きく注目されるようになった契機の1つが、物流ロボット「Butler(バトラー)」の取り扱いだ。インド発祥のスタートアップ企業GreyOrange(グレイオレンジ)が開発。商品を収めた専用棚の下に自動で潜り込んで持ち上げ、ピッキング担当者の元に運んでくる。GROUNDが日本国内で販売代理店を務め、ニトリやトラスコ中山の物流センターへ納入するなど実績を挙げている。
ただ、やはり物流ロボット導入に際してはバトラーに限らず、まだまだ初期費用の大きさがハードルとなる側面は否定できない。物流業界からも「購入するにしても金額の桁が想定と1つ違っている。もう少し安くならないと手が出せない」(運送大手関係者)といった悩みの声が聞かれる。
宮田氏は三和銀行(現三菱UFJ銀行)からデロイトトーマツコンサルティングに移り、大手の流通業を中心に数々のSCM改革へ参画。その後はアスクルと楽天で日本国内の物流センター運営などに携わってきた。現場を見つめてきた経験を踏まえ、顧客企業の規模や取り扱っている商品などによって、異なるアプローチを取ることが必要と確信している。
宮田氏から感じるのが、大手はもちろん、中堅・中小企業の物流現場も変革したいとの思いだ。「現場では人手不足を補いたいと非常に強く感じているが、3PL事業者の方々としては荷主企業との契約期間以上に大型投資をするのは難しい。そうした事情を考えれば、開発に当たっては発想を柔軟に変えることも不可欠」とユーザー目線を重視する。
「第3の画期的な在庫管理手法」目指す
現在開発を進めている物流ロボットは、顧客企業のWMS(庫内管理システム)と連携して商品データを把握。センサーやカメラ、レーザーを活用し、ピッキングの対象となる商品が収められた棚へ自律的に移動する。庫内スタッフはロボットに追従し、端末に表示された商品を指示された個数だけピッキングしてカートに入れる。するとまた次の商品へロボットが導いていく――との流れだ。
現状の棚のレイアウトを基に最適ルートをはじき出すため、従来のロボットのように、導入に際して庫内のレイアウトを抜本的に見直すなどの大きな手間を必要としないのが大きな強みだ。ロボットが先導してくれるため、新人の庫内スタッフでもスムーズにピッキングできるのも魅力となる。
GROUNDはこのロボットを、現在ある環境を前提として人間と協働することを目指す「AMR」(Autonomous Mobile Robot)タイプと説明。バトラーのようにロボットが棚を運んでくるような「GTP」(Goods-to-Person)タイプとはコンセプトが対照的だ。
「世界のマーケットは大きく言うとこの2つのタイプで分かれている。現場の完全無人化は相当先のこと。いかに今働いている人たちとロボットが協働していくかを考えることが重要。われわれとしても両方のタイプに力を注いでいくことで、さまざまな現場に対応できるようにしていきたい」と宮田氏は語る。
AMRロボットを作業スタッフ1人当たり3台割り当てることでピッキングの作業効率は2倍程度高められると見込む。今夏には初めて顧客に納入する予定だ。GROUNDでは発売1年目の19年中に5~10社への販売を目指しているが、引き合いは非常に活発という。
GROUNDで開発している新たなAMRタイプのロボット(同社提供)
協働ロボットと並行し、GROUNDでは独自のWES「DyAS」の開発にも注力。多数のAMRロボットを統一して効率的に管理できるようにする構想を立てている。「われわれがやろうとしてるのは、固定ロケーション、フリーロケーションに続き、在庫の効率的な保管場所をシステムが指示していく第3の在庫管理手法。既存の手法のウイークポイントを克服できる画期的なことだと思っている」と宮田氏は笑顔を見せる。
プラットフォーム構築が生き残りに必須
GROUNDは当面の目標として、物流現場全体を先端技術で変革する「インテリジェント・ロジスティクス」を掲げる。それだけに、ピッキング現場だけでなく、その先の変革ターゲットも見据えている。
「われわれが今考えているのは、ピッキングした後、梱包や2次仕分けといった次の工程までの商品搬送を無人化するということ。われわれのR&Dセンターで実証実験を重ねた後、荷主企業にトライアルでお使いいただき、さらにマーケットインしていくことを想定している」と宮田氏は説明する。入出荷などのビッグデータを分析、活用することも視野に入れる。
ではその先には何があるのか。宮田氏は「さまざまな企業などのお力も借りてオープンな物流のプラットフォームを構築し、関係者が互いに利用、共存できるエコシステムにしていきたい」と説明する。背景にあるのは「そうした仕組みを実現しなければ日本は恐らく物流網自体を維持できなくなってくる」との強い危機感だ。GROUND考案のシステムが日本の物流を救う“プラットフォーマー”になっていけるのか、関係者との連携がさらに重要な役割を果たしそうだ。
(藤原秀行)