特別調査委が報告書で認定、社側調査でエンジン5機種に新たな性能未達確認も
日野自動車は8月2日、日本市場向けのトラックとバス用ディーゼルエンジンの排出ガスや燃費に関する認証申請に不正行為があった問題で、社内に設けた第三者による特別調査委員会(委員長・榊原一夫元大阪高等検察庁検事長)の調査報告書を公表した。
報告書は、国土交通省から2016年、三菱自動車工業の燃費データ不正が明らかになったのを受け、道路運送車両法に基づき認証取得時の排出ガス・燃費試験に関する不適切事案がないかどうか報告を求められた際、日野自動車が不適切事案はない旨の、虚偽の説明をしていたと認定。
車両用ディーゼルエンジンについては、排出ガス関連は平成15年(2003年)排出ガス規制以降の幅広い機種で主に劣化耐久試験に関する不正行為が、燃費関連は重量車燃費基準が導入され税制優遇制度の対象となった平成17年(2005年)排出ガス規制以降、主に大型エンジンで燃費測定に関する不正行為がそれぞれあったことが分かったと指摘した。平成15年の規制に対応するために03年ごろから不正に手を染めていたことになる。
建設機械など向けの産業用ディーゼルエンジンについても、排出ガスの面で、平成23年(2011年)以降の幅広い機種で、やはり主に劣化耐久試験で不正行為が判明したと説明している。不正行為は法律で定めている試験方法に従わなかったり、燃費や排出ガスの濃度が実際より良く見えるようデータを改ざんしたりしていた。調査報告書はその背景として、当時の役員が燃費性能の目標達成を強く求めたことなどを挙げている。
日野自動車は今年3月、最初に不正行為の存在を公表した際、不正行為が始まった時期を16年秋以降と説明していた。実際には少なくともはるか前の2000年代前半から続けられており、当初の説明より範囲も広がった。同社の不正行為の悪質さと深刻さが浮き彫りになった格好だ。
なお、日野自動車が特別委の調査と並行して技術検証を進めたところ、3月時点で公表した内容に加えて、車両用ディーゼルエンジン2機種、産業用ディーゼルエンジンも3機種で新たに性能が規制で定めている水準に達していないことが分かったという。不正行為の対象となる車両は少なくとも約56万6900台に上る見通し。
日野自動車は調査報告書の内容を国土交通、経済産業の両省に報告。両省は再発防止策の策定を指示した。エンジンの新たな性能未達の疑いが発覚したのに伴い、国交省は近く、日野自動車に立ち入り検査を実施する。
記者会見の冒頭に謝罪する日野自動車の小木曽聡社長
2003年以前から不正継続の可能性も
東京都内で記者会見した独立調査委員会の榊原一夫委員長(元大阪高等検察庁検事長)は不正が長期にわたり続いていた背景について「上意下達が強過ぎ、上に物を言えない体質だった。技術力よりも適切なプロセス管理ができていない、どちらかというとマネジメント系の課題が大きいと考えている。開発・出荷段階の相互チェック機能が弱く、不正を発生できず温存されていった」と分析。2003年以前から不正が続いていた可能性があると指摘し、組織体制に根本的な問題があると強調した。
同時に、役員ら上層部の関与については「個別具体的な不正を認識していた証拠は見つからなかった」と説明。親会社がトヨタ自動車になったことによる不正発生への影響についても「直接影響した証拠は見つけられなかった」と語った。
会見する榊原委員長(中央)ら独立調査委員会メンバー
独立調査委員会の後に記者会見した日野自動車の小木曽聡社長は冒頭、「多くのステークホルダーに多大なるご迷惑、ご心配をおかけしていることを深くおわび申し上げる」と謝罪。「全社横断で品質マネジメントの体質構築、企業風土の改善、健全なガバナンス体制確立を図る。推進体制含め3カ月めどに具体的な取り組みをまとめる」と述べた。
経営責任を問われたのに対しては「私も含めた現在と過去の経営陣について報告書の内容を精査し、責任所在を見極め、厳正に対応を決めていきたい」と語ったが、自分自身の進退については明言しなかった。影響を受けているトラックユーザーには「ただただ申し訳ない。社員をお客様のところに派遣し、困りごとを広く聞いて回っている。販売会社とも協力し、できるだけの対応をしていきたい」と陳謝した。
会見する小木曽社長
(本文・藤原秀行、写真・中島祐)