求貨求車のビッグデータ活用、需給状況踏まえて有力な判断材料提示する狙い
物流DXを手掛けるベンチャーのascend(アセンド)は8月4日、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が推進する国家プロジェクト・第2期スマート物流サービス・物流のビッグデータ利活用の研究開発領域で、「運送業界におけるダイナミックプライシングエンジンの構築」の実証実験事業者に採択されたと発表した。期間は今年の12月まで。
全日本トラック協会の調査によると、約6割の運送事業者は、営業利益ベースで赤字経営を強いられている。国土交通省は、原価を元に運送会社が適正な利潤を得られるよう、2020年に「標準運賃(目安としての適正賃金)」を告示。現行の「標準的な運賃表」は地域ブロックごとに、走行距離と車種を基に運賃を規定しているシンプルな対応表のため、荷物の内容や季節性なども加味し、より実態に即した標準運賃を打ち出すことができるプライシングモデルの必要性が高まっている。
トラックドライバーの長時間労働規制が強化される「2024年問題」が差し迫る中、ドライバーの稼働可能時間・距離の減少に伴い、運送事業者は売り上げ低下が避けられないとみられ、赤字経営に苦しむ運送業界をいかに構造転換させるかは国の政策の焦点の1つになっている。
ダイナミックプライシング(変動料金制)は需要と供給のバランスに応じてサービスの価格を変動させるもので、ホテルや航空業界などで導入が進んでおり、近年は小売業界や美容院などでも社会実装され始めている。
今回の実証実験は、実在する数種類の求貨求車システムのデータを活用し、荷物の発送・到着の地域、荷物の種類など、より運送サービスごとの価格設定を、幅を持たせる形でAIが算出するエンジンを開発することを目指す。下限値はコストベースで算出し、上限値はバリューベースで設定することで、運送業の実態に即したプライシングを、幅を持った形で提示し、「適正な価格」について有力な判断材料の1つになり得る仕掛けを整備することを目指す。
ダイナミックプライシングのイメージ(左)。右は国交省の「標準運賃」
実証実験の期間・今後の展望
・期間:〜2022年12月まで
・展望:ダイナミックプライシングエンジンを開発することで、より適切な価格設定で取引のなされるフェアな経済社会の実現に向けて、さらなる取り組みを行う
(藤原秀行)※写真はascend提供